デリカシーの無いろくでなし
(まあ、最悪、八峡が何とかしてくれる)
と、楽観的にそう思っていた。
包帯を巻きながら八峡義弥は脱いだ服を着込んでいく。
完治するのに一週間は必要であろう傷でも、九重花家の薬を塗り込めば比較的傷の治りが早かった。
恐らくはこの程度の怪我ならば一晩寝るだけで傷は癒えているだろう。
「やー、助かったわ、ありがとな、百合千代」
八峡義弥がそう言いながら再び棚の中を探している。
この保健室に置かれている薬は鎮痛剤なども置かれていた。
適当に錠剤をひと箱取り出すと八峡義弥はその薬をポケットに入れて盗んだ。
「いや、別に良いけどさ…まあ、元気になって良かったよ」
思川百合千代は八峡義弥の姿を見て言った。
「じゃあ、ボクは戻るね」
「あ、待てよ、折角だし遊びに行こうぜ」
八峡義弥は屈託のない笑みでそう言った。
思川は八峡の底なしの体力に脱帽する。
あれほど死に掛けていたのに、もう遊べる程に回復したことに。
「ちなみに、何処に行くの?」
思川が遊びに行く場所を伺う。
八峡義弥は少し考えて。
「ラーメン食い行こうぜ」
「いやだよ」
すぐに拒否される。
「ボクはあんまりお腹は空いてないから」
そう言った。
ならば、と八峡は食い下がる。
「喫茶店行こうぜ〈雨の日の午後〉、生憎と雨は降ってねぇけどよォ、あそこのミートパイはうめぇんだわ」
と八峡義弥が舌なめずりをしていった。
ホールの一切れ分の量ならば、軽いお菓子感覚で食べる事も出来る。
思川百合千代も、それを聞いて想像する。
(ミートパイ…や、でも体重が増えちゃうし…)
思川百合千代は男装をしていても女性としての価値観を持っている。
自らの体重を気にしてしまうのも、そうした性質だとしか言いようがない。
「此処まで運んでくれたからよ、まあ、お礼だ」
と、善意で言って来るので、思川はそれを否定する事は出来ない。
それは彼女なりの優しさであり、基本的に断れない性格であったから。
「もう、しょうがないなぁ、じゃあ、行くよ」
仕方なしと言った具合で思川が頷く。
八峡義弥は笑みを浮かべながらちょろまかした薬を口の中に含む。
「んじゃ、行くか」
そう言って、八峡義弥は保健室を後にした。
「ところで、お前そんな食って太らねぇの?」
「…八峡、最ッ低!!」
喫茶店で、彼女を傷つける一言を言う八峡義弥だった。
思川百合千代との喫茶店満喫をした帰り。
「やあ、我が友よ」
永犬丸統志郎が八峡義弥の部屋へと来る。
八峡義弥は永犬丸を出迎えて適当に部屋に座らせた。
「今日は任務だ、改めて打ち合わせでも、と思ってね」
そう言って永犬丸統志郎が資料を八峡義弥に渡す。
中世派の連中が残した研究秘録の産物を祓うのが八峡義弥ら学生祓ヰ師の役目だ。
「なんの
八峡義弥がそう尋ねる。
資料を適当にバラバラと捲りながらも、予め資料を読み込んでいる永犬丸に聞いた方が早かった。
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