式神たちとろくでなし
〈牙餓丸〉がコートの袖の中へ吸い込まれていった。
八峡義弥は頷くと同時に更に指を絡めて印を結ぶ。
新しい式神を召喚させようとしていた。
「だからと言って、どうという訳でも無い」
タンッ、と軽く地面を蹴る音が聞こえた。
直後として八峡義弥の視線から贄波教師が消える。
(縮地ッ)
八峡義弥がそう認識して回避に専念すると同時。
八峡義弥と式神の合間に贄波教師が出現すると。
贄波教師が靴底を滑らす様に足をズラす。
その瞬間、八峡義弥と式神は、見えない波に衝突した。
(ッ、発勁ッ!)
八峡義弥と式神の距離が離れる。
見えない波に圧されて八峡が軽く宙に浮かぶ。
式神が早く態勢を立て直して八峡を守ろうとするが。
それよりも早く贄波教師がナイフを構えて八峡義弥の首を切ろうとする。
「ん」
だが贄波教師はその攻撃を中止して手を止める。
少し離れて贄波教師はナイフの刃に触れる。
指が引っ付く程に刃が凍えている。
贄波教師は瞬時に察した。
「式神か、あの剣士の効果か?…いや、お前、もう一体居るだろ」
贄波教師はそう結論付けた。
八峡義弥は既に憔悴しながらも笑みを浮かべる。
「
その言葉と共に、八峡の後ろに隠れているものが出てくる。
既に八峡義弥は二体目の式神を出現させていた。
「ひゃ、ひゃ。ひゃ…ひぃひゃま、ひぃひゃま」
その式神は女性型で、白い着物を着込み、白銀の髪の毛を靡かせる線の細い女性。
目線は術符で塞がれ、罅割れた傷跡が残る口が特徴的な式神。
それが式神・悌冰。
冷気を操る式神だ。
(今ん所は二体が限界ッ他は先生の前じゃ不利、この二体で今までの詫びを入れさせてもらおうかァッ!)
八峡義弥がこの二体の式神を操り、贄波教師を攻略しようとする。
贄波教師は少し面倒臭そうに溜息を吐いて。
ナイフを構えた。
「行けッ!」
八峡の言葉に式神・義劔が走り出す。
狙いは贄波教師に向けてだ。
八峡教師は再び縮地を使う。
(姿が消えたッ縮地かッ距離を詰めてもッ悌冰で対応ッ)
接近戦になった場合、それに対応させる為に八峡は悌冰を抱き締める様に守らせている。
近づけば、式神・悌冰の冷気で凍結させる算段だ。
だが、贄波教師の姿は無く。
(何処に言った?逃げた?まさか、そんな筈は)
周囲を見回す様に探して、八峡義弥はようやく贄波教師を確認した。
贄波教師は八峡義弥に近づかず。
グラウンド端の自販機へと移動していた。
(小休憩でもしようってか?それともその姿を見せる事で慢心さをアピールか?俺の怒りを買わせ、判断力を鈍らせるか…いんや、流石に、そんな真似はしないよな?)
八峡義弥の考えは当たっている。
贄波教師は自販機に触れると。
それを持ち上げる。
片腕で、恐らく神胤を肉体に巡らせているのだ。
軽々と持ち上げて、贄波教師は縮地を行う。
その自販機ごと。
八峡義弥は瞬時に理解してその場から離れようとする。
そして次の瞬間に、贄波教師が出現して自販機を八峡義弥に向けて投げた。
式神・悌冰が冷気を操る能力、生物に対しては必殺に近い能力を持つが。
無機物に関しては、その能力はただ物質を冷やすものでしかない。
八峡が無理に動いて自販機を回避した為に、式神・悌冰が離れてしまう。
(やべッ!義劔はッ遠いッ、クソッ、取り敢えず一撃は凌がねェどッ!?)
そして、八峡義弥の背後に縮地で移動した贄波教師は。
ナイフで八峡義弥の首を深く突き刺して横に強く引く。
血が噴き出して八峡義弥が地面へと倒れた。
自らの血液に溺れながら、八峡義弥は首を掴みながら絶命した。
贄波教師は八峡義弥が死亡した事で、周囲の式神が消滅するのを確認すると、コートの懐からスキットルを取り出して酒を煽る。
そして一服を終えると、贄波教師は八峡義弥の方へと向かい、首に突き刺さるナイフを引き抜く。
「強くなったじゃないか、見直したぞ」
そう言って、贄波教師は復活する八峡義弥にそう言葉を捧げる。
長年スパルタ教育をしてきた教師の褒めの言葉に対して八峡義弥は嬉しく思えなかった。
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