鬼畜教師とろくでなし

九重花久遠との出会いを終えて、朝を迎える。

あさがお寮へ戻った八峡は朝食を取り、部屋で暇を潰すと学園へと向かうのだった。

珍しく、八峡義弥はやる気に満ち溢れている。

そのやる気は、自分が死ぬ事など微塵も思わない程に、ポジティブだった。

だから、八峡義弥は、実力を試す為に。

ある男と、訓練をするのだった。

グラウンドに立つ、八峡義弥と黒コートの男。

懐からスキットルを取り出すと、口を付けて傾ける。


「今日は逃げないのか?」


片手にスキットルを握り、アルコール摂取をしたダメ人間が八峡義弥を見ている。

この学園の教師と言うよりも、雇われたヒットマンの様だ。

それでも、この男はこの学園の教師だった。

名前は贄波にえなみ阿羅あら

対人戦タイマン最強〉と。

周囲からそう認知されている男だった。

「逃げても殺すでしょうに」


八峡義弥が冷や汗を掻きながら言う。


「立ち向かっても殺すがな」


贄波教師はそう言って再びスキットルを煽る。

程好くアルコールを摂取出来たのか、蓋を締めてスキットルをコートの中に仕舞った。


「今日は勝ち越して破戒してもらいますよ、先生」


「寝言が言える様になったのか、良かったじゃないか」


懐から士柄武物のナイフを取り出す。

投擲を兼ねたナイフは先端へ向かうにつれて細くなっている。


「今日は良い天気だ」


「死ぬには良い日すね」


「お前がか?」


「先生がですよ!」


そう啖呵を切ると同時。

八峡義弥は後方へと逃げていた。

式神を召喚するのに時間が掛かる。

その為に数秒でも時間を稼ぐ必要があった。

だが普通に考えて贄波教師がそのセオリーを知らないワケが無い。

贄波教師の袖から鋭い刃が伸びる。

刀の切っ先の様な刃に多くの繊維が結合して別の刃に繋がっている。

蛇腹の様な刃をした士柄武物、〈牙餓丸ががまる〉だ。

腕を振ると同時に〈牙餓丸ががまる〉が伸びていく。

それは八峡義弥を狙う様に繊維が伸長すると、八峡義弥の首を容赦なく狙っている。

牙餓丸ががまる〉が八峡義弥の首に触れようとした直後、その首が消える。

八峡義弥は垂直に飛んでいた。

飛んで蛇腹の刃から逃れたのだ。

八峡義弥は指を絡めて印を結ぶ。

式神を発令させようとしている。

贄波教師は腕を動かす、その動きに合わせて〈牙餓丸ががまる〉が変則的な動きを見せた。

確実に八峡を外した軌道だが、まるで生物の様に八峡義弥に向けて切っ先が狙い出す。


「〈義劔ぎけん〉ッ!」


だが、八峡義弥もまた、術式を発動していた。

かちりと何かが開き出す。

地面からぬめりと出て来たのは一振りの太刀。

其処から包帯に包まった腕が伸びて、最後には着物服を着た包帯姿の式神が出現する。

太刀を振ると〈牙餓丸ががまる〉を弾いた。


「(あ、ぶねぇ!発動するまえに終わるかと思ったわッ!)…さ、さぁてそんじゃ、始めましょうか」


ここからが戦いだと八峡義弥が笑みを浮かべる。


「何を始めるんだ?お前の敗北か?」


贄波教師は、何時もと変わらない様子でそう言った。


「それがお前の式神か」


贄波教師は腕を伸ばす。

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