第9話

「安心して。今この空間には二人きりだよ。そいつがいるのはあっち」


芹の視線の先を辿っていく。


大きな本棚が壁一面にあり、英語やフランス語など、様々な言語の本が所狭しと並んでいる。


本棚にどうやって人が?


いつの間にかドライヤーは終わっていて、私の両肩に置かれた手が重く、喉がゴクリと鳴る。


「…何したの?」


「心配?不安?恐怖?それは俺に向けた感情?それともそこにいる人間?」


「まぁいいや、とりあえず見てみてよ」


いかにもこれから楽しい事が起きるみたいに笑う芹は、私の手を引いて本棚の真ん中へと連れて行かれた。


とある一冊の本を取り出して、その奥にあるボタンを押す。


「これね、この本だけ他の本より数ミリだけ高さが低いの。パッと見じゃ絶対に分からない。目を凝らしても見づらいかも」


そんな説明を流れるようにしながら、カチャッと小さな音が鳴り、本棚が少し開いた。


説明されても私が使う事はこの先一生無さそうなんて思いながら。

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