第4話 AI搭載ロボット
数日後、看護師は犬のケージを持ってやって来た。後ろに中年男性がついている。
「麻井さん、お待たせしました! この子が介助犬ですよ。ロボットだから病室でもオッケイです。慣れて行ってくださいね。で、こちらが開発者の権藤賢作(ごんどう けんさく)さん。では権藤さん、簡単なレクチャーをお願いします」
男性はぺこりと頭を下げた。
「初めまして。ユーティリティドギー開発研究所の権藤と申します。今回、新モデルのテストにご参加頂き有難うございます。やはりフィールドでのテストが一番重要ですから、麻井さまの元で試行錯誤してゆきたいと思います」
錯誤もあるんかい。栞は心の中でツッコんだ。
戸惑う栞を他所に、権藤はケージからロボット犬を出し、背中のボタンを押した。ロボット犬は栞のイメージしていたメカニカルなロボットではなく、全身がフェルトのような柔らかい素材で覆われていて、目の上の三つのランプを流れるように光らせると前脚を突っ張って伸びをした。権藤は、ロボット犬を抱えてベッドの上に載せる。
「名前は『ロミオ』です。家内がシェイクスピアのファンなもんですから。で、背中のスイッチがON/OFF、目の上のランプは信号機と同じで、ロミオからのインフォメーションを表します。緑ならオーケイ、黄色はパートナーさん、つまり麻井さんへの注意信号です。何か気をつけて下さいってロミオが言っていると思って下さい。赤はロミオ自身のアラートです。バッテリーの充電が必要になったら、赤色が点滅します。赤が消えない場合は、背中のボタンを長押しして再起動して頂き、それでも駄目なら私に電話をお願いします。サポートは24時間って訳には参りませんが、極力努力します」
権藤はロミオの頭を撫でる。緑のランプが一層光ったように、栞は感じた。
「AIを搭載していますし、知識データベースは実践的な筈ですが、その部分の補正は自動的に学習します。試作品ではありますが、生き物としての世話は不要ですから助かりますし、そうそう、鳴き声はクレームを避けるためオフにしています。感情はランプの輝度や目の動きで自然に感じられると思います。目は口ほどに物を言い、って言いますからね」
それ、この界隈で流行ってるの? 栞は一応頷く。
「ハーネスは付けっぱでOKです。リードは一緒に歩くときにお願いします。引っ張り方で麻井さんの意思を伝えられます。それと、充電セットをベッドの下に置いておきます。一人で勝手に充電しますからお世話要らずですよ。えっと、それで名刺をお渡ししておきます。何か疑問の際には、スマホとかお持ちだったら、写真を添付してメール頂くと、アドバイスが早くなります。何かご質問は?」
「え? いえ、えっと…」
生まれて初めて貰った名刺を手に戸惑っていると、看護師がフォローしてくれる。
「麻井さん、動けるようになるまでは、ここで名前呼んで抱っこしたり、親愛度を深めてね。リハビリに入ったら、ロミオの特性も考慮しながら理学療法士がアドバイスしますから心配要らないよ。あ、それで今回はテストですからご利用料金はありません。元々保険も利かないんでこれはラッキーよ」
「は、はい。有難うございます。よ、よろしくお願いします」
訳判らない中、栞は権藤に頭を下げ、取り敢えずロミオを抱き上げた。念願のワンちゃん生活。理由はともあれ、取り敢えずその夢は実現するわけだ。前向きに考えよう。胸の上に置いたロボットのずっしりした重さを感じながら、栞はロミオの頭を撫でた。
「ロミオ、よろしくね、よく判んないけど」
ロミオのランプは緑色に点滅した。
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