第5話 先輩って、誰と放送するんですか?!【前編】

 中間テストの散々な結果が返却された日の次の日の放課後、僕は顧問の森田先生から職員室に呼び出された。

「ああ、中村君。忙しいだろうにすまなかったね。てあれ?なんか顔色が悪いようだけど大丈夫かね?」

「お、お疲れ様です……森田先生。いやちょっとテストの結果が笑えなくて…。それより今日はどうしました?」

「これを見てほしんだ。」

 そう言われ、森田先生から一枚の紙を受け取る。そこには初めに開会式、次に全学年各クラスの名前が一年一組から三年八組まで、そして最後に閉会式と縦に順に書かれ、その横には二つずつ空欄がある表が載っていた。

「これは何です?」

「来月十一月末に合唱コンクールがあるだろう?そこで各クラス合唱の前にそのクラスの紹介と、何故この曲を選出したのかを紹介する時間があるでしょ。」

「あー、去年も各クラス壇上に上がったタイミングでなんか読みましたね。」

「そうそれ。コンクールの司会進行に加えて、放送部が紹介文を会場内に聞こえるように放送で紹介するようになっているんだが、誰がどこのクラスを読むか次の部活で決めてほしいんだ。」

「これって、もう自由に決めていいんですか?」

「そうだなあ、これまでもそうだったけど、なるべく上級生、つまり二年生が放送を担当出来るとこは全部して欲しいかな。一年生はまだ校内放送も担当してないわけだし。」

「わーかりました。なるべく二年生ということで。ってかいずれは一年生も校内放送してもらわないとなんでその選考テストもしないとですね…。」

「だね。とりあえず頼んだよ。決まったらその紙を提出しに来てくれ。」


~翌日~


「てなわけで、以上を森田先生から言われたので今日の部活は合唱コンクールの役割分担決めやるぞー。」

「私、部長とペアで放送したーいでーす♡」

「友梨佳ばっかりずるい!私も部長としたいです!」

「ですです。私も部長としたいです。」

「はぁ…。織田、松本、仲本。やる気があるのは非常にありがたいことだが一旦黙ってくれ。それに森田先生も言っていたように、二年生が合唱の番の際は、一年生の放送部員が放送担当しなきゃだが、それ以外の放送は基本二年生の放送部員のみでやるようになってるんだわ。よってお前らとペアで放送することはできんのや。すまんな。」

「ちぇーっ。」

 三人の機嫌を損ねてしまったようだ。こればっかりは顧問の意向なので仕方が無い。そう思っていると、谷口が何かに気づいたようで口を開く。

「けど、俺ら二年は三人しか居ないのに開閉会式も一年の紹介も三年の紹介も全部三人で回すんか?あまりにも負担が大きすぎないか?」

 確かに谷口の言う通りだ。全体のおよそ七割ほどの放送を、たった三人しか居ない二年生のみで回すのはあまりにも一人当たりの負担が大きすぎる。一方で一年生の部員数は十一人。全員が全員放送をしたいとは思わないだろうが、僕たち二年生だけで回すよりかは圧倒的に負担は減るだろう。

「せやな。じゃあ一年生も少しだけ担当の箇所増やすか。もちろん二年とのペアも可能にして。」

 その僕の言葉を聞いた三人は急にニッコリと笑顔になる。

「じゃあ先輩!私と組みましょ!!!」

「いや私です!」

「いやいや、私と組みましょう。」

「お前ら一旦落ち着け。じゃあ、僕とペアで放送をするのが誰がふさわしいかテストしてやる。お前ら三人、隣の器具室に来い!」

「はーい!!!」

 またもや息を揃えて元気よく返事をし、ノリノリで隣の部屋へと移る。僕も隣室へと移る前に、他の部員たちにこう告げる。

「残りの一年生部員たちは、二年生紹介のところで読みたいってとこ好きに枠埋めてていいよ。谷口はその監督しとけ。」

 そう言った瞬間、鶴見が一番に手を挙げて

「じゃあ私、部長のクラスの二年六組担当する!」

 放送室にいた部員たちはどうぞどうぞみたいな雰囲気であったが、その鶴見の言葉は最悪なことに隣の器具室にまで届いていたようで、それを聞いた三人が慌ててこちらの部屋に戻って来て全員で叫ぶ。

「そこは私が読むのおおおぉぉおおぉ!!」

 織田も松本も仲本も、どうやら僕のクラスのやつを読みたいようだが、あくまで僕のクラスなだけであって、僕自身は特に関係無いんだがな。

「お前ら我がまま過ぎるって。僕とペア組めるチャンスあるんだからそれでいいだろ!」

 織田がすぐさま早口で真面目な顔をしながら返答してくる。

「いや大好きな先輩に関連するものは全て独占しておかないと気が気でないです。」

 他の二人もその意見に頷く。僕自身は真面目な口調で言われたその言葉に少し寒気もしたが、そんなに僕のことを好きで居てくれることに少し嬉しさもあった。しかし、鶴見もどうしても読みたいのか、さらに続けて

「友梨佳たち部長とペアでやるんでしょ?じゃあそれくらい譲ってよ。私も一緒にしたかったけど、それはまず出来ないだろうなと思ってたから自分から引いたのに。」

「自分から引いたって、陽が勝手にそう思い込んで勝手に引いただけでしょ?そんなの理由になってないって。」

 僕を巡って口論が始まってしまった。僕に対してそんなに本気の好きでいる気持ちを持っているのは非常に嬉しいことだが、このまま争い続けるだけでは埒が明かないので、僕は彼女たちに提案する。

「まあいったん落ち着いて。僕から提案がある。鶴見はまあ一番最初に名乗り上げたんだから俺のクラスを読んでもらう確定にして、そして四人全員俺とルーティーンでペア回すか。そしたら解決だろ?」

 すると、四人は目を輝かせて僕を見つめる。

「え?!勝手に出来ないと思って引いた私ともペア組んでくれるんですか!?」

 鶴見が驚いた様子でそう僕に尋ねてきた。

「ああ。だってその……僕と、く、組みたかったんだろ……?」

 僕の言葉に鶴見はその場で飛び跳ね、僕の手を掴んでから感謝の言葉を言う。

「はい!本当にありがとうございます!」

織田、松本、仲本たちも続いて

「私たちもいいんですか!?」

「ありがとうございます!」

「ですです!」

「今回だけだぞ。」

 先ほど口論になっていた時はどうなることか不安になっていた僕だが、この提案によって解消され、いつもの後輩たちの笑顔が見れたので一安心。すると、鶴見が続けて質問をしてくる。

「けど、先輩のクラスの分を読むのって私一人じゃなくて二人ですよね?もう一人は誰がやるんですか?」

「僕のペア決めるために器具室でテストする予定だったけど、それを決めるためのテストに変更するか。それじゃ織田、松本、仲本。今からテストをするからおいで。」

「はい!!よろしくお願いします!」

 そうして、僕と三人は器具室へと移動する。器具室と放送室との間の扉の扉が閉まると、鶴見は放送室でボソッと呟く。

「ほんと…先輩好き…………。」

 僕と三人以外の部員たちは皆驚いた表情でしばらく顔が硬直し、少しだけ時が止まったような気がしたのだとか。



次回、部長と誰がペアになるのか?!

第6話に続く

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