3

「な……」


 九条さんが信じられないといったふうな声を上げる。


「さ――。那古野奏が、神と戦ってる」

「は――?」


 何やってるんだ。いや、奇襲? 先を越されたか――。


「どこで⁉」

「住良木神社、御社殿の一歩手前だ」

「あのアホ……」


 自分から飛び込んでいったということか、本当、何をしてるんだ。


「仕方ない、作戦変更、今すぐ、最速で住良木神社を目指す」

「九条さん、ワープは?」

「あれは一度きりだ、もう使えない」

「わかった、走ろう。私が先行する」


 手短に確認を終えると、私は何でも屋を飛び出した。

 戦略とは別として、誰一人死なせるわけにはいかない。私が責任をもって、守る。


『——聞こえる?』

『おっけー』


 妙だ。街に人が居ない。平日の昼間とはいえ、車の一台、通行人の一人ぐらいは通る。が、それが見当たらない。眠りについた街、降り注ぐ太陽、そして、道路を埋め尽くす人間が、目の前に立ちふさがる。

 人避けがされているのなら、ここに居るのは魔法使いのはずだ。だが、彼らの手には銃が握られていた。


「銃——?」


 空気の弾ける音。閃光。無数の銃弾が、私目掛けて飛び出す。


「こんなので――!」


 空気を巻き込んで、腕を振り上げる。巻き起こされた突風は、銃弾の軌道を逸らす。


『第六感は神秘を弱める。——それを抜きにしても、戦うなら魔法より銃の方が手っ取り早い、ということだ』


 銃弾は私を捉えない、はずだった。

 死角、完全な認識の外、直感が危険を告げた瞬間には、それはすでに体を貫いていた。

 狙撃、彼方からの銃弾。

 黒色で自分を覆い、欠けた部分を直す。


『六花さん。——住良木神社への最短ルートはこの道を直進。突破できそうですか』

『突破自体はできそうだけど――』

『なら、一分我慢してください。——人が居ないなら、あれが使える。2人とも、着いた? ——よし、里桜ちゃんはスタバの左の柱、次に隣の店の壁、次に……」


 充輝ちゃんが次々と指示を出していく。私はいったんビルの中へと飛び込み、銃弾の雨をしのぐ。


『よし、いいぞ、これで――』


 地響き、鈍い音と共に、地面が、崩れる――。

 駅前に広がる地方最大級の地下街。それを意図的に、全て崩壊させる。これによって町に集う魔法使い、あるいは軍隊は、しばらく沈黙せざるを得ない。


『いける、突破だ――』





   ◇




 神。その言葉に偽りはないのだろう。それはあまりに速く、強い。瞬きすら死因になりうるほどの戦力差、瞬間移動で逃げ回ることが精一杯だ。

 だが、だけど、勝てない理屈なんて一つもない。

 

「——都」


 撒いたはずだが、付いて来てたみたいだ。今回は、助かった。

 突然の雨。

 都のテレパシーで共有された知覚。それは、三人だけの世界を作り上げた。神の力の源は信仰。この世界にそんなものは存在しない。


「超能力者——。だけど、僕はそれを見ない」


 ああ、知っている。すべてを見通す瞳。この世界さえ見なければ、なにもかも元通り。だが、私は都の世界を見る。

 別々の世界を見ながら、私たちは同じ風景を見る。殺人的な神の移動速度。それは元の世界での神の動き。それに連動して神は動く。そう、認識はそれぞれでも、結果は同じ。世界は修正される。

 なら、私は神を殺して見せよう。

 今なら、この世界なら、私の攻撃が通る。そして、まだもう一つ、私自身の世界も残っている。

 眼鏡をずらし、平面の世界を見る。合わせた軸。都の隣。おそらく、神は反応しようがない速度でそこを目指す。

 眼鏡を戻す。世界の幕を一枚戻す。

 瞬間移動、都の隣、そして目の前に――。




   ◇




「勝っちゃいました」

「——」


 神であったであろう亡骸を前に、けろっとした顔で立つ那古野さん。九条さんはここで起きた事象を解説してくれているようだが、認識だとか世界だとか、何が何やらさっぱりわからない。まあ、わからなくても結果は変わらないわけだし、別にいいだろう。


「この先に……」

『ああ、御社殿だ』


 この先に有矢が居る。伝えたいことがある。

 私は賽銭箱を飛び越え、本殿へと入って行った。

 


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