4-ewo-
今シャッツの目の前にいるロイエは初めて会ったときと何も変わらない。しかしロイエの目の前にいるシャッツは明らかに成長が見られた。
「トオレットは最近変わりないかい?」
「一人転校した。家族と一緒にもっと安全な西部に移るからって。あと他のクラスの子の親戚が国境線の衝突で亡くなったって。あとはうん、変わってないと思う。授業は退屈だけど、校外学習はまあまあ楽しみだよ」
シャッツは思い出しうる限り多く答えた。
「そう。どこに行くんだい?」
「レンティーノ博物館。前にロイエが連れてってくれるって言ってたけど、交戦があって行けなかったでしょ」
「ん、そういうこともあったね。校外学習はいつ?」
ロイエは落ち着いた平坦な口調で聞いた。
「来週の今日だけど、なくなるかも。あのあたりって官邸の近くだから物騒――」
「こんばんはー、ロイエ!おっ、昨日ぶりね、シャッツ!」
シャッツの言葉は高くて快活な声に阻まれた。二人が入り口に目を向けると、シャッツの同級生であるヘルが軽い足取りで参上した。ポニーテールを揺らしながら、シャッツの肩を叩いたが、思ったより勢いが良かったせいで、シャッツは前のめりになった。
「こんばんは、ヘル」
「ヘル、昨日先生に呼び出されてたでしょ?」
シャッツは口を尖らせながら聞いた。ヘルはシャッツの向かい側の椅子に深く腰かけると、シャッツに不満げな視線を送った。うるさいとでも言うようにふっと自分の前髪を吹いて揺らした。
「別に」
「気をつけてよ。ここに来てることがばれたらロイエも僕らも困ったことに――」
「分かってる分かってる」
聞き流しているようなヘルだったが、その目はしっかと理解していた。まだ大国の支配下にはないにしても、大国の目を引かないようにレジスタンス以外の反大国と見られる集会は推奨されていない。小国内でも批判の目にさらされる。さらに言うと、大国の進軍があった時に明確に大国に反抗していることが分かれば、真っ先に殺されるだろう。逆に言えば、ロイエの元で学ぶ彼らはそのリスクを冒してまで、ここに来る意義があると思っているということだ。ここに来る理由は様々でも、確かにこの地下だけは精神的にも身体的にも安全だと思える場所だった。
またすぐに二人入ってきた。「こんばんは」と呟いて、俯きがちに入ってきたのはシュヒタン、そして不健康なほどやせ細って骨に見えるのがマーガーだ。二人は同じトオレットに通っていて家も近いため、よく二人で一緒に来ている。この二人はシャッツとヘルより一つ下のトオレット五年生である。二人は皆と軽く話を交わしながら、シャッツの隣の席に着いた。
「マーガー、今日帰る前に少し待っていてくれるかい?」
ロイエがマーガーの前まで来て優しく尋ねた。ロイエもかなり細いが、マーガーに比べれば随分普通に見えた。マーガーは言葉に詰まりながらもイエスの返事をした。その時、入口から騒がしい音が聞こえてきた。地下への階段を転げ落ちるような激しい音の後に、顔を出したのは背の高い青年だった。サラサラのブロンドヘアにきらきらとした青い目を携えて大きな声で「久しぶり、皆!」と手を挙げた。
「久しぶり、オーウェン。そんなに急がなくても、大丈夫だよ。まだレーレも来ていないしね」
ロイエの言葉に、オーウェンはほっと息をついた。上がった息を整えながら、ヘルの隣にまっすぐ向かった。
「オーウェン、この前どうだった?レジスタンスの人たちにあって来たんでしょ?」
ヘルがわくわくしながら聞いた。
「うん、ロイエ先生の紹介でね。トウショーンを卒業してから入るのがいいって言われたよ。僕としてはバイショーンを卒業してすぐでも良いと思ってたんだけど」
「へえー」
ヘルは足をぶらぶらさせながら相槌を打った。シャッツはレジスタンスの名前が出た瞬間にオーウェンから目を逸らした。すでにバイショーン三年生のオーウェンは一年後の卒業と同時にレジスタンスに入ろうとしていた。それはここにいる誰もが知っていた。それで、レジスタンスとも会ってきたのだった。シャッツは基本オーウェンのことは好きだったが、この話だけは聞きたくなかった。オーウェンがレジスタンスに入ってここに来なくなれば、この話を聞くこともなくなるかと思っていたが、どうやらそれはオーウェンのトウショーン卒業後になりそうだ。トウショーンはバイショーンの次の学校で、行く人と行かない人のどちらもいた。ちなみに、ロイエは小国で一番賢いヘイストウショーンの卒業生だということは周知の事実であった。そんなロイエが壇上に登ったことで、今日の話が始まろうとしていた。
「今日は少し考えていた内容を変えることにするよ。でもまずは小国語からいこう」
「レッツゴー、ロイエ・クラブ!」
ロイエの後に、ヘルが掛け声のように叫んだ。ロイエ含み、全員が目を瞬かせた。ヘルは突拍子もないことを言い出すことがあったが、これはその歴史に名を刻みそうなほど皆が驚いた。最初に口を開いたのはロイエだった。
「何それ?」
「なんか呼び方欲しくて考えてたの。いいじゃん。秘密組織っぽくて」
「秘密組織感出したらダメでしょ」
シャッツが苦言を呈したが、ヘルはまだニコニコ顔だった。ヘルの隣のオーウェンが声に出して笑った。それに続いて、他の皆も笑い出した。地下室に笑い声が響いて、倍ほどに聞こえた。
「何がそんなに面白んだか……」
冷たい声がした。笑い声は止み、一斉に視線が集まった。声の主は長い黒髪をだるそうに横によけた。
「レーレ、待ってたよ。ちょうど良かった」
「待たなくていいって……」
レーレは体を引きずって空いている席まで移動した。ヘルは年上のレーレを見下すような視線を向けていた。対して、ロイエは全員揃ったことに満足げに肩を震わせて水筆を取り出した。
「取り敢えずこの前の続き、小国の叙事詩を読んでいこう」
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