第2話 ハンバーガー論争

「三好? 帰りマクド食いに行かん?」


 部活帰りに三好に声をかける。


「おおええで。ええよな、マクド。たまに食べたくなる」


「へぇ、いいじゃん。ふたりで行くの?」


 声をかけてきたのは橋本だ。部活で、いやもはや学校唯一の関東人かもしれない。関西人に囲まれてなお標準語というアイデンティティを失わない自己の強さは尊敬に値する、と思う。


「そう。橋本も行く?」


「んー、俺はいいや。家の近所にマックあるしね」


 その発言を聞いて、三好が戦闘態勢を取る。


「お前……ッ、“マック派”か! 芳賀はが! かかれ!」


「いやもうその辺はしゃあないやん」


「えお前ここで戦わんくてどこで戦うん」


 戦わんくてええやろ、思わないでもないが、いや待て、と俺は冷静になる。三好の言う通りかもしれない。ここでこいつはやっておくべきか……!


「なぁ橋本。お前も“マクド派”にならないか?」


 俺は某大人気鬼退治漫画のセリフで参戦。


「見ればわかるお前の“マック”……“マック”だな?」


 おい三好その発言は意味不明だ。


「え、これ付き合わなきゃいけない?」


「いやお前そこは『ならない』でノってくるところちゃうんかい」


 橋本はめちゃくちゃめんどくさそうにえー、と言いながらも「ならない」と返事してくれる。お前優しいな?


「じゃあ逆に教えてよ。なんで関西人はマクドなの?」


「そらお前、順当に略してみ? どう考えたってマクドやろ」


 三好が自信満々に指をピッと弾きながら言う。なんか芝居じみてんな。


「でもさ、ビックマックとかあるじゃん」


「いやそんなん公式が勝手に言ってるだけやん。誰かがマックを略称として使い始めてそれを浸透させようという陰謀やんあんなん」


 ここで橋本が不敵に笑った。


「お前……! 何笑ってやがる……!」


「いやごめん。この勝負、俺の勝ちだよ」


「何……?」


「銀座にある一号店……そこが始めに出したメニューを知っているかな?」


「……まさか……!」


「そう、そのまさかだよ。1971年7月。一号店がオープンしたその日、すでに“マック”のつくメニューは存在した!」


「な、なんだと!」


 三好が歯をギリと鳴らす。


「く……オレは、こんなところで、負けるわけには……」


「いやお前なんでそんなに詳しいねん」


「この手の戦いを俺が何度挑まれたと? やたら“マクド派”って突っかかってくるじゃん」


 やめろ、その言い方は俺たちに刺さる。

 そしてお前はこの論争について歴戦の戦士だったのか。そりゃ負けるわ。


「まあ、好きに呼んだらいいんじゃない?」


 だから刺さるって、それは。


 その日、マクドにたどり着いた三好と俺は泣きながらビックマックを注文した。ああ、美味かったとも。

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