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おはよう、おはよう、おはよう、おはよう
僕が目を覚ますと、すべてのものが挨拶をするのでとても騒がしい。
とりも、むしも、椅子も、電柱も、ベッドも。
改めて繰り返すが、僕が住むのは現代の日本であり、ふつうの高校生である。
「ふつう」は少し余計かもしれない。
とにかく、変わっているのは僕たち家族であり、特に僕であり、それ以外はふつうなのである。
朝、階段を駆け降りると、母とキツネが、朝ごはんを作っていた。
僕はキッチンを横目にテレビの前にあるダイニングテーブルに腰を下ろす。垂れ流しのニュースでは、地震についての話題に触れていた。最近、全国各地で小さい地震が続いている。専門家と紹介された人は「これから大きな地震が来る予兆である可能性が高い」と国民を脅すようなことを言う。
僕がそうはさせない。
目の前には、お茶が入った白いコップと、塩と、コショウが並べられていた。
「■■」
「ありがとう」
どうやら、僕のために用意してくれたお茶らしい。
うちで飼っている?うちの召使キツネ(本当にキツネ、そして名前もキツネ)は、人語が話せるし、分かるらしい。というのは、少し間違いで僕たち家族がどんな言語でも分かるらしい。
黄金の毛がふさふさしており、触るとそれはもう、シルクのような滑らかさ。
母や僕がブラッシングをよくやっているので、毛並みも揃っている。キュルキュルした黒目。つんと長い鼻。
二足歩行で器用に歩き、黄色の花柄エプロンをつけ、レタスを千切っている姿はよく考えてみれば滑稽である。
立っていても身長は母の胸ほど。120cmくらい?折りたたみ式の台に乗っている姿はかわいらしい。
「■■■」
「うん。僕は目玉焼きかな」
「■」
キツネがフライパンに卵を割った。
ジュウッという香ばしい音がダイニングテーブルまで響く。
「
母が味噌汁にみそを溶きながら言う。すらっと細身。頭の後ろで髪をまとめお団子に。一般的な主婦像にぴったり当てはまる。違うのは、鬼に育てられたということだけ。昔は近所のスーパーのレジのパートに行ってたけど、今は辞めて、その代わりに日中はずっとパソコンに向き合っている。なにをしているのかは知らないけど。
「休む」
母は僕が誕生日を機に何か変わったことをしているのは察しているし(教えてはダメな規則)、ずっと学校を休んでいることにも深く追求してこない。
もともと変わった家系であったから、特に違和感もないのだろう。
僕は18歳になってからというもの、今までの日常は奪われて、(ふつうの)世界を維持するための、行動をすることで必死になり、学校には行けなくなった。
毎日いろんなカミサマと会って話をして今後の方針を固める。カミサマをまとめて、報告書を書く。メールでやり取りして、毎日の日本を記録する。これからどうしていけばいいのか、ということを考えることに加え、今日も保っていかなければならない。今日天災のカミサマに会うけど、天災を起こさないといけないからといって、今、大地震を起こせばいいわけではない。
「■■」
キツネが出してくれた目玉焼きと、白米を交互に、丁寧に口に運ぶ。
カミサマは、というか僕は、生まれた瞬間から、ほとんど食べなくても生きていける身体だった。もともと身体の構造から少し違うらしい。でも、一般人として擬態するために3食食べてきたし、その辺の草を食べたり空気中の水分を凝縮して飲んだりもしていない。もちろん。
ただ、もはや学校に行っていない僕は食べる必要はない。食べなくても、咎める人はいないから。
でも、僕は食べることが好きなのでやめない。いまや、唯一の娯楽にまで成り上がっている。
最後に少し残しておいた味噌汁を飲む。
「■」
「うん」
「■」
キツネとの会話もほどほどに、僕は自室に引っ込んだ。
元々4畳ほどの小さな部屋だが、今は時空を操り、東京都ほどの大きさがある。
この中で、僕はさまざまなカミサマと一緒に住んでいるのだ。
さて、僕の役職を振り返るが、僕は今のところ日本で1番力を持っている(あくまでも日本で)。僕の上には、アジア一帯を仕切るカミサマがいるし、その上には北半球を仕切るカミサマがいるし、その上には地球を仕切るカミサマがいるし、その上には地球を含めた太陽系を仕切るカミサマがいる。それ以上は会ったことがないから分からない。
僕は、透明な階段をトントンと登って、いくつもの階を抜けて、最上階に向かう。
透けて見える下はたくさんの建物と、樹木。いわゆる、都会ではあるけど街路樹が多いところに近い。でも、時空をいじくっているのでちゃんとした街ではなく、おかしなところも多い。アヒルのおもちゃが積みあがっていたり、3mぐらいのトイレがまるで建物かのようにあったり、小さすぎてミニチュアみたいなビルや一軒家もある。
今日は季節のカミサマとの会議が控えていた。
約束の3分遅れで会議室に入るも、誰もいない。カミサマは時間にルーズなのである。
10分ほど、ぼうっと考え事していると「しかるくん!ごめん!遅れた!」と身長130cmほどの男の子が会議室に現れる。
ツンツンヘアに黒く焼けた肌は夏休みに楽しんだ証といえる。緑色の半ズボンに赤色のタンクトップというクリスマス感が否めない服装。手には夏休みの宿題だろうか、貝殻が貼り付いた円柱型貯金箱。側面は海を意識して塗られただろう青色や水色などがマーブル状に広がっており、砂浜のような茶色の部分もある。そこに欠けた貝殻や綺麗な貝殻が貼られている。
「久しぶり」
「おひさなのだ!」
実世界でも、小学校に通っている
「今日なんだけど、そろそろ秋にするかって相談だよね?」
説くんは、そう言いながら会議椅子に座って、資料をパラパラめくる。
生まれてわずか3年でこの役職につき、7年も季節のカミサマをしていると慣れようがすごい。
「そうそう。今年暑すぎるし、そろそろ秋モードオンにして、1ヶ月ぐらいかけて徐々に秋にしていけばいいと思うんだけど、どうかな?」
「うーん。せつは来週まで夏にしてぇ、十五夜の日からオンにしようと思ってた」
「一気に?」
「さすがにゆっくりしてく。去年さ、ダイヤル回すの忘れてて一気に秋にしたら、同級生みんな風邪引いてさぁ。もうこりごり!」
この小学生男児が日本の季節を担っていることを公表したらどうなるのだろうか、と少し想像してみる。とはいえど、僕も僕で、まだ成人して間もないのに日本を背負っているのだ。
「じゃあ、十五夜からまわし始めてね」
「うん。みてみて!これ貯金箱。せつが作った!」
「かっこいいね!」
「ママとパパとりっくんで、海に行ってぇ、それで作った!」
ちなみにりっくんとは弟である。弟は季節のカミサマ(補欠)で、万が一説くんに何かあったときは弟の
「学校でね、すっごいほめられたの!かわいいね、かっこいいね、って!」
「僕も欲しいぐらい素敵だよ」
「ありがとうだけど、あげないよ。りっくんにあげるんだから!」
「喜ぶね」
「うん!」
「じゃあ、せつ学校遅れるから!」と走って会議室を出ていく。
子供ってすげぇ体力。これから学校だって。信じらんない。
それに、僕に自慢するために手作り貯金箱を持ってきていることが健気でかわいい。
僕は説くんが残していった会議の資料を持ち、ホクホクした気持ちで会議室を出た。
「さ、今日はこれから天気と天災のカミサマにも会うぞ」
と階段を駆け降りる。
・
「えっとですね、そろそろ天災起こさないと、バランス崩れます。てか、崩れるので自己判断でちょい出ししました」
「知ってます。ニュースで見ました。ちょい出しは必要ですけど、ちゃんと先にメールで報告してください。困ります」
「へいへい」
めんどくさいが一面に出た声で答えられて少しカチンとくる。
「今後はちょい出しを数回して被害は最小限かつ天災ポイント減らす方向性でいいですか?」
「天災ポイントがかなり溜まってて、ちょい出しだと、爆発するほうが先になるかもですが」
「まじか」
「最近、まじで治安悪くて萎えます。しんど」
スーツ姿の
前髪は目にかかり、スーツはくたびれているが、髭だけは綺麗に剃られている。明らかに不健康な肌の白さで、常に目の下にはクマがある。日本人男性平均の身長、細身。カミサマなのに、会社にこき使われている。というのもカミサマをやるにしても、一般に気づかれないよう社会にも紛れ込むという条件があるのだ。やる気が皆無な、その瞳はうつろうつろし、どうかこの人が暴走して大災害を起こさないように、と心から願う。
天災ポイント:人の悪意や嫉妬、怒りによって溜まっていく(日本中の悪意などが天災ポイントに置き換わる)ので、みんなせめて悪意や嫉妬は控えめに!!ある基準(明確ではない)を超えると、自動的に天災が起き、ポイントリセットが行われる。そのため、ちょい出しを繰り返しある基準を超えないように調節している。
「まじでだるい」「だるい」「しんどい」
ネガティブな言葉を言うだけ言って、憶さんは消えていった。
「ちょい出しで!」
と僕は叫んだ。
次の更新予定
18歳を迎えたら日本のカミサマのトップになりました 桐崎りん @kirins
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