第135話 変死事件

「変死事件、ですか?」

「そうだ」


 燃え尽き症候群なので仕事がないかグリズリーさんのところに聞きに行ったのだが、帰ってきたのは仕事はないが問題が発生しているという話だった。問題、なんて言い方をするのは珍しいなと思って詳細を聞いてみたら、変死事件が発生していると言い出した。


「変死事件って、また変なことを言いますね……変死事件なんて、警察が解決するべき問題ではないんですか?」

「それがそうでもないから問題になっている。そもそも、を普通の警察が解決できる訳が無いだろう」

「え? ちょっと待ってくださいよ……ダンジョン内で変死事件? ダンジョン内の話なんですか?」

「……俺がお前に対してダンジョン以外の世間話をするような人間に見えたか?」


 いや、確かにグリズリーさんは他人に対して世間話をするような人ではないかもしれないけど、それにしたって変死事件って……ちょっと変な話をするなぁ、ぐらいの感覚だったんだけど。

 ダンジョン内の変死事件ってことは……どういうことだ?


「普通にモンスターに襲われて殺されたとかじゃないんですか?」

「お前、ダンジョン内で人間から襲われたことがあるやつの口から出てくる言葉じゃないぞ」

「……人がやった証拠があるんですね?」

「最初に報告されたのは中国のダンジョン。北京近郊のダンジョン内で、実力者としてそこそこ有名だった魔術師が身体の内側から杭のようなもので全身を貫かれて死亡しているのが見つかった。2週間前のことだ」

「身体の内側から、杭ですか」


 対象の身体の内側から攻撃するのは、確かに魔法でなければ難しいだろう。ヴィクターさんもモンスターの内側から棘を生やしてモンスターを倒していたし、それに近い形の魔法で殺されたと考えるべきか。


「現場近くには争った形跡などがないことから、尾行されて背後から奇襲される形で魔法を使用されて即死……もしくはその魔術師に仲間だと思わせて背後から襲ったのではないかと考えられている」

「ダンジョン内なら人間が出入りした記録があるはずでは?」

「北京のダンジョンは規模が大きいダンジョンで、人間の出入りが普段から多い。死亡推定時刻にダンジョン内にいた人間の数は優に100人を超える。しかもその全員が互いに出会うことなくダンジョン内で行動していたと言うのだから……アリバイなんて誰も持っていない。しかも、現場はかなりの浅い階層で、実力で召喚士や魔術師を単純に篩にかけることもできず、現場もモンスターが現れたことでまともに保存できていない」


 うーむ……こうやって聞いていると完全犯罪に聞こえるな。

 それこそ、昔はダンジョン内で起きていることがモンスターの仕業か人間の仕業かわからないから、暗殺の為に使われていたらしく、それの対策の為に国連がダンジョンの出入りする人間をしっかりと記録するように義務化されたって話だが……こうして今でも犯罪に使われているのだからなんとも。


「……ん? ?」

「そうだ。2件目はフランス、3件目はインド、4件目はサウジアラビア、5件目はブラジル、6件目はコンゴ民主共和国、7件目はカナダ、8件目は中国、9件目はノルウェー、10件目はベルギー、11件目は南アフリカ、12件目はスペイン……スペインの犠牲者が発見されたのは昨日のことだ」

「……多くないですか? 1件目の中国が2週間前なんですよね?」

「そうだ。犠牲者は合計で21名……全てがその国でそこそこ名の知れている魔術師や召喚士だ。手口は全て同じ……争った形跡も無く、身体の内側から全身を杭によって貫かれて死亡している」

「めちゃくちゃ大事件じゃないですかっ!?」


 さらっと喋り始めたから都市伝説みたいな類の話かと思ったら、組織的な連続殺人の話をされてめちゃくちゃ驚いているんだが!?


「現時点でわかっていることは、単独での犯行は不可能だということ、組織的な犯行だとしても世界的な規模であること、犯行手段が全て同じなことからかなり洗練された殺人技術であること、そして……犯人はなんらかの方法で、ダンジョンの出入り口以外から侵入しているということ」

「はい? いや、出入り口以外からってどうやるんですか?」

「そこはわかっていないが、北京の事件では多数の人間に紛れて犯行に及んだと思われていたが……6件目のコンゴ民主共和国の件はそれが不可能だった」

「何故?」

「コンゴ民主共和国は、と言うかアフリカの国々は特にダンジョンに入る為の規制が厳しくなっている。ダンジョン内での完全犯罪を目論む人間が多かったからなのだが……そのせいで、死亡推定時刻のダンジョン内にいた人間は、犠牲者1人だった」


 どういうことだ?


「ダンジョンの管理に引っかからずに入退場できる人間がいて、そいつが犯罪の為にやっているってことですよね。ただ……組織的で同時多発的な犯行ってことは、そんなことができる個人がいるわけではなく、しっかりと技法として昇華されている」

「そういうことだな。現状では完全に手がかりが無い密室殺人みたいなものだ。被害者が出た各国も調査に動いているが、有力な情報はなし」

「まるでみたいですね」

「透明人間か……それも議論されていたな。自らの身体を透明する魔法はあるが、完全に透明になれるわけではないし、なんならサウジアラビアのダンジョンは全ての出入り口に扉が設置されているから、壁を通過する方法でも発見されないと再現不可能だ」

「……いえ、考えられる方法が2つほどありますよ」

「なに?」


 逆に言うと、ぱっと考えてその2つしか実現する方法が思い浮かばない。


「1つはダンジョンの内部に直接転移する方法です」

「……不可能なことを口にするな。短距離だろうとも人間がワープなんてことはできない」

「しかし、俺はダンジョン内でモンスターがワープする姿を見たことがあります」

「だからなんだ? それが本当に可能だったとして、どうやってダンジョン内にいきうなりワープする。ダンジョンの内部にあらかじめ仕掛けておいたとでも?」

「座標なら簡単です。暗殺する相手を指定すればいいんですから」


 被害者となる人間に対して事前にマーキングしておけば、飛ぶ方法さえあれば簡単に再現できるだろう。


「馬鹿げている……2つ目は?」

「こっちの方が現実的かもしれないですね。自らの身体を縮小、拡大が自在にできるのならば簡単じゃないですか?」

「それは……確かに、そうかもしれない」

「でしょう?」


 まぁ、本当にできるかどうかは無視している意見ではあるんだが。


 

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