第134話 正当な評価

 南極ダンジョンの大規模調査と、それの成果についてネットを中心にすごい話題になっていた。メディアによっては、目的としていたダンジョンや魔法についての起源を調べることができなかった調査隊のことを批判するものもあったのだが、世間的にはすぐに忘れ去られる程度のことでしかなかった。


「なんだかなぁ……」

「仕方が無いことだと思うよ? 結局、直接的に関わるようなことでもないんだから、民衆は興味を抱くことも難しいんだよ」

「別に俺だって有名になってちやほやされたいとか思ってるわけじゃないんだけど、それにしたって冷遇されてないか?」

「給料のことを考えるとそこまで冷遇されている気もしないけれど」

「金を貰えば優遇されているってわけじゃないんだよ!」


 俺の熱弁も、桜井さんと遊作には理解されない。結局、俺たちはなんか大変な仕事をしている人間、程度の扱いでしかないことが今回のことでわかってしまった。魔術師たちだって、ネット社会でちょっとちやほやされてテレビに出ていることがあるぐらいで、功績とかは見られていないんだから似たようなものなんだろう。最初は俺もちょっとライバル心を持っていたが……こうなってくると共同戦線を張るべきなんじゃないかと思ってくる。


「なんでこんなに世間の目を気にしているのかしら」

「さぁ? 他人の評価とかどうでもいいから、僕はとにかく彼を超えることだけを考えてるよ。365日、ね」

「……なんか、恋しているみたいね」

「視線を奪われているって意味では、似たようなものかな?」

「え、なんか寒気がしたんだけど、なに?」

「知らない方がいいことも、世の中にはあるのよ」


 え、怖いんだけど……遊作がなにかしたのか?


「世間的には話題になってなくても、同業者の間では話題になってんだろ?」

「お、山城じゃん。俺らがいない間も元気にしてた?」

「たかが数日の話に対して何を言ってるんだか……この学園の連中だって同業者みたいなもんだから、良くも悪くも注目されてるだろ」

「学園内で? それは前からのことだからわからん」

「そうね。今岡君は前から学園内で悪目立ちしていたから、今更話題になっても違いが実感できるわけがないもの」

「ねぇ、なんでいきなり刺されたの?」


 俺、そんな不快になるようなこと言ったかな?

 悪口を言われて普通にびっくりしたんだけど、悪目立ちしているのは事実なのであまり反論できないのが現実。別に目立とうと思って目立っているわけじゃないんだけど……魔法生物科の生徒からは奇人・変人・天才の類で見られているし、魔術師科の生徒からは召喚士の癖に生意気みたいな感じで見られているから……どう頑張っても学園内で目立ってしまうのだ。

 日本人は出る杭を嫌うと言っても、ここまで俺だけが嫌われているのはもはやそういう力が外部から働いているんじゃないかと思えてくるほどだ。


「この学園に通っている連中だって召喚士や魔術師を目指しているんだから、今回の調査がどれだけ過酷だったか、そんでもってお前らがそんな中でもどれだけ活躍してどれだけ成果を残したのかなんてわかってるはずだ。わかってないやつがいたらそいつは真面目に目指してないだけだから気にすんな」

「大きく出たなぁ……本当にそうかな?」

「そうだと思うからそう言ってんだ。南極のダンジョンに対してほぼ初見で、国からの支援も特にあったわけでもないのに、下の階層が見つからない所まで行けたんだからそれはとんでもねぇことだよ」


 パツキンヤンキーの癖に、俺たちのことを素直に褒めてくれるなんて見直したぞ山城。いや、こいつは最近は普通に更生した人間みたいな感じになってたから、そこまで意外でもないんだけれども。


「でも、それがわからない人が多いから僕らはこうやってテレビで批判されているんだろう?」

「わからない人間のことなんて元から気にしてねぇだろ」

「まぁね」


 俺はそこそこ気にしてるんだが?

 桜井さんも遊作も、なんなら山城もあんまり他人の評判を気にしないんだな。人助けをして人にすごいって言われたいわけじゃない気持ちはわかるけど、仕事をしたらちゃんと評価されたいと思うのは俺だけらしい。俺にとって人命救助はあくまでも仕事の合間にやっている自分のやりたいことであって、他人に評価されたい部分ではない。俺が評価されたいのは、しっかりとダンジョンを攻略しているという部分……とにかく、そこだけを評価されれば満足なのだ。


「ま、ダンジョンについて詳しくないやつなんてのは基本的に興味を持ってくれることも無いからな。批判されている所ですら興味が無いんだから1週間後には忘れ去られてるわ」

「それが許せないって話なんだけどな……プロ野球選手が不祥事起こしたら一生言われるだろ?」

「お前……召喚士がプロ野球選手と同じ熱量で語られると思ってるのか?」

「思ってない! 思ってないけど、もうちょっとこう……なんかあるだろ!」

「言ってることがめちゃくちゃよ」


 はぁ……仕事が正当に評価されていないって、まるで無能の言い訳みたいで嫌いなんだけども、この問題は世間の無知と無関心から来ているものだ。俺が個人で騒いでもどうしようもない……そんなことはわかっているが、単純に叫びたくなってしまうことだってあるのだ。


「せめて、ダンジョンの内部からエネルギー源になる資源が発見されるとかがあれば……金持ちたちがこぞって投資してくれたんだろうけどな」


 現実は、ただ人間に対して害を与えて、殺したところで身体の部位を残すことなく塵となって消滅していくようなモンスターしか存在していない。俺たち召喚士や魔術師みたいな、ダンジョンの中に入ってモンスターを狩っている存在なんてのは、世界を成り立たせるための労働者でしかない。炭坑の中の金糸雀かなりあみたいなものだ。俺たちが犠牲になってから、初めて国や偉い人たちは危機的な状況であることを悟るのだろう。


「……普通に考えて、この学園でしかまともに召喚士と魔術師の資格を取る為の授業を専門にしている所が無いぐらいなんだから、その程度の扱いなんだなって理解すればよかったわ」


 専門しているはずのこの学園にも、普通科があるぐらいだし、実はあんまり儲からないのかもしれないな……考え出すと思考が全部ネガティブな方に流れてくわ。

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