第127話 力を合わせて

 凰歌さんの戦闘スタイルは……一言で表すならば「派手」だった。

 両手に持っている鉄扇を動かすたびに熱波と雷がそれぞれ放たれ、ギャリっと鉄扇を擦ってから放たれる炎と雷が混ざった風は暴力的な破壊の嵐と言っていいものだった。しかし、凰歌さんが1人で戦っていた相手である緑色の鱗を持つ2足歩行のドラゴンは、凰歌さんの破壊の嵐を正面から受けてもビクともせず、こちらに向かって突進してきた。


「こいつっ!? ずっとこんな感じなのよ! なんとかできないかしら!?」

「やってみるしかないな」


 ゼインさんと凰歌さんが左右に分かれてドラゴンの視線が右往左往した瞬間に、キマイラとクリスタルドラゴンが放ったブレスが直撃する。しかし、こちらも無傷のまま正面で受け止め、逆に口から炎を吐いてきた。炎から俺たちを守るようにクリスタルドラゴンが前面に立ち、その特殊な水晶の身体で魔力を弾いていく。その間に、イザベラ、ハナ、ゼインさん、凰歌さんが同時に攻撃を仕掛けたが、よろめくだけでダメージが通っているようには見えない。

 見た目通りのタフさと言えばいいのか……とにかく、南極ダンジョンの中でもかなりの力を持ったモンスターだと思っていいだろう。


「ふっ!」


 尻尾の攻撃を華麗に避けた凰歌さんは、鉄扇を閉じてから再び開いて風を巻き起こした。すると今度は右の鉄扇から氷の槍が飛び出し、左の鉄扇からは風の刃が放たれた。その両方がドラゴンに直撃してダメージを与えることはできていないが……さっきの炎と雷の様に、これらもとんでもない威力を持っている。


「あれが五色の名前の由来だよ」

「なるほどね……1人で複数の属性をあんな風に放てるから、五色か」


 最初は鉄扇に描かれている模様や、動きやすいように少し改造されている赤いチャイナ服に描かれている虹の尾を持つ鳳凰の柄からそう呼ばれているのかと思ったのだが、実際は魔術師としての戦い方を現したものだったらしい。

 それにしても……あれだけの魔法を正面から受けて全く効いていないってのは随分と不思議な感じだ。もしかすると、タフなのではなく、なにかしらの力で無力化しているのではないかと思えるぐらいに。


「で、どうする?」

「それを僕に聞いて答えが返ってくるとでも? 僕にはあんな怪物に勝つ方法なんて思いつかないけど……戦わない理由にはならないだろう?」

「それはわかってんだよ」

「だから、そういうことを考えるのは君に任せるって言ってるんだ。頼むよ、俊介」


 遊作はそれだけ言うと、キマイラの背に乗ってドラゴンに向かって行った。

 作戦はそっちで考えろと言われてしまったのだが……彼らは本当に俺が考えた作戦でいいのだろうか。桜井さんはドラゴンの攻撃から仲間を守るためにクリスタルドラゴンを動かしているし、ゼインさんと凰歌さんは接近戦を仕掛けてひたすらに殴っている。俺が考えるしかないのか……なんてちょっと絶望していたら、ヴィクターさんが額の汗を拭いながらドラゴンを睨み付けていたので、俺はにんまりと笑みを浮かべてしまった。


「ヴィクターさん、一緒にあれをどうにかする方法を考えましょう」

「……召喚士だからとは言え、戦闘中によくもそんな軽い感じで私に接してこられるな」

「あの2人なら大きな傷なんて負わないので問題ありませんよ。それより、考えなきゃならないのはあれをどうやって倒すか、でしょう?」

「確かに、今のまま攻撃していたのではいつまで経っても倒すことはできないかもしれないが……本当にできるのか?」

「できないなら俺たちはここで死ぬだけです。」

「……それもそうか。わかった、私も協力しよう」


 よし、これで作戦立案の責任は年上のヴィクターさんが負ってくれる。あとは俺が好き勝手に考えたことを試していくだけだ。

 まずはドラゴン動きを観察するところから始めるべきだろう。弱点を見つけなければ、もしくはこちらの攻撃を無力化している方法を探らなければならない。攻撃されると怯んでいることから、完全に効いていないわけではないのかもしれないが……傷になっていないのだから効いていないのと同義だろう。


「熱に強い、雷も遮断、氷も効かない、風による攻撃も効果なし、物理的な攻撃も効き目が薄い……マジでどうやれば勝てるのかわからないですね」

「柔らかい部位を攻撃すると言うのはどうだ?」

「具体的には?」

「身体の内側、もしくは眼球だな」

「眼球は……攻撃できたとしても脳まで貫通することが出来なければ、視界を奪うだけで、ただ暴れる範囲が増えるでしょうね」

「なら内側か?」


 多分、ヴィクターさんの言っている内側への攻撃ってのは、口の中へと攻撃を放つって方法だと思う。しかし、そんな限定的な攻撃が果たして簡単に通用するかどうか……それを考えると、俺はどうしても安易に頷けない。


「まずは、今の状態でみんなの力を一点集中して攻撃してみましょう。見たところ、みんなバラバラに攻撃してますから」

「……まぁ、誰もが単独でダンジョンを攻略できるようなメンバーだから、あまり連携と言うのは得意ではないだろう」

「だから、ここは誰かが音頭を取ってなんとか連携攻撃をするしかないんです。そして、その役目が俺がやりましょう!」


 何故なら、俺はハナとイザベラに任せきりでやることがないから!

 パパっと念話でハナとイザベラに作戦を伝えると、2人からは訝しむような目を向けられてしまった。他人と協力するのがそんなに変か?


「ゼインさん、凰歌さん、桜井さん、遊作」

「なにかな?」

「バラバラに攻撃していては埒が明かないから、みんなで一斉に攻撃しようと思うんだ」

「全員で攻撃すれば通ると?」

「通らなかったら別の方法を考えればいいんだよ」


 次の攻撃が通らなかったら全滅するなんて状況ではないのだから、ここはゆっくりと選択肢を一つずつ潰していけばいい。

 雷の速度で戻って来たゼインさんには、遊作が英語で喋りかけて説得してくれていた。胡乱な目を向けられてしまったが、ハナとイザベラが同時に戻ってきてのを見て、俺が本気であることがわかったらしい。


「勝算は?」

「さぁ? でも、やってみないとわからないでしょう?」

「それもそうね」


 凰歌さんは素直に俺の提案を受け入れてくれた。

 クリスタルドラゴン、キマイラ、ハナ、イザベラ、ゼインさん、ヴィクターさん、凰歌さんが揃って自らの魔力を前面に集中させ……一斉に放つ。たったそれだけのことだった。

 正面から走って来たドラゴンは、その攻撃を胸に受けて……壁に激突するまで吹き飛んでいった。

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