第128話 無敵
真正面から全員の攻撃を受けて壁に激突したドラゴンだが、普通に立ち上がってきた。身体の表面に傷があるようには見えないし……なんなら元気ぴんぴんって感じで雄叫びを放っている。
「……どう見ても効いてないわよ」
「まぁ、全員で攻撃すればダメージが通るなんて、そんな馬鹿みたいな話があるわけないんで仕方ないですね」
「っ!」
「痛いっ!?」
ごめんって。
全員での攻撃が効かなかったなんて随分と絶望的な展開に思えるかもしれないが、全員の同時攻撃で少しでも傷がついていた方が俺は絶望していたと思う。何故ならば、それはなんの細工も無くただ硬いだけであることを意味するのだから。これだけの攻撃を集中させても全く効いていないのだとしたら、必ずなにかの理由があって、それによって攻撃を無力化していると考えることができる。
凰歌さんに小突かれた腰に触れながら、俺は冷静にドラゴンを観察する。
「いてて……あれだけの攻撃を受けて倒れないモンスターなんて考えられないので、なにかしらの方法で攻撃を無力化しているはずです」
「こっちの攻撃が単純に効いていないだけって可能性は?」
「排除してます。だってそんなことがありえたなら……俺たちにあのドラゴンを倒すことは不可能ってことになって、人類には攻略することが不可能なダンジョンになるからです」
可能性が無い訳ではないが、そんな理由で攻撃が通らないんだったらもう勝ち目はないのでその可能性は排除していいだろう。
「攻撃の無力化……どうやてって? 教えてくれるかしら?」
自分の攻撃が無効化されているかもしれないって俺の言葉に、何故か少しだけ楽しそうな笑みを浮かべながら凰歌さんが鉄扇を向けてきた。
「無力化とは言いますが、吸収しているのか掻き消しているのか……あるいは当たっているように見えて当たっていないのか。考えられる無力化の方法は複数あります」
「吸収というはないだろう。攻撃を吸収してるなら、あんな吹き飛んだりしない筈だ。条件をつけて吸収するにしても、私の闇や君の召喚獣の物理攻撃など、見境なく吸収していることになるから、条件がついているとすら思えない……自らの攻撃全てを吸収ならわからなくもないが、そんなことができるとも思えない」
「なら、なにかしらの条件で攻撃を無効化、もしくは身代わりにダメージを逃がしているとか」
高度な魔法による無力化って感じには見えない。それだけの魔法が存在するのならば、それ相応の魔力の消費と魔方陣が現れるはずだからだ。なんの動作も無く攻撃だけを無力化ってのは無理だろうから……やはりなにかしらの行動の中で攻撃を無力化している。
「……たとえばだけどさ」
「ん?」
キマイラを横に呼び戻した遊作が呟くように口を開く。
「たとえば、地面に足がついている状態なら無敵とか?」
「……ギガントマキアの巨人みたいにか?」
「ギガントマキアってなに?」
「あー……ギリシャ神話に出てくる戦争の名前」
神話の方は生誕した島っていう条件がついていたけど、まぁ似たようなものなので流しておこう。
「でも、確かにあのドラゴンが足を離している所は見てないな」
『なんの話してんだ?』
『あのドラゴンが地に足を付けている限り無敵なんじゃないかって話をしている』
『は? 待てよ。翼があるのにそれはないんじゃないか?』
『……確かに』
「それは盲点だったな……ゼインさんが、翼があるのに地面に足がついている間はおかしいって」
「それはそうかもしれない」
なんか……なんもわからなくなってきたな。
「面倒くさいわね。なにかわかるまで作戦会議でもしてなさい。私は戦うわよっ!」
「私も、クリスタルドラゴンを利用して守りの要として動くわ」
凰歌さんと桜井さんが戦線に戻っていった。ちょっと制止したい気持ちもあったんだが……ドラゴンが動き出しているから2人ともあっちに向かったのだ。それを止めることは流石にできない。
『俺も行くぜ』
「僕も、敵との戦い方は任せるよ」
「主様、妾は?」
「……ハナとイザベラはみんなのことを頼む」
「了解した」
ゼインさんと遊作も迎撃に向かったので、ハナとイザベラはみんなが傷つかないように防御優先で立ち回ってもらうことにする。
結局、あのドラゴンの対策方法を考えるのは俺とヴィクターさんの役割にされた。
「どうしますか? なにか、思いつくものがあったり?」
「……一つだけある」
「あるんですか!?」
ないと思ってたよ。
「あのドラゴンだが、攻撃を受ける時だけ不自然に翼を広げている」
「でも、あそこから攻撃を放ってますし、その為じゃないですか?」
背中の翼が飛行用ではなく攻撃用ではないのだろうかと思っていたのだ。と言うのも、複数人から同時に攻撃を受けている最中でも、翼を広げてそこから魔力の矢のような物を連射しているのだ。クリスタルドラゴンが前面に立つことで、魔力の攻撃を遮断しているが……あれだけの物量攻撃は圧巻だ。
「もしかしたらだが……攻撃を無力化や吸収しているのではなく、反射しているとしたら?」
「反射? 攻撃が返ってきている感じではないんですけど」
「受けた攻撃を細かく魔力として反射しているんじゃないかと思ってな。吸収しているのではなく……鱗に沿って受け流している、と言えばいいのだろうか」
「受け流す……攻撃を体内で受け流して、翼から発射していると?」
「確証はないが、あの翼から攻撃を放つのは必ず攻撃を受けている最中だけだ。それ以外の時は……基本的に爪などの身体か、口から炎を吐いている」
ふむふむ……まぁ、なんでも試してみるのがいいだろう。
「なら、あの翼を破壊すればいいと?」
「違う。受け流せない攻撃をしなければならない」
「……物理攻撃も受け流されるのに?」
「それなんだが、物理攻撃は本当に効いていないのか?」
「効いてないじゃないですか」
「鱗すらも破壊できない攻撃では効いているうちに入らないだろう。それに、魔力を全て受け流しているのならば、吹き飛ばされる理由にもならない」
「んー?」
「つまり、物理攻撃は頑丈な鱗とで防御して、魔力だけを受け流している」
「それは、魔力を込めた打撃は物理攻撃になってないと?」
「そういうことだ」
いや、じゃあ倒すのは無理では?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます