第126話 五色

 ダンジョン内で桜井さん、そして遊作と合流したわけだが……盛大な作戦会議が始まった。と言うのも、俺たちは互いに深部を目指して歩いて……こんな風に真正面から出会ってしまったのだ。


「つまり、俺たちは外れの道を選択して互いに出会ってしまったってことだな」

「……外れの道って、そんなこと言われてもねぇ」

「逆に聞くのだけれど、貴方がきた道には分岐があったって言うの?」

「あったぞ」

「あるんじゃない!」

「はい、作戦会議終了」


 作戦会議、一瞬で終わったわ。

 どうやら、遊作たちは1本道でここまでやってきたらしい。俺たちは感性に任せて右側の道を選択してきたばかりなので、そこまで戻れば左の道を選択することができる。


『んで? 右側の道は外れだって?』

『そういうことだな。二者択一の問題を外してしまったことは残念だが、なによりも彼らに出会わなければ自分たちが進んでいると勘違いしながら入口に戻る所だった』

『性格の悪いダンジョンだぜ。もっとこう、モンスターがばーん、とやってきて苦戦する方がわかりやすくていい』

『そもそも誰がどうやってダンジョンを作っているのかもわからないのに、適当なことを言うんじゃない』

『それを調べるための俺たちの今回の探索なわけだろ? もしかしたら奥地にダンジョンを管理してるやつがいるかもしれねぇじゃんかよ』

『いたとしたら、それは世紀の大発見だと騒がれることになるだろうな』


 ヴィクターさんとゼインさんって仲がいいように見えるんだよね。あんな風に喋っている時は、ゼインさんがなんか身体の動きでなにかを表現しながら喋って、ヴィクターさんが呆れながらそれに答える、みたいな。凸凹だからこそかっちりハマって逆に相性がいいのかな。


「なんか……楽しそうね」

「やっぱりそう見える? 英語わかんないけど、楽しそうに喋ってるのだけはわかるから……きっと仲がいいんだろうね」

「内容は馬鹿みたいなことを言っているゼインさんに対して、ヴィクターさんが呆れてるだけだよ。俊介、君も英語勉強したら?」

「俺、英語、嫌い」

「貴方ねぇ……なんなら勉強するのよ」


 どうせ俺は英語も喋れない、ダンジョンに関する知識も薄い、実力だけの人間ですよ!



 結局、道が繋がっていることが判明したので俺たちは分岐点まで戻ることになり、そこから左のルートを進むことになった。こちらにも右側同様に霧が濃い場所もあったが、なんなく抜けることができ、そのまま進んでいくと……今度は風の流れが変わった。


『この先に広間がありそうだな』

『風が流れているからな……しかもこれは、温度の違いによる風の流れだ。風向きで考えると、この先の方が温度が高いということになる』

「行きましょう」


 こんなところでまごついていても仕方がない。さっさと前に進んで、ダンジョン内の秘密を暴くべきだ……なんて思いながら広間に足を踏み入れた瞬間に、灼熱の風が俺たちを襲った。


「な、なにが起きてるの!?」

『なるほどな……あいつが戦ってる熱だったわけだな』

『五色かっ!? 彼女もここに来ているとは知っていたが、別のルートがあったのか!』


 ゼインさんとヴィクターさんは熱波の原因がわかっているらしい。しかし、なんの知識もない俺にはなにもわからなかったのだが……俺の前に人が降り立ったので視線を上げたら、豊満な胸があった。


「……ちょっと、なに見てるのよ」

「え? 日本語?」

「はぁ? 貴方、日本人でしょ?」


 豊満な胸から更に視線を上に移動させると、そこには街中で見たら絶対に二度見するような白髪美人さんの顔があった。


「あー、日本語でいいかな?」

「アンタ……ヴィクター? なんで日本人と一緒にいるのよ」

「それはこちらのセリフなんだが……君が日本語を喋れるなんて初めて知ったよ。秦凰歌チンホァングー

「ち、ちんほんぐー?」

「日本人からは凰歌おうかって良く呼ばれるから、呼びたいならそっちにしなさい」

「うっす、凰歌さん」


 なんか、気の強そうな人だな。


「『五色』の凰歌とも会えるなんて、本当に南極に来てよかったよ」

「その変な二つ名だけはやめてくれないかしら? むず痒いから」


 ねぇ……二つ名で得してる人が誰もいないんだけど。

 どうやら名前から考えて中国人の女性魔術師のようだが、彼女が戦っていたから熱波が起きていたってことなのだろうか。


『派手に戦ってたみたいだな、え?』

『相変わらず下品な男ね、ゼイン・コールソン』

『そっちこそ、相変わらず生意気だな……フェニックス?』

『その呼び方すんなっ!』

『うぉっ!? あっぶねっ!?』


 ゼインさんがなんか変なことを言ったらしく、予備動作なしで右手から炎が噴射された。


「それで、なにと戦ってたんですか?」

「ん……あ、そうだったわ!」


 俺の質問に対してなにかを思い出したらしく、凰歌さんは背後へ振り向いた。南極ダンジョンとは思えないような、全てが燃えている光景にちょっと驚いてしまったのだが、その炎の中からゆっくりと歩いて出てきた2足歩行のドラゴンを見てもっと驚いた。


「あれと戦ってたのよ。外皮が硬くて魔法が通らなくてね……思い切り火力をぶつけてやっても、あんな感じよ」

「なるほど……凰歌さんは1人であれの相手をしてたんですか?」

「他にも人はいたわよ。みんなあれにやられて逃げて行ったけど」

「逃げた?」


 俺たちは誰ともすれ違っていないので、どこに逃げたんだよと言おうと思ったが……よく見ると広間の壁には複数の穴が存在していた。


「……分岐していた道も全部これに繋がっていたってわけか」


 それなら、今まで俺たちが誰にも会わなかったのも納得できる。先に進んでいた連中はあれと遭遇して倒すことができずに撤退していったってことだな。


「なら、まずはあれをなんとかしないと駄目ってことですね」

「なんとかできるかしら……」

「黒の魔導士に蒼雷、五色に桜井さんと俊介がいるんだから大丈夫でしょ」

「遊作、楽観的なこと言ってるがお前も手伝ってもらうからな」

「勿論」


 ヴィクターさんは身体から闇を放出し、ゼインさんは蒼い雷を身体に纏う。俊介はキマイラを静かに召喚して、桜井さんが召喚したクリスタルドラゴンが地面を揺らしながら着地して雄叫びを上げる。


「ふぅん? ちょっとはマシな戦力が揃っているのね。日本人の子供なんて期待していなかったのだけれど」

「そう言わないでくださいよ。俺たちだって頑張りますから」


 俺もハナとイザベラを召喚する。なるべく、凰歌さんの期待に応えられるような頑張ろう。

 凰歌さん的にも俺の答えに満足するものがあったのか、笑みを浮かべながら鉄扇を両手に持って広げた。広がった右の鉄扇からは火の粉が舞い散り、左の鉄扇からはバチっというゼインさんのせいで聞き慣れた音が響いた。

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