第99話 アメリカ

 アメリカの依頼を受けてやってきたのは、誰もが知っている世界的な大都市ニューヨーク州……の隣にあるニュージャージー州だった。


「おぉ……自由の女神って想像していたよりデカイな」


 自由の女神はニューヨーク州とニュージャージー州の間にあるリヴァティ島という場所に存在しているのだが、実は島はニュージャージー州にあったりするのだが、色々な事情でニューヨーク州のものってことになっている。自由の女神があるのはニュージャージー州かニューヨーク州かで喧嘩することもあるので、答える時はリバティ島と答えよう。日本人にわかりやすく言うなら……富士山は山梨県と静岡県のどっちか、みたいな?


「いつまでも観光気分では困るんだがな……今回の目的地は港じゃないんだ。さっさと行くぞ」

「へいへい」


 今回は珍しく、グリズリーさんまでついてきている。やはりアメリカは大国なだけあって、グリズリーさんもついでに済ませておきたい用事があるのだとか。だから、今回はグリズリーさん、エドガーさん、桜井さんに俺と、4人で飛行機に乗っていた。


「ファーストクラスなんて初めて乗ったわ。あれ、結構面白いのね」

「あー……俺もイギリスに行った時が初めてだったかな」


 組織内で特権を持っている人間だからなのか、それとも危険生物を隔離したいからなのかは知らないが、ファーストクラスに乗ることになったのは驚きだよな。


「組織の中で実力が認められれば、ファーストクラスで海外に行くこともできるのね……ちょっとそっちの福利厚生にも興味がわいてきたわ。他にどんな特典があるのか聞いていい?」

「え? 全然知らない」

「……は?」

「いや、俺なんて依頼を受けてダンジョンを攻略して、そのまま帰ってきて授業受けながら次の依頼を待つ、なんて生活してるだけだから、福利厚生なんて知らないし。イギリス行った時にファーストクラスに乗れるなんて初めて聞いたよ」

「信じられない……貴方、本当に特権を与えられている召喚士なの?」

「特権なんて言えば聞こえはいいかもしれないけど、中身は問題児をまとめてるだけだぞ? 俺以外はまともに依頼すら受けないような自由人ばかりらしいからな」

「貴方も相当じゃない」

「え?」


 嘘だよな?

 エドガーさんの方へと視線を向けると、何故か苦笑いで返されて、グリズリーさんの方へと視線を向けると首を傾げられた。


「嘘だろ? 俺って人の話は聞くし、そこまで滅茶苦茶なことばかりしている人間じゃないって思ってるんだけど、これってもしかして主観的な立場から見た、間違った話なのか?」

「いえ、私はそもそも自由人たちを直接みたことがないから、あくまでも私の常識から照らし合わせると、貴方は充分好き勝手にやっている人間ってだけで、組織から見たら常識人かもしれないから、そこまで落ち込まなくてもいいわよ」

「その言い方はかなり傷つくんだけども」

「ご、ごめんなさい?」


 謝られるのも、なんか違うじゃん。



 勝手に1人で傷つきながら車で運ばれた先にあったのは、いつも通りのダンジョンへの入口だった。


「今回の依頼は単純にダンジョン内のモンスターをとにかく減らしてほしいってこと。今は西海岸の方で起きたダンジョン崩壊が原因で、アメリカ国内の西海岸に集中していて、自国だけでは対処できない可能性があるから」

「……東海岸の他のダンジョンには、別の国の人が来ているんですか?」

「うん。真っ先に同盟国の日本に話が来ていたから、君たちにはニューヨークに最も近いダンジョンであるニュージャージーのダンジョンを任されているんだ」

「ダンジョン内の情報は?」


 イギリスでは情報を全く仕入れずに突入して大変なことになったから、細かい情報が事前にあると嬉しいんだけども。


「うーん……言葉で説明するのがすごい難しいダンジョンなんだけど、構造はひたすらに広い場所が1つで、下に降りるような構造物は未だに確認されていない、世にも珍しい1フロアのダンジョンだよ」

「……それ、結構面倒じゃないですか? 中にはモンスターが溜まっている可能性があるから、入った瞬間にモンスターと対面してひたすら戦闘ってことも」

「それは確認してあるから大丈夫。それに……シュンスケが想像しているより遥かに大きな場所だよ、このダンジョンは」


 へぇ……面白いダンジョンが存在しているんだな。


「桜井さんはなにか知ってる?」

「……内部構造として、メルヘンチックでカラフルな空間が広がっていると、本で読んだことがあるのですが?」

「メルヘンチックでカラフル……確かに、そんな場所だね」

「え? それだけで俺の想像が180度変わったんだけど」


 広い構造でモンスターがいっぱいだから、森みたいに鬱蒼としたダンジョンとかなのかと思っていたら、まさかの童話的な世界だったとは。


「内部に出てくるモンスターも、まるで童話から飛び出してきたようなかわいらしい見た目をしたものから、子供の絵本特有の、妙に心に残るような恐怖を植え付ける見た目のモンスターもいるとか」

「あー……あるよね、子供の頃に読んでトラウマになっちゃうような挿絵の本とか。マジで心当たりがあるわ……なんでエドガーさんより桜井さんの方が詳しいんですか?」

「ご、ごめん」


 いや、この人は世界中で翻訳をしている人だから、ダンジョンそのものに目を向けるようなことがないのかもしれないけど……俺の専属になったからには、ある程度は調べて欲しいなって思ったり。自分で調べろって言われたら、俺もあんまり反論できないけどな。


「じゃあ、内部に入ってひたすらにモンスターを倒せばいいんですね?」

「うん、今回はそれでおっけーだよ。私はこのままダンジョンの外で待っているから、充分だと君たちが判断したら戻ってきてくれて構わないよ」

「俺は用事があるからこのままニューヨークに戻るがな」

「グリズリーさん……ずっと黙っていたと思ったらいきなり喋らないでくださいよ」


 押し黙っていからなにか心配事でもあるのかと思ったらさぁ……ちょっと口下手過ぎない?


「行きましょう」

「こっちは血気盛んすぎるだろ」


 さっさとダンジョンの中に入ってモンスターを殺してやろうぜ、みたいな感じになってるし……ん、あれ?


「ちょっと待って」

「なによ?」

「桜井さんってダンジョンでモンスターと戦う仕事、初めてなんじゃないの?」

「そうよ」


 え……初めてがアメリカのダンジョンってこと? おいおい……最高に生き急いでるな。

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