第98話 新たなライバル?

「アメリカぁ?」

「あぁ」


 すっかり、グリズリーさんの事務所でスマホゲームをするのが日課になっていた俺だが、唐突にアメリカからいくつか依頼が来ていると聞いて、俺は素っ頓狂な声を出してしまった。


「アメリカって自国でなんとかするみたいな国じゃないんですか? 国際機関に、ましてや他国の人間に頼るってイメージがあんまりないんですけど」

「まぁ、でもその結果が今のアメリカだからね」


 隣で俺のアメリカの印象を聞いていたエドガーさんが、苦笑いをしながらスマホの画面を見せてくれたが……どうやら先日、またダンジョンが崩壊したらしい。


「あの国の人間ががさつな者が多いから、ダンジョンを簡単に崩壊させる。日本人ほど神経質な民族だったら、もっとダンジョンの崩壊も少ないんだろうが」

「いや、日本は国土面積に対して人口が多いだけだからなんとかなってると思いますよ。少なくとも、俺は日本人が勤勉とか思ったことも無い」

「えー? 大多数の国に比べたら勤勉な人が多いと思うよ?」


 外国人からすればそうなのだろうか? まぁ、外国人も日本人も、こういう話は主観的な部分でしか語れないから議論するだけ無駄だと俺は思うけどな。


「それで? 内容は? なんか、南極に関する話はちらほら聞いたんですけど、もしかしてそれ関連だったりするんじゃないですか?」

「いや、南極の大規模調査に関してはもっと時間をかけて丁寧にやっていくと聞いている。だから今すぐになにか動きがあることはないはずだ。アメリカの方は、単純にダンジョンに手が回らなくなってきたから、何人か実力のある人間で、なおかつ他人の話を聞けるぐらいの知能がある奴と言われている」

「最後の部分、めちゃくちゃ馬鹿にしてないですか?」

「アメリカには数人、自国出身で他人の話を聞かずにめちゃくちゃをやる実力者がいるから、そんな連中と似たようなやつの相手はしたくないということだと思う」


 いるんだ、そんな奴が複数人も。

 んー……アメリカ、かぁ。


「アメリカなんて行ったことないですし、ちょっと興味ありますね」

「旅行感覚なんだ」

「エドガー、気にするな。特権持ちは基本的にこんな考えをしたような連中ばかりだから、気にすればこちらが疲れるだけだぞ」

「そっか」

「おかしくないですか? 学生気分で馬鹿なことを言ってるんじゃない、ぐらいに叱ってもいい言動ですよね? なんで、こいつは頭がおかしいからこれくらいは無視しておけみたいな話になってるんですか? 流石に泣きますよ?」


 俺にだって傷つく心ぐらいはあるんだからな?


「受けますよ! アメリカに行ってみたいって思いもありましたし、世界中のダンジョンが気になるのも本当なんですから! なにより、他人に頼られて断らないようにしようって思ってるんですから、受けないわけないじゃないですか!」

「そうか。ちなみに、今回はもう1人連れて行くことになっているから、仲良くしてくれよ」

「最初から俺が行くことは決まってるんじゃないですか! なんで聞いたんですか? てか、馬鹿にされたのめちゃくちゃ損じゃないですか?」

「まぁまぁ、落ち着いて」


 涼しい顔でパソコン触ってやがって、ムカつくぞ!

 エドガーさんに抑えられながらも、グリズリーさんにめちゃくちゃ文句を言っていたが、グリズリーさんは普通に無視していた。


「連れて行くって、日本人なんですか?」

「あぁ、日本人だ」

「私よ」

「え?」


 追加の人員なんて今までにいなかったから、誰がやってくるんだろうなんて期待していたんだけども……背後から聞こえてきた声は、馴染みのあるものだった。

 振り返った先にいたのは予想通り、桜井さんだった。


「……え? 桜井さんって組織に入ったの? いつ?」

「この間のパーティーの後にね。私はこの国だけで終わるつもりはないから、組織に入って貴方と同じように世界で活躍できる召喚士になりたいと思った。だから勧誘を受けて、そのまま組織に入ることにした」

「それは、やっぱり稲村先生に憧れて?」

「そうよ。私は必ず、あの人みたいな召喚士になってみせるんだから」


 目標があるのは、いいことだよな。これは持論でしかないけれども、人間は目標があった方がメリハリのある人生を送れると思うんだよ。特に目標もなく、惰性で生きているだけではつまらない。生まれてから長くても100年しか生きられないのだから、その短い人生の中で、自分がなにをしたいのか……しっかりと意識しながら生きるのが、人生を楽しむコツだと俺は思っている。まぁ、俺には憧れる様な人がいないから、今はとにかく自分の力を使って人を助ける、みたいな曖昧な目標しかないけど。


「今岡俊介君」

「はい」

「貴方は、吉田遊作しかライバルとして見ていないようだけど、私も貴方を超えて、世界で最も優秀な召喚士になって見せるわ」

「俺を超えたら世界で最も優秀な召喚士に成れるのか?」

「そうよ」


 そうなの!?


「だって、稲村先生が貴方ほど才能がある召喚士はいないって言っていたから」


 この女……もっとクールで冷静だと思ってたんだけど、実は頭の中が結構稲村先生でいっぱいなんじゃないか? というか、今までよくその本性を隠し通して生きてこれたな……尊敬するぞ。


「吉田君は貴方とは違う道を行って、貴方を超える道を模索するのもありだと思っているみたいだけれど、私は貴方を観察して、ひたすらに学んでそのうち追い越す! それが強くなる最短の道だと判断したわ」

「まぁ、人生に最短の道とか正解なんてないと思うけど、君がそう思うならそうなんじゃないかな? でも、学ぶなら稲村先生とかは駄目なの?」

「あの人は、教師だから私だけに肩入れするのは迷惑じゃない」

「た、確かに?」


 稲村先生は、平等に全ての生徒を見つめている。新任教師とは思えないほどの成果も残していたし、彼女の教えを受けた生徒たちは目覚ましい活躍を……するかもしれないので、その邪魔をしたくないって思いはあるのかもしれない。


「いやぁ、高校生なのにみんな優秀だよねぇ……私も少しだけ羨ましいな」

「お前は最初から才能が無かっただけだろう」

「酷いこと言うなぁ……私が君の昔馴染みじゃなかったら、殴ってたよ」

「……お前みたいな短気な人間が召喚士や魔術師にならなくて本当によかったよ」


 グリズリーさんとエドガーさんはなにをコントみたいなことをしているんだ。

 はぁ……誰も彼もが好き勝手だなぁ。

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