第47話 新種
学園の授業がつまらないと思うようになってから、俺は国から依頼を受けることが多くなった。命を狙われなくなったって言うのも大きいが、なにより働けば働いたぶんだけ金が入ってくるってのが楽しくて仕方がないのだ。勿論、毎日学園に行かずにダンジョンに行ってばかりって訳ではないが、頻度として週5日のうち半分の3日はダンジョンに潜っている。おかげで、召喚士としての勉強ならまだしも普通の高校生で習う分野の知識はかなり遅れている。
「国と喧嘩したって本当なんですか?」
「……何処でそれを?」
「受付の人が」
「あぁ……」
悪魔の巣へとやってきた俺は、柊さんと喋りながら悪魔を狩っていた。
本当は1人で入るつもりだったのに、いきなり連絡が来たので素直に答えたらついてくることになっていた。連絡先を交換してからこれで共にダンジョンに潜るのは2回目……週に1度は連絡が来ているけど基本的に無視していることが多い。
連絡を無視することが多いのは……ちょっと協会の人間なんじゃないかってのを疑っていたからなんだけど、パっと見つかるような証拠はなかったので泳がせるような形で活動している。
「
「そうなんですか……確かに、ちょっと受付の人も顔を見てドン引きしてましたけど」
「そんなに酷い顔してた? 流石に傷つくんだけど」
「あはは……でも、問題児なんじゃないかなとは思ってましたよ?」
「奇遇だなあ、俺も」
「えへへ……えっ!? それって私のこと問題児だと思ってたってことですか!?」
柊さんは女性にしては身長がそこそこ高いので、大きな声を出されると俺の耳がキンキンするのでやめて欲しい。あと、男子高校生を相手に割と無防備で距離感が近いのも俺がスパイを疑っている理由の一つだ。男子高校生なら黒髪巨乳のお姉さんでも近づけておけば引っかかるだろう見たいな感じに……俺の疑心暗鬼と言われたらその通りなんだけども。
喋りながら歩いていると、地面を突き破ってボコボコと悪魔が何体か飛び出してきた。それを見て、柊さんは悲鳴を飲み込んでから手を前に突き出し、ピカっと悪魔たちの身体が光ると同時に巨大な爆発が起きた。
「ふ、ふぅ……どうですか? 見直しましたか?」
「……いや、全然」
「え? え? なんで?」
「それが他のモンスターにもできるといいんですけどね……後、ダンジョン内を無暗に破壊しすぎ。あんまり崩壊させると地上にどんな影響があるのかわからないんですから、あんまりボンボン爆発させないでくださいよ……そもそも今の下級悪魔如きに出す火力じゃないでしょう」
「うぅ……後輩の正論は辛い」
「全く……そんなんじゃ、魔術師全体の印象が悪くなるかもしれないんですから、もう少し気を遣ってください」
俺がなんとか召喚士のイメージを変えようとしている横で、魔術師のイメージを下げるようなことをしないで欲しい。と言うか、柊さんのやっていることは魔術師どころかダンジョンに出入りしている全ての人間に対して迷惑をかけるかもしれないことなんだから、論外である。
「爆発以外のまともな魔法無いんですか?」
「あ、あれが高火力で安全かなぁって……はい、余剰火力です」
モンスターを相手に及び腰になっているからそんな余分な火力を放つことになるんだよ。見ている感じ、魔術師としての才能はありそうなのに……羨ましい限りである。
「主様、また来たぞ」
会話には敢えて入り込まず、じっと周囲の警戒をしていたイザベラが悪魔の接近を教えてくれた。
また下級の悪魔がぞろぞろと群れでやってきたのだが、その群れを見て俺はふと思ったことがあった。
「イザベラ、派手な魔法を使わずにあの群れを殲滅できるか?」
「派手な魔法と言うのがどのようなものを指すのか、具体的に妾にはわからんが……」
すっと、イザベラが手を横に動かすと……その通りに悪魔の群れが全員上半身と下半身で横に両断されて塵となって消えていった。
「こんなものか?」
「……ごめん、全くわからなかった」
「あ、私もわからなかったです」
俺に魔法の才能が無いからとかではなく、単純に高度過ぎて理解できなかったって感じだ。多分、普通に斬撃を飛ばしただけの魔法ではないと思うんだが……どういう原理であんな一斉に身体を切断できるのか俺には皆目見当もつかなかった。
「あれぐらいのことをしろとは流石に言えませんが、もうちょいなんとかなったりしませんか?」
「が、頑張ります……風魔法で再現できないかなぁ?」
すぐに思い当たるようななにかがあるってぐらいには、柊さんにも魔術師としての才能があるのだろう……それか、きちんと学んできた証拠なのか。俺にはまず魔法に関する知識がない。知識が無いから何をしているのかわからない、って状態になっているのがな……召喚士に過度な魔法の知識は必要ないとは言われるけど、イザベラがこれほど達者な魔法使いだと、流石に俺も少し知識を仕入れる必要があるだろう。
「むっ?」
「え?」
「主様っ!」
ちょっと感心しながら前に歩き出そうとした瞬間に、直感的に俺は動きを止めたが、それよりも速くイザベラが反応して俺の前に飛び出し……クロスさせた腕に小さな切り傷を作っていた。
「今のはなんだ?」
「わ、わからないです! こんなの初めて見て……ひっ!?」
「……聞いたことないぞ、こんな奴がいるなんて」
ダンジョン内で発見されているモンスターは国が発行している書籍を読めば全部載っている。まるでゲームの攻略本みたいだとネットでは言われているが、実際にダンジョンに潜る前に徹底的に読み込むべきだと言われているのだが……当然ながら、人類が今まで遭遇したことの無いモンスターは載っていない。
すーっとなにもない空間から現れた灰色の悪魔は、イザベラの腕に傷がついているのを見てケラケラと笑っていた。
「擬態能力……透明化?」
「主様、妾の探知にも引っかからなかったぞ」
「魔力の遮断? そんなアホな……体内に魔力を完全に格納できるなんて、そもそも生物として──」
「また来ますよーっ!?」
灰色の痩せ細った悪魔が両爪を振るうと、地面をガリガリと削りながら俺たちの所に迫ってきたが、イザベラの結界によって防がれた。
「強いか?」
「そこまでは……ただ、探知できないのは厄介だと思うぞ。透明化されたら妾でも追いきれん」
「厄介だが強くない……なら少し下から上がってきた新種か。早い所、ダンジョン内のモンスターを減らしてやらないとな」
こんな上の方に見たことも無いモンスターが現れるなんて、バランスが崩れかかっている証拠だ。さっさとこいつを片付けて、奥地に向かう!
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