第46話 トラブル体質

 嘆きの森の中をしばらく歩いても、モンスターと出会わなくなってきた。


「蠅の群れを掃討したのが大きかったかな……ここまで出現しないなら依頼完了ってことでいいだろうし、さっさと帰るかな」


 バランスを保つためにモンスターをとにかく狩ってくれと言われるこの依頼だが、あらゆるダンジョンで頼まれることになる。なので、引き際を見極めるのが大事なのだと先達の稲村先生に教えてもらった。なにせ、どれだけモンスターを倒したって追加報酬がある訳ではないので……民衆の為になる最低限だけ仕事すればいいよ、なんて日本最強に近い召喚士にお墨付きを貰っているので、ここら辺でいいだろう。


「も、もう終わりですか?」

「まぁ……と言うか、何もしてなかったよね?」

「あはは……ごめんなさい」


 柊さんは俺の言葉に素直に謝ってきた。

 あまりにも慣れすぎている初手謝罪にちょっと引いてしまったのだが……まぁ、別にバランスを保つ仕事で毎回しっかりと本気を出してやれなんて誰も言わないんだから俺はいいと思う。それはそれとして、何もせずに後ろをついてきただけなのはイラっとするが。



 ダンジョンの入口まで戻って来た俺と柊さんを見て、受付の人は怪訝な顔をしていた。まぁ……違うタイミングで入って一緒に魔術師と召喚士が共に出てくることなんてそうそうないだろうから仕方ないんだけども。


「今岡俊介、ダンジョンでの活動を終えました」

「あ、柊七海も終わりました!」

「は、はい……柊七海さんと、今岡俊介さんですね」


 登山届ではないけど、こうしてダンジョンに入ったり出たりしたことを報告することでダンジョン内の管理をしているのが、この受付の人の仕事だったりする。ダンジョンの規定で、ダンジョンに入ってから18時間以上の時間が経過した人間は遭難者扱いになって、捜索の依頼が出回るようになっているので、基本的にはダンジョンは18時間が経つ前に外に出ることが推奨されている。一応、事前に申告すればダンジョン内に寝泊まりもできなくはないのだが……当然ながら内部はかなり危険な場所なので全然推奨されていない。


「今日はありがとうございました。次は何処に行く予定なんですか?」

「……え? なに? もしかしてついてくる前提で喋ってる?」

「はい、そうですが」

「絶対に嫌だ。俺は1人の方があってるって今回でわかったから二度と人と一緒にダンジョンとか入らない」

「えっー!? そんなの自殺行為ですよ!?」

「実際に俺と一緒にいたんだから安全だってわかってるだろ。そもそも無茶をしてまで深く潜ろうなんて思ってないから、それでいいんだよ」


 柊さんからは理解されないかもしれないけど、俺は1人で黙々とモンスターを鏖殺している方が合っているのだ。そもそも他人と深く関わること自体が俺の性格に合っていない……ましてや、ダンジョン内で偶然あった人と意気投合してなんて絶対にありえない。俺はそんなコミュニケーション能力が高い人間ではないのだ。


「でもでも、ダンジョン内でイレギュラーに遭遇した時のことを考える2人はいたほうがいいですよ!」

「イレギュラーにだってある程度の法則性が存在することは習った。もっとも浅い場所にそのダンジョンで最強と称されるようなモンスターが出てきたりしない。それでも警戒を怠らずに俺はダンジョンに潜っている……と言うか、そこら辺を理解せずにダンジョンに1人で潜る訳ないだろ」


 最初から全て想定して俺はダンジョンに潜っている。だから、ハナとイザベラの力を信頼しながらも過信はせずに慎重にしか進んでいないのだ。今日はその限界点だと考えていた場所まで進んだが、こちらの想定以上の力がハナにはあったので、次からもう少し進もうぐらいにか思っていない。

 まだなにか言いたそうにしている柊さんにちょっとだけイラっとしたので、俺は携帯電話とSNSアプリのIDを書いた紙を無理やり渡す。


「まだなにかあるならそっちで送ってきてください。俺はさっさと帰るんで……寮にだって門限があるんですよ」


 召喚士として活動しているから今日は門限を守らなくても別に怒られたりすることは無いんだけども、決められている約束事を特別だからって破るのが嫌いなので俺はしっかりと門限を守るつもりだ。


「じゃあ、俺は忙しいので」

「え? えぇ? こ、これってナンパですかっ!?」

「そうかもしれないですね……年下の将来有望な人にナンパされるなんて羨ましいですね。私も金持ちの彼氏と結婚したいなぁー」


 なんか柊さんと受付さんがきゃいきゃいと背後ではしゃいでいる気がするが、俺には関係ないと決めつけてそのまま外へと飛び出した。

 ダンジョンに入るだけでなにかしらのトラブルに遭遇するのは、本当に俺がトラブル体質なのだろうか……いや、自分で認めてしまったらなにか大事なものを失ってしまいそうになるからやめておこう。



「……ダンジョンに入るのってそんなに疲れるのかい?」

「多分、俺だけだ」

「なんで?」


 俺だって知らないよ……ただ、ダンジョンに入ってなんの問題も無く終わったことの方が少ないから、多分俺はトラブル……なんでもない。

 疲れ果ててベッドに横になったままぼーっとしている俺を見て、遊作がちょっと引き気味って言うか……ダンジョンって怖い所なんだなみたいな目線を向けてきているけど、実際にはそんなことないから。遊作の実力があればダンジョン内でそこまで困るようなことにはならないはずだから……俺がおかしいだけってのは認めたくないけど、俺がおかしいだけだから。


「僕がもし、免許を取得したら一緒に潜るかい?」

「あ? いや……俺とお前はライバルだからな。一緒に潜らずに、成果で競った方が良いんじゃないか?」

「ライバルかぁ……僕としては友達って感じなんだけど」

「友達とライバルであることは両立するだろ。バトル漫画でもないんだからさ」

「そうかな? じゃあライバルって名乗っておこうかな」

「ノリが軽すぎる……もっと湿度を込めてライバルって名乗ってくれ」

「意味がわからないこと言ってるね」


 なんでだよ……もっとこう「俺とお前はライバルなんだっ!」みたいな感じにならないの? やっぱり爽やか系なイケメンがライバルって無理なのかな。

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