第38話 人間の敵
「……ダンジョン内で遭難した人間の捜索?」
「あぁ」
突然知らない番号から連絡が入り、学園内の会議室に呼ばれた俺の前には3人の人間がスーツを着て俺のことを待っていた。1人は俺と同じ召喚士の免許を持っている人らしく、その横にいる2人の男は……協会の人間らしい。
協会の人間が俺に対してなんの用があるのかと思ったのだが、告げられたのはダンジョン内で遭難して行方不明になっている人間を捜索しているから、それに加わって欲しいと言う依頼だった。国からの依頼がこんな意味の分からない方法でやってくるなんて思ってもいなかったんだけども、俺がこれを断る理由は特になかったりする。
「いいですけど、捜索なんて俺みたいな新参者にできますかね? 俺がそのまま新しい行方不明者になるだけでは?」
「……そんなことはないさ」
ふーん……まあ、人が困っているから助けてくれって依頼で断る理由もないから受けるんだけども……俺は正直、既に協会の人間に対して不信感を持っている。なにせ、免許の試験官に圧力をかけられる人間なんて協会の人間しかないんだから、俺は少なくとも嫌われている訳だ。この依頼だって、体よく俺のことを始末するためのなにかではないかって思いはある。
疑いだしたらキリがないとはいえ、なにも疑わずに純真に依頼を受けられるほどに純粋な人間なつもりなんて全くない。ただ……いきなり対決姿勢を示しても俺にとってデメリットがデカすぎるので、不信感なんて持ってませんよって感じでちゃんと従順になっておく必要がある。
「依頼は受けてくれるってことでいいのかね?」
「勿論です。報酬も出るんですから、受けない理由はないですよ……俺だって協会に所属している召喚士なんですから」
にっこりと笑顔を笑顔を浮かべてそう返すと、ずっと黙っていた強面のおっさんの眉がぴくりと動いた。白髪も相まって滅茶苦茶威圧感はあるが……滅茶苦茶悪い人には見えない。
「ありがとう。しっかりと報酬は払うよ」
それより、黒髪メガネのこの優男の方が明らかに腹黒そうな感じだ。さっきからこちらに向けてかけてくる言葉もなんとなくこちらを探るようなものだし、なんとなく俺のことを嫌っているんじゃないかなって感じがするのだ。
更に横に立っている召喚士のおっさんは、完全に目を閉じて俺のことなんて視界にいれていない。多分、彼は協会直属の召喚士なんだろうが……将来的に俺の敵になるかもしれない存在だ。
はぁ……モンスターから人類を守りましょうってやってるのに、なんで人類同士で疑い合ったりしなきゃいけないんだよ、なんて思ってしまうが……それこそが人間の本質、争い合う動物としての本能だから仕方ないのかもしれない。実に非合理的で愚かしい生態だと思うよ……人間の俺ですら、ね。
ぴちょん、と天井から落ちてきた水滴が湖面を揺らす。
「イザベラ、なにか確認できたか?」
「いや……全くだな」
協会の依頼によって俺は地底湖と呼ばれているダンジョンへと来ていた。なんて直球のネーミングなんだと思ったが、中に入るとその言葉通りの構造をしていた。まず……内部が迷宮構造になっておらず、だだっ広い湖面の上に岩で出来た足場が幾つか存在しているだけ。遠くから滝の音がするので、多分下にまだ別の階層があるのだろうが……湖面に少しだけ浮いた石の足場しかないなんて、とんでもないダンジョンだ。
ちらっと湖を覗き込むと……透き通っているのに底が見えないほどの深さがあるようで、水の中には多数の水棲系のモンスターの姿が見える。
「どう思う?」
「こんな見晴らしのいいダンジョンで行方不明など、死んでいるか最初から主様を嵌めるための罠か」
「だよね。はぁ……嫌なことだね」
「仕方あるまい。人間は、自らの地位が脅かされるかもしれないと思うと、どうしても攻撃的になってしまうのだろう? 主様の力はあまりにも強大な上に、組織に取り込むにはあまりにも自由すぎる性格をしている。だから……排除したくなる」
「あり得るか? 自分たちの利益のためだけ考えて、モンスターによる人間の被害のことは考えてないってことだろ?」
「あり得る。そもそも、連中は下々の人間が苦しもうが関係ないのだろう……自分たちがよければそれでいい……いや、そもそも良い生活ができるのは自分たちだけでいいということか」
み、醜いな……あまりにも醜いから、同じ人間だと思われたくないと感じてしまうよ。イザベラやハナが人間に対してどんな感情を持っているのか、ちょっと怖くて聞けてないのだが……こんな姿を見せられたら、誰だって人間の味方なんてしたくなくなるよな。
「ただ、自分のことしか考えていないというのは如何にも動物的な考えで、妾はそこまで否定しないがな……そもそも、吸血鬼である妾にとって人間など本来は餌でしかない。今でこそ主様の魔力だけで動いているが、妾にとっては性格がクソな人間だろうと人間は人間だからな」
「そっか……そうだね」
「無論、主様は違うぞ?」
「それ、素直に喜んでいいのかな?」
「さぁ?」
水面から魚が飛び出してきた瞬間に、イザベラの魔法によってバチンという音と共によって絶命する。感電死した魚は全身からプスプスと焦げ臭い煙を発しているが……しばらくするとその死体が消えていく。
地底湖はこうして水の中から水棲系のモンスターが飛んでくる危険なダンジョンなので……行方不明者なんてとっくに水底に引きずり込まれていると俺は思う。とは言え、依頼を受けているのだから調査しない訳にはいかないだろう。見つからなければ、一週間ほどで切り上げてもいいと言われているし、たとえ見つけることができなかったとしても報酬は振り込まれることになっている。まぁ、問題は……そもそもこの依頼がちゃんとしたものなのかって部分なんだけども。
「むつ!?」
イザベラが俺を庇うように前に出て結界を張ると、水中から飛び出してきた巨大な蛇の牙が結界に食い込むのが見えた。
「シーサーペント、にしてはデカいな」
「……主様、残念な知らせだ」
「わかってるよ」
見た瞬間にわかってしまうのが召喚士の辛いところだな。
俺に向かって襲い掛かってきたこのシーサーペントモドキのモンスター……こいつは召喚獣だ。
「やっぱりまともな依頼じゃなかったのかよ。それにしたってこんな直接的に命を狙ってくるなんて、俺はよほど無意識に相手の逆鱗に触れていたらしいな」
「……もしかしたら、主様が召喚士として活躍すること自体が逆鱗なのかもしれないな」
「ありえなくはないか……取り敢えず、さっさとこいつを蹴散らして召喚した奴を捕まえる。考えるのはそれからだ!」
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