第34話 試験
召喚士の免許を取得するためには試験を突破しなければならない。合格率は大体50%ぐらいで、そこそこ難しい試験らしいが……求められる能力はモンスターを殺せることだ。究極的に言ってしまえば、モンスターを殺して人類の生存圏を確保することができるのならば誰だっていいのだ。実際にはモンスターをダンジョンの中に押し留めることができるぐらいの余裕があるので、人格面なども考慮されているんだけども。
「今岡俊介様ですね?」
「はい」
「では、未成年とのことですので学生証提示をお願いします」
国立魔術総合学園の人間であることを証明しなければ在学中での免許取得は不可能。必然的に、俺は学生証を提示することになるのだが……受付の人は淡々とそのまま書類に何かを書き込んで終わらせていた。
「では、試験についての説明があるので、あちらの部屋でお待ちください」
笑顔でさっさと行けと言われているらしいので、俺はそのまま従って個室に入ると……そこには既に人が待っていた。茶色の髪を後ろで纏めている、切れ目のちょっと怖そうな女性がスーツ姿で立っているのは、中々の迫力だな。
「……お前が、1年生で免許を取りに来たという奴か」
「は、はい」
「そうか。私は春山美月……今回の試験官と務めさせてもらう。まずは、試験についての説明だ」
大まかな内容は先に聞いているのでそこまで問題にはならないんだが、流石になんの説明もせずに試験を受けさせるなんてことは国としてもしたくないのか、こうして説明会があるらしい。
通常の資格試験などと比較して違う点を上げるとすると……やはり試験日が決まっていないという部分だろうか。免許取得をしようとする人間がそれほど多くないので、試験を受けたいですと申請すると日程が向こうから送られてくるシステムになっている。たまたま、同じ日に申請している他の人がいると複数人での受験になるらしいが……俺は1人の様だ。
「──と、ここまでは他の試験と大して変わらない、ただの筆記試験だからな。だが、実技試験は違う」
試験官を務めてくれると言っていた春山さんが、力強く警告してくれているようだけど……別に俺は試験そのものに対してなにか特別な感情を抱いていない。なにせ……俺が今から挑もうとしている試験はただの通過点でしかないからだ。
「実技試験では、お前にダンジョンで行動してもらうことになる。その間に出現したモンスターとの戦闘、後処理、そして定められた目標を達成できるかどうかが評価点になってくる。私は試験官であると同時に、採点者でもあり、そしてお前の護衛でまる……万が一命の危険に瀕した時、もしくはお前が辞退を申し出た時には助けてやる」
「どうも」
「……大丈夫か、本当に?」
春山さんは多分、この仕事が長いのだろうな。俺のようなガキがどんな心構えでここに座っているのか、見ただけでわかっているようだ。そして……異様にリラックスしている俺のことを怪しんでいる。
自分は特別な存在だ。自惚れではなく、遊作や稲村先生のことを信頼しているからこそ、彼らが評価してくれた特別という言葉が今の俺を支えている。試験なんぞに、落ちるつもりはない。
筆記試験は、遊作が言っていた通りそこまで難しいものではなかった。
試験の本番は筆記試験が終わった後の実技試験。実際にダンジョンに潜って生き残れるのか、そして極限状態で生き残るための状況判断能力が備わっているのかどうかを見るものだ。
春山さんに連れてこられるままにやったきたのは……おどろおどろしい雰囲気が漂ってくる場所だった。
「ここは、悪魔の巣と呼ばれているダンジョンだ。内部は複雑な迷宮のような構造になっていて、まるで生きているかのように動いて内部構造を変化させることがある。出現するモンスターはどれも言葉にはし辛い醜さを持った存在……お前には
「制限時間無しで目当てのモンスターを10体、ですか……結構簡単そうに聞こえますけど」
「そう思っていろ」
なんか棘がない?
案内されるままに内部へと入ると……迷宮の壁が肉のようにどくどくと脈打っている。端的に言って……すげぇ気持ちが悪いダンジョンだ。
「では、始め」
いきなり開始を宣言されて、俺はその場で数秒突っ立っていた。
「どうした? 早く探しに行け……ちなみに、時間は無制限だと言ったが、かけすぎると減点するからな」
「ですよね」
俺は素直に従うことにした。
「ハナ、頼む」
召喚されたハナはフルアーマーの状態で、顔まで兜で覆っている。これは万が一のことを考えて試験中は喋らないようにしてくれって指示に従ってくれているからだ。顔が見えなければ、喋ることができるとは思われないだろうとの考えなんだが……ちらりと春山さんの方へと視線を向けると、人型を召喚したことに驚いているようだけども、そこまでの反応ではない。つまり……バレていない。
『頼むと言われても、索敵は苦手だぞ』
『……なんとかする』
ハナとの会話は別に魔力でもできる。わざわざ喋る必要はないのだ……面倒だけども。
さっそくその
「悪魔?」
小さな灰色の悪魔のようなモンスターが、俺たちを見つけて目を光らせていた。
「デビルゴブリンだな」
「悪魔なんですか? ゴブリンなんですか?」
「ゴブリンの悪魔だ」
いや、だからどっちだよ。
奇声を発しながらデビルゴブリンとやらが暗闇から飛びかかってきたが、その数は10体だった。ハナ──に指示を飛ばそうとしたら先に動いていた。手に持っていた剣を横に振るだけで、飛びかかってきた先頭の3体の上半身と下半身が分かたれた。
「は?」
春山さんの素っ頓狂な声が聞こえてくると同時に、ハナが1歩前に踏み出して高速で突きを繰り出すと更に5体のゴブリンの頭に穴が空き、状況を今更察して逃げようとしていた2体も、ハナが剣先から放った魔力の刺突によって心臓を貫かれて絶命した。
10体のデビルゴブリンを片付けるのにかかった時間は……おおよそ2秒強。まぁ……早い方ではないだろうか。
「じゃあ、探しに行きましょうか」
このレベルが相手ながら
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