第33話 未来に向けて
「……はっ!? だ、大丈夫ですか先生っ!」
本気って言われたからこちらも完全に本気で戦ってたんだけど、そのまま勢いで稲村先生の召喚した堕天使の胸を貫通してしまった。本気で召喚した召喚獣の胸を刺し貫くなんて、普通に殺すレベルの傷だと思ったんだが……片膝をついただけで、稲村先生はすぐに立ち上がった。
「大丈夫……致命傷にはなってないから」
そう言って立ち上がった稲村先生の身体はふらついていたが……本当に大丈夫そうだったので俺は安心していたんだけども、身体を貫通されたはずの堕天使は消えることなくその場にじっと留まっていた。
「あ、この子はこれぐらいじゃ消えないよ……私の魔力を吸って自己修復するし」
「……本当に、俺って稲村先生より強くなれるんですか?」
「えー? 今のでも納得できない?」
「いや、その……多彩さと言えばいいんですかね」
「それは経験だよ」
経験で済ませていいレベルではないと思うんだけどな。
取り敢えず、稲村先生が無事そうでよかった……これでもし致命傷を与えていたら、俺のトラウマになってしまうところだった。と言うか、普通に犯罪になっちゃう。
「未来を自分で選択するのは力ある者の権利よ。だから……今すぐに召喚士になって、世界の為に戦うのでもいいし……なんなら今から普通科に転科して普通の人間として生きていくのでもいいんだよ?」
「いや、今更召喚士にならないなんて道はありえませんよ。それに……力があるからって絶対に孤独なんてことはないと思います。それは……俺の友達が証明してくれますから」
「……そっか」
強者であるが故の孤独なんてものは存在しないのではないかと思う。人間はどんな人だって他人と繋がりを持つことができる……たとえ弱者だろうと、強者であろうとも……人間は完全に独りになることなんてできないんだ。
「それに、稲村先生だっているじゃないですか」
「……確かに、実力を追い抜かれても私が貴方の先生であることは変わりないもんね」
そうだ……俺は恵まれている人間だ。
才能があって最強の力があったとしても……俺は孤独になったりはしない。
自分の進むべき道を完全に見定めた俺は、とにかく召喚士になって召喚士の地位そのものを向上させたいと思った。その為には、俺の召喚士としての才能が必要だ。稲村先生は最強の力は人を孤独にすると言っていたが、最強の力は信奉者を増やすことができる。確かに友人を作ることは難しいかもしれないけど……その力に憧れる人間を多く作れるのは、最強の力だけだ。
召喚士の地位を向上させるには、まず俺が召喚士として最強であることを示さなければならない。そして……魔術師と同じ職業なんだぞと示すんだ。
「……遊作」
「なに?」
「魔術師もできるお前に聞きたいんだけど……なんで人は召喚士のことをダサいと思うんだろうか」
「まぁ、単純に見栄えが悪いよね」
「見栄え、か」
「だって、簡単に言うと自分は戦わずに背後で眺めてるだけでしょ? 普通に考えて、自分でシュババって動いてモンスターと戦ってる方がかっこいいじゃん」
モンスターとの戦いは命をかけたものだから、そんなかっこいいとかかっこよくないとかで決めるものではないと思うんだけど……子供がそう思ってしまうのは確かなのかな? いや、魔術師たちがSNSで人気になっているのを見ると、やっぱり誰もがそう思っているってことかもしれない。
「結構大事だと思うよ?」
「うん、他には?」
「他にかぁ……戦うべき相手のモンスターを従えているのが気に入らないって人はいるみたいだよ」
「それは……まぁ、仕方ないことかもしれないな」
ここ数十年は1年に数件しか発生していないが、ダンジョンから溢れたり何処からともなく現れたダンジョン外のモンスターによる人間の襲撃事件。そんな事件なんかで家族を失った人たちからしたら、モンスターを使役している姿を見ることすらも苦痛なのかもしれない。
「そこら辺は正確な情報を発信していくしかないよな……ダンジョンのモンスターと使役しているモンスターは根本からして違う存在だってさ」
「そうだろうね……でも、人々の認識ってのはそう簡単に変わるものじゃないから」
そこは難しい所だな。
「じゃあ、逆に魔術師が人気になる理由は?」
「戦いがわかりやすい。炎をばーんと出したり、雷をバチバチってしたり……とにかく素人目にも戦っているってのがわかりやすい特徴はあるよね」
「召喚士はモンスターを召喚しているだけだから?」
「まぁ……君みたいに人型を召喚できれば別なんだろうけどね」
ふむ……だーっ!? なにもわからん!
「マジでどうすればいいんだ……誰か答えを教えてくれよ」
「答えを知っている人がいたら、その人が実践してると思うよ? 誰も解決方法を知らないから、今もこうして召喚士の立場が向上されていない訳でしょ?」
「正論も今は聞きたくないっ!」
「あはは……」
はぁ……俺が個人でできることなんて限られてるのかなぁ……いや、でもなにかができるはずだ。その何かを自分で探さなければ何も始まらない。
「俺……召喚士の免許試験を受けるよ」
「もう?」
「あぁ……なんかいけそうだし、早く召喚士になってやりたいことが沢山あるんだ。学園でグズグズしてられないことがわかったんだよ」
最初はゆったりと召喚士になれるといいなーぐらいの気持ちだったけど……今の俺は使命感とでも言うべき感情によって突き動かされている。数年後に、自分を振り返って当時の自分は馬鹿だったともう日が、もしかしたら来るかもしれない。けど……それでも俺は自分で決めた目標に向かってチャレンジしてみたいんだ。
稲村先生が認めた俺の才能が、果たしてどこまで行けるのか……それを世界に見せつけるんだ。
「遊作!」
「なんだい?」
「……ついてこいよ」
「え」
「俺はお前のこと、ライバルだと思ってるからな」
今の俺と遊作が戦ったら、多分普通に圧倒できるだけの実力差がある。でも……遊作はそんな小さなところでまとまっているような人間じゃない。必ず俺を追いかけて……いや、追い越して食い殺しにきてくれるはずだ。
「仕方ないなぁ……寂しがり屋の君の為に、僕も頑張るよ」
「誰が寂しがり屋だっ!」
俺は別に、1人が怖い訳じゃないからなっ!
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