第28話 短気な人間
「えっー!? ダンジョンはまだなんですかぁっ!?」
「……今岡君ってあんまり人の話を聞かないよね。そういう所、自分が召喚する契約生物と似ているんじゃない?」
「ちょっとショック受けてる所に、更に鋭い指摘するのやめてくれませんか? 普通に心が痛いので」
ダブルでショックなことを言われたんだけども……まず、ダンジョンで実戦経験を積む授業は早くても2学期後半、クラスの状態によっては3学期までずれ込むこともあるらしい。僕としては滅茶苦茶ショックなんだけど……ちょっと考えればわかることだったのかもしれない。
そもそも、ダンジョンでの実習はどれだけ教員が細心の注意を払っても命の危険が付き纏うことになる。そうなると、少しでも被害を減らす為に生徒たちが戦っても大丈夫だと思えるほどの実力を付けなければ連れて行くことはできない。だから、早くても2学期の後半って言い方なんだ。クラスの全員がそれなりに才能を持っている生徒で構成されていたら、2学期の前半から行けていたかもしれない訳だな。
「3学期になっても厳しそうな状況だったらどうするんですか?」
「転科を勧めちゃうよ。残念だけどこの学園は実力重視だから……勿論、それでも諦めきれない人は留年してもう1年学んでもらうことになるかな」
おぉ……結構シビアなこと言うんですね、稲村先生。
実力主義の世界で生きていくにはそれぐらいシビアにならないといけないということなのかな。中々に世知辛いと思わなくもないけど、命をかけて戦う職業なのだから妥協はよくないだろうな。
「はぁ……じゃあダンジョン実習が始まるまでは結構暇なんですね」
「そんなこと言ってられるの? はっきり言って、今の君はちょっと怠けてきてるよね……まぁ、元々あんまり勤勉な人間ではないと思ってたけど」
う……バレてたか。
割と昔から自分にサボり癖があるのは自覚しているが、治そうと思っても治せないのがこういう性格の問題だったりする。自分で開きなっているようであんまり言いたくないけど、こういうのは時間が解決してくれるものじゃないかな……子供の頃は片付けられなかった人間が、大人になったら片付けられる人間になるってのはよくある話な訳だし? 自分がそうとは言ってないけど。
「とにかく、今は目先のことから少しずつよ。今岡君からすると少し退屈な日常かもしれないけど……基礎は大切だから、ね?」
「……はい」
自分でもどうかと思うけど、俺は稲村先生の言葉なら真面目にしっかりと真正面から受け止めることができる。理由は、単純に稲村先生が俺よりも高い次元にいる召喚士だから。この人の言っていることだったらきっと正しいだろうって、頭ではなく心で理解してしまっている。逆に言えば、召喚士としての実力が足りない人間に何を言われても俺は受け入れることができない性格だと言うこと。かなり危険な思考をしていると自分でも思う。
実習が随分と先になるのならば、今の俺ができることはなんだろうかと考えた時に……もっとも簡単に俺が出来そうな自己研鑽は、魔法について知ることだと思った。才能が無くて俺自身が魔法を使えなかったとしても、召喚獣が扱う魔法をしっかりと把握していたりすると戦術も組み立てやすくなるし、なによりモンスターが使ってくる魔法に対する自分へと対策にもなる。
図書館を目指して校内を歩いていたら……前から複数人の男女グループが歩いてきた。でかい声で喋っているから陽キャ集団だと思い、俺はなんとかその視界から逃れようとした。
「あ? てめぇ……俺は忘れてねぇぞ」
「え?」
逃れようとしたんだけど、普通に目を付けられた。魔法生物科の人間であることを馬鹿にされると思ったのだが、想像とは違う声の掛けられ方をしたのでちらっとその顔を見たら……確かに俺も見たことがある顔だ。どこで見たんだったか……全く覚えていない。
「誰ですか?」
「っ! ぶっ殺すぞ!」
いきなりスイッチ入ってキレてきたんだけど、俺はマジで身に覚えがない……と思ったけど、キレて放出された魔力の質感で俺の記憶が刺激された。
「…………あー! 食堂で絡んできた、人が座ってるかどうかも目で見て判断できないやつか」
「てっめぇ……マジで調子に乗ってると痛めつけるぞ」
「普通に犯罪になるからやめた方がいいぞ、なんて言ってもお前みたいな馬鹿には通じないか?」
喧嘩腰で接されるとこっちも喧嘩腰で返したくなるのが人間ってものだ。それに、こいつみたいなやつはこちらが下手に出たって絶対に調子に乗ってエスカレートするだけなんだから、最初から対決姿勢を示してやった方がわかりやすい。
「……いいぜ、やってやるよ。模擬戦ってことにすればいいんだろ?」
「ま、確かにそういうことなら教師も許可してくれるだろうな……本当に模擬戦で済ませてくれるならな」
「お、おい……流石にそこまで行くと教師も黙ってねぇし、やめたほうが──」
「うるせぇ! こんな、魔法生物科のクズに馬鹿にされて黙ってられる訳ねぇだろ!」
「おいおい、この学校に来て学んだことは差別意識だけか?」
「殺すっ!」
俺だってこの半年間、学園で学んできた人間だからな……魔法生物科を馬鹿にされると腹が立ってくる。煽るような言動をすれば絶対にこういうやつは食いついてくると思っていた。別に恨みがある訳でもないし、魔法生物科を馬鹿にされたからって命まで奪おうなんて思っていない。ただ……俺は誰かに見下されるのが死ぬほど嫌いな男子高校生ってだけの話だ。
「俺が今からすぐに許可を貰いに言って来てやる……だからそれまでは我慢してくれよ?」
「絶対に殺す……魔術師科に入れなかった落ちこぼれ野郎が、調子に乗ってられるのも今のうちだけだぞ」
「その言葉、そっくりそのままお前に帰すよ……調子に乗ってられるのも今の内だけだってな」
俺は短気なんだ。馬鹿にされればキレるし、ちょっと褒められれば図に乗る……よくいるただの男子高校生で、自覚しながらもそれを止められない人間だ。きっと、俺の前で怒りに震えているこいつも同じような奴だ。魔術師科というエリートの道に進み、周囲を馬鹿にすることで自分に安心感を与えている。その結果がこの食いつきのよさ。
互いに思っていることは一つだけ……絶対にこいつを、ぶっ飛ばすってな。
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