第27話 クリスタルドラゴン
実技授業が本格化した瞬間に、俺の周囲から更に人が消えた。元々いなかったようなものだが、いよいよ視線を合わせてくれる人ですら遊作と桜井さんだけになってしまった。原因はいじめではなく……得体の知れない召喚魔法で誰よりも結果を残していることだろう。
俺としても自らの召喚魔法の謎を解き明かしたいという思いはあったんだけども、ここまで恐れられるようになるとマジで深刻な問題な気がしてくるのだ。召喚士になる為にこの学園に通っているのであって、別に青春がしたくて進学している訳ではないからそこまで気にしてはいないんだけども……流石に友達が2人だけってのは余りにも寂しいだろう。
「で、私しか組んでくれなかったと」
「はい、そうなんです」
結局、誰からも恐れられているので実技授業のペア決めも桜井さんしか組んでくれない。男女で組めって言われなかったら真っ先に遊作と組んでたんだけどな。
「まぁ、私としても貴方と一緒に授業を受ければ、学べることも多いと思うから歓迎ではあるんだけど……消去法で選ばられたって言われるとそれなりにムカつくのよね」
「すいません、消去法なんじゃなくて俺が組めるような相手が桜井さんしかいないんです」
「そうなんだけど……自分で言ってて悲しくならない?」
「滅茶苦茶悲しいです」
俺……やっぱりコミュ障の陰キャなんだなって。
くだらないことで落ち込んでいる俺なんて知らないと言わんばかりに、桜井さんは俺の言葉を無視して立ち上がり、教師に言われた通りに召喚魔法を発動する。今日の授業は、実際に契約した生物を召喚してしっかりとコミュニケーションを取る授業なのだが、同時に他人が召喚した契約生物ともコミュニケーションを取るのが課題らしい。
「クリスタルドラゴン」
「おぉ……やっぱり何回見ても綺麗だな。顔見知りだからコミュニケーションもしやすいかな」
「貴方も召喚しなさいよ」
「あ、すいません……イザベラ」
ここでハナを召喚しようかちょっと迷ったが、話を聞かずに暴走する確率が高いのはハナの方だと判断して、俺はイザベラを召喚した。
召喚されたイザベラは、真っ先のクリスタルドラゴンに視線を向けたのだが……距離が近いことを確認して、戦闘が目的ではないことを察してくれたらしい。
「イザベラ、桜井さんとコミュニケーション取ってあげて」
「ふむ……つまり、喋ればいい訳だな」
「……なんかそれは違うような気がするのよね。ちゃんと魔力でコミュニケーションを取らないと授業の趣旨から外れるような」
「面倒な……何のために口が付いていると思っている。妾はそこら辺の獣畜生とは違うのだぞ?」
「うわ……今岡君、よくこんなのとちゃんとコミュニケーション取ってるわね」
はい、無視無視。
聴覚から入ってくる情報をシャットして、俺は美しく佇んでいるクリスタルドラゴンに視線を向け……魔力で言葉を伝える。
『よろしく、クリスタルドラゴン、俺、今岡俊介』
『……何故、あれほどの存在を従えておきながら拙い伝え方しかできないのだ、お前は』
「えぇ……」
なんか開幕で呆れられたんだけど。
『イザベラ、口、喋る、俺、経験、できない』
『ふむ……あの吸血鬼が普通に喋るから、魔力で会話をする経験がないということだな。まぁ……あり得ない話ではないか。あの女は確かにおしゃべりだからな』
まぁ……今も桜井さんとベラベラ喋っっているイザベラを見れば、俺が魔力による言葉が上手く紡げない理由がわかるってものだな。クリスタルドラゴンも納得してくれたのか、呆れたような視線を無くなったのだが……今度は訝しむような視線を感じる。
『何故、お前はそれほどまでに強い』
『俺、強くない』
『契約した存在の力は契約者のものと同じ。私の力が良子のモノのように、あの吸血鬼と妖精騎士の力は、そのままお前のものだ』
『……たまたま、力、手に入れた』
『ならばそれは必然だな。偶然だけでその力は手に入れられまい……お前は、力を手に入れる運命だったのだろう』
そ、そうなのかなぁ?
クリスタルドラゴンみたいな威厳のある存在に言われると、全部が本当なんじゃないかって信じちゃいそうになるな。
『桜井さん、俺のこと、言ってた?』
『良子がお前のことを? うぅむ……お前のことを超えるべき相手だとは言っていたな。同時に、お前に憧れているとも言っていた』
『憧れ?』
『才を持って生まれながら誰にも縛られずに生きてきたお前の自由な生き方が、良子には眩しく見えたのだろう。良子は小さな頃から、召喚士として生きる道を選んできた訳だからな』
そう言えば……桜井さんの家庭のことなんて聞いたことが無かったな。もしかして、なにかの事情があって召喚士を目指しているんじゃないのだろうかと思うことは合った。なんというか……クラス内でも鬼気迫る勢いで勉強しているし、マジで召喚士になる以外の人生は存在しないって感じの生き方をしている。
俺が自由に生きているってよりは、桜井さんが滅茶苦茶縛られて生活しているだけな気もする。
「ほぉ、つまり……やはり主様のことを狙っていると?」
「だから違うわよ! 私が狙っているのは今岡君に勝つことだけ! 別に男女の仲になりたいとか、そういうことで今岡君を観察している訳じゃないから!」
「そう照れるな。主様の良さをわかるとは中々いい目を持っているじゃないか……最終的に争うことになろうとも、今は愛している男について共に語らおうではないか」
「ちっがーう!」
結局普通に口で喋ってるじゃん。
『あれほど楽しそうな良子を見るのも久しぶりだ』
え、あれは楽しそうにカウントしていいんですか? 絶対にダメだと思うんだけど……クリスタルドラゴン的にはオッケーらしい。その基準がよくわからないんだけど……まぁ、長い付き合いのはずのクリスタルドラゴンがいいって言ってるならいいのか?
『これからも良子のよき友であり、よきライバルでいてくれ。同時に、私も負けるつもりはない……いつか真剣勝負でお前に勝つと宣言しよう』
『……俺たち、負けない、絶対』
『こちらのセリフだ』
紳士的だなぁ……クリスタルドラゴン。
これだけの威厳を醸し出しながらも、喋り出したら桜井さんの保護者みたいなことばかり言ってるし……マジで性格のいいイケメンドラゴンだよ。
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