第25話 学内散歩

 夏休みも折り返した。

 お盆の期間になると学園も完全に閉鎖されてしまい、学園内にいるのは寮で暮らしている生徒たちだけになるのだが……その生徒たちも殆どが実家へ帰省していて、この場所が国内最大規模の国立高校なんて信じられないぐらいに人の気配が無くなってしまう。

 そんな人のいない学園の敷地内を、俺はハナと一緒に散歩していた。


「……暑いな」

「散歩、と言ったのは主様だった気がするが?」

「そうなんだけどさ……ハナともしっかりコミュニケーション取っていきたいし」

「なっ!? や、やはりイザベラより私の方が好みなのか!?」

「何の話?」

「い、いや……イザベラみたいな銀髪赤目のエロい女に飛びつかないなんて、主様は変な人間だなと思っていてな」

「マジで何の話してんの!?」


 なんで俺が自分で召喚した存在に欲情するような人間になってんだよ!


「てっきり、好みではないから手を出していないのかと思って……つまり、私のような金髪の女の方が好みだと」

「あー……俺、黒髪美女の大和撫子が一番のタイプかな。こうやってグイグイこないような」

「なん……ですって?」


 そこまで衝撃受けるか?


「し、しかし、胸が大きい方が好きだろう?」

「ノーコメントで」

「うむ、やはりそうだな」


 自分の胸を腕で押しあげながらハナが勝ち誇った笑みを浮かべている。

 いや、マジで俺は黒髪ロングの和服を着た大和撫子が好みだったんだよ。和服の雰囲気が好きだから、胸の大きさとかマジで基本的に気にしたことが無かったんだけど……実際に自分が召喚した2人の巨乳を見ると、性癖が歪んでしまった。男子高校生には目に毒だよ……この召喚獣たち。


「ふむ……つまり、主様は巨乳の黒髪で人見知りの女性が自分にだけは穏やかな笑みを見せてくれるまで女を召喚し続けると」

「おい。まるで普段から俺が女ばかりに召喚しようとしている様に言うのはやめろ。俺は獣みたいなモンスターを召喚してることの方が多いだろうが」

「だが、基本的に戦力として使っているのは私とイザベラだけだろう?」

「そりゃあ、お前らが強いからな」

「そ、そんなに褒められては少し照れるな」


 面倒なやつだなぁ……なんなの?


「てかなんなの? さっきから俺のことばっかり言ってるけど、もしかして俺のこと好きなの?」

「……はっ!? わ、私が主様のことを好き!? ば、馬鹿なことを言うな! これだから思春期の脳内ピンク色の性欲猿は駄目なのだ! 私は主人のことを少しでも知りたいなと思っているだけで別に主様のことが気になっているから色々な情報を聞きだそうとしているとかそういうことではなくただ単純に私が主様のことをしっかりと知ることで戦闘中においても様々な連携を行うことができるようにしているだけで別に私は主様のことを1人の男として見ているなんてことは無くてむしろ逆に主様の方が私のことを女として──」

「長い、一言で表して」

「……私は悪くないっ!」


 おいおい、なんてやつだ……あれだけべらべらと言い訳しておきながら最終的に俺に責任転嫁してきたぞ。

 学園内に人が殆どいなくてよかったな……散歩しながらこんなことを喋っている男女がいたら一瞬で噂になるわ。しかも、自らが召喚した存在にそんなこと言わせてるんだぞ? とんでもない変態扱いされて人生終了待ったなしだな。


「うぅ……それで、主様は私とコミュニケーションを取ってどうするんだ?」

「どうするって……仲良くないやつに力を貸したくないだろ? だからちゃんと仲間として最低限のコミュニケーションはしていかないと、変な拗れ方したら面倒だろ?」

「イザベラは?」

「イザベラは俺が入学する前からの付き合いだから、ハナよりコミュニケーションの機会は多かったよ。最初こそ童貞非モテの俺の方がコミュニケーションを拒否して逃げてたんだけど、イザベラはあの派手な格好の癖に尽くす女だからな」

「吸血鬼の癖に尽くす女……ギャップ萌え狙いか?」


 ハナってなんでたまにこんな俗っぽいこと言うの? 俺の凛としてカッコイイっていう妖精騎士のイメージ返して。


「とにかく、命がかかった場面で揉めたら目も当てられないから、今のうちに俺に対する不満があったらなにか言ってくれってこと」

「なら言わせてもらおう! 騎士として主に忠言をするのはちょっと憧れていたからな!」


 それを言わずにしっかりと忠言してくれたらマジでかっこいいと思うんだけどね。


「まず、主様は杜撰すぎる!」

「何が?」

「戦い方が、だ。今は私とイザベラのスペックで打ち勝ってきているが、強力なモンスターが相手になった時に私たちだけではどうにもすることができないかもしれない。だから、主様には戦い方を知ってもらいたい」

「生身の戦闘も、支援魔法も俺には無理だぞ」

「戦い方というのはなにも自らの戦闘技術だけが全てではない。主様が戦闘も支援もできないと言うのならば、軍師をしてくれればいい」


 司令塔として、戦い方をしっかりと考えろってことね。


「授業で教わらない内容だからな……俺が自力で学習するしかないな」

「幸いなことに、主様の近くには戦い方を熟知している存在が2人もいるのだ。私たちの感想を聞いて、それを吸収していけば自然と戦い方は学んでいけるはずだ」

「なるほどね……わかった。なんとか努力してみるよ」


 身体を動かすのも、魔法を使うことも苦手ならば頭を動かすしかない。当然のことだが、ハナに言われるまでなんとなくぼんやりとしたものってイメージだったが……学ぶべきことがあるのは喜ばしいことだ。それだけ、前に進めると言うことだからな。


「それ以外は?」

「……男とばかり遊んでないで、女性とも関係を作った方がいいのではないか?」

「忠言はもう無いんだな」

「待て! 真面目な話だぞ!?」

「いや、俺からすると全く真面目な話には聞こえなかったぞ」


 なんで自分の召喚獣に友達を作った方がいいよ、みたいなこと言われなきゃいけないんだよ。そもそも俺は、クラス内だと異端の召喚魔法を使う得体の知れない人間って扱いなんだから、友達なんてまともにできる訳ないだろ!


「あぁ、主様がまた捻くれた考えをしているのが伝わってくる……社会不適合者になる前に私が引き戻してやらなければ」

「いらねぇよ……本当にいらないからな?」

「安心してくれ。女性の扱い方は私がしっかりとこの身を使って教える!」


 くそ……話を聞かないやつだな。

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