第23話 2つの力

 召喚士の免許を取得する試験には実技試験が存在しているらしいが、俺は詳しい内容を知らない。座学の対策は学園内で売っていると遊作が言っていた対策問題集を使って、ある程度の対策をすれば簡単に受かるらしいが……そうなるとやはり問題は実技だ。

 召喚士や魔術師の免許取得は基本的に難しいとされているが、その理由の大半は先天的な才能があるかないかと問われるからであって、別に医師免許や弁護士資格より難しい訳ではない。ただ……実技試験の内容があまり知られていないので、そこら辺になにかあるのだろうかと思っている。

 試験内容を知らなければ対策することはできないが、その試験内容についてはなんとなくみんな言及を避けているイメージがあるので、ここは専門家に聞くことにした。


「それで、僕の所に来てくれたってことかい?」

「そうです」


 俺が話を聞きに訪れたのは、オープンスクールで対応をしてくれた魔法生物を専門として研究している三浦和治教授。猫背でどこかくたびれたおっさん感を醸し出しているぼさぼさ黒髪の教師だ。オープンスクールの時にはかけていなかった眼鏡をかけている姿にちょっと驚いたが、学園内でこんなぼさぼさ頭は見たことが無いから、絶対にこの人で間違いないだろう。


「うーん……召喚士免許の実技試験かぁ」

「なんか口止めでもされてるんですか?」

「平たく言うと、そうかな。実技試験の内容には突発的な物事に対処する能力を見る為に、試験内容を秘匿するって感じで……だから書籍とかにも試験内容が載ってなかったりするの」

「へぇー……まぁ、面接でテンプレ的なことを言われたくないから、意味わからない質問するようなもんですね」

「う、うん? そうかも?」


 よくわかってないなら頷くなよ……これで突発的な物事に対処できるんですかね。


「じゃあ実技試験は対策しない方がいいってことですね」

「試験の思惑を考えるならね。でも、基本的にはモンスターと戦わされるだけだから、その心構えをするだけでいいよ」

「試験内容教えてるじゃないですか」

「あはは……でも、これは試験を受ける時に最初に言われることだから問題ないよ」


 やはり経験者に聞くのが手っ取り早く情報を得られるな。

 それにしても……モンスターと戦うのが仕事なんだから仕方ないと言えばそうなのだが、試験でモンスターと戦わせるなんて随分と思い切ったことをするんだな。

 試験官が傍にいたり、それころ集中講義の時のように万が一の時の為に召喚士が召喚したモンスターを受験者1人ずつに配置して守ったりしているんだろうが、それにしたって危険なことには変わりない。それこそ万が一があれば……命を失う可能性だってある訳だ。ただ、それだけ命綱をつけられながら死ぬようなやつは、そもそも召喚士や魔術師になってモンスターと戦って働くってことが無理だと俺は思うけども。



 試験内容が分かって対策を立てる必要が無いのならば、俺がやるべきことはただ自らの実力を伸ばすことだけだ。


「無理を聞いてもらって悪い」

「いいのよ。私にだって全くメリットが無い訳じゃない……それに、貴方とも戦ってみたかったから」


 俺と向かい合った状態で好戦的な笑みを浮かべている桜井さんは、準備万端って感じだ。

 確かに、言われてみれば俺は桜井さんと手合わせなんてしたことなかったな……遊作とはそれなりの頻度で軽い手合わせをよくしているのだが、桜井さんは女子だから寮も違うし、そこまで頻繁に顔を合わせている訳じゃないから。


「全力よね?」

「あぁ。全力でやらないと勿体ないだろ?」

「そうね……楽しみだわ。召喚サモンっ!」


 桜井さんの魔力が溢れ出し、水色の光と共に召喚されたのは水晶の身体を持つドラゴン。巨大な翼、鋭利な牙と爪、赤い瞳すらも水晶の竜。


「クリスタルドラゴン、これが私の相棒よ」

「へぇ……あれが噂の水晶竜、ね」


 芸術的な美しさを見せる水晶の竜に驚きながらも俺は、淀みなくカードから自分の相棒を召喚する。光を散らしながら召喚されたイザベラは、水晶の竜を見つめて感嘆の息を漏らしている。


「綺麗な竜ね……妾も見とれる美しさ」

「見惚れて攻撃受けましたとか止めてね?」

「そんなことにはならん。妾は主様の相棒、だからな」


 どうやって俺の心の中を読んでいるのか知らないが……イザベラの実力ならば問題なく戦いになるだろう。


「行きなさい、クリスタルドラゴン!」

「イザベラ」


 水晶の翼を広げながらクリスタルドラゴンが地面すれすれを飛んで突進してくるのをイザベラは悠々と避け、様子見程度に炎の魔法を放つが、クリスタルドラゴンは避けることもせずにその炎を正面から受け止める。


「ん?」

「イザベラ、

「……何故、妾を召喚した?」


 魔法が攻撃の主体であるイザベラにとって、クリスタルドラゴンは天敵と言ってもいい相手だ。なにせ、クリスタルドラゴンの身体を構成する水晶は魔力を弾く。つまり、魔法の威力に関わらずあらゆる魔法攻撃を無力化してしまうという、凄まじい魔法耐性を持っている。

 天敵であることを最初から知りながら、何故自分を召喚したのかとイザベラは問いかけて来るけど、ちょっと試したいことがあったからだ。別にクリスタルドラゴンと桜井さんのことを舐めていた訳ではない。


「力を借りるぞ、ハナ」


 ハナのカードを手元に召喚して、俺はその力を借りる。純白の鎧の一部が俺の身体に展開され、手にはハナの剣が出現する。そして……

 魔法の効かないクリスタルドラゴンを相手に防戦一方であったイザベラの手に、太陽を反射するような美しい剣が出現し、イザベラはそれを瞬時に理解して嫌そうな顔をしていた。


「主様、少し性格が悪いぞっ!」


 文句を言いながら、イザベラの身体に白の鎧が装着されていき……背中から悪魔の翼と重なるように、半透明の妖精の羽が出現する。妖精騎士ハナの持つ力がイザベラに宿った証拠でもある。

 ハナの力を渡されたことがちょっと気に入らないようだが、それでも俺の思惑通りに動いてくれるのだからいい女だよ、本当に。


「気をつけなさい! クリスタルドラゴン!」

「遅い!」


 ハナの圧倒的な身体能力を手に入れたイザベラの動きは、人間の動体視力で捉えることなど不可能な領域に入っている。空中でクリスタルドラゴンの攻撃を避けていたイザベラの姿が消えたと思った次の瞬間には……クリスタルドラゴンが背中を蹴られて地面に落下していた。

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