第18話 体術は素人
「よわ」
「言うな」
格好よく決めようと頑張って戦いを挑んだが、身体能力ではなく技術力で一蹴されて俺は無様に芝生の上に転がっていた。
身体能力は互角だった。ハナの動きだってしっかりと見切ることができたし、俺の攻撃を真正面から受け止めようとしたハナは受けきれずに受け流していたぐらいには衝撃がきていたようだ。しかし、そこからは一方的だった。俺の攻撃を受け止めることができないと判断したハナは先手必勝と言わんばかりに苛烈な攻撃でこちらを責め立ててきて、苦し紛れに俺が放った反撃は受け流されて勢いを殺せずに俺がゴロゴロと芝生の上を転がることになった。
数分もすれば息が上がり、攻撃が自分に直撃しないように逃げ回る情けない俺と、それを追いかけて致命的な攻撃を加えようとするハナという構図が出来上がり……ハナの方が途中で動きを止めて終了した。
「情けない……自分の戦闘能力の無さが滅茶苦茶恥ずかしくなってきた」
「まぁ、そう卑下することはない。私の身体能力が下がっていたとは言え、逃げ回ることでかなり粘れていたんだし、反撃しようとしなければもっとも長く生き残れていたはずだ」
「それを情けないって言ってるんだよ……逃げてるだけじゃん」
召喚士として自分が戦わなくていいなんて考えは甘えだと思う。戦いとは命をかけるもの……どんな状況でどんなことが起こるかわからない戦いの中で、自分の命が少しでも助かるように努力するのは当たり前のことだろう。
「いいじゃない。私だって昔は全然駄目だったし」
「本当ですか? あんまり信用できないな」
前にイザベラの力を借りて全力で蹴った時は片手で止められたし、正直に言ってしまうと弱かった頃の稲村先生なんて全く想像もできない。そりゃあだれだって最初から最強だった訳ではないだろうけど……それにしたってまともな人間だったら受け止めるどころか見切ることもできない蹴りを片手で、だからな。
「それにしても、またすごい召喚獣と契約したんだね」
「あー……まぁ、そうですね」
ハナは確かにすごいやつだ。近接戦闘能力がすさまじく、近接戦だけに限るとイザベラが手も足も出ない程の力を有しているし、それに加えてイザベラの持つ最大の力はそれだけではないのだ。
自分で言うのもなんだけど、ただの高校生が持つには過剰な力だ。そもそも俺や遊作、桜井さんみたいに学生の時から突出した力を持っているような人間を想定していないのかもしれないけど、免許も持っていない人間がこれだけの力を手にしている事実が俺はちょっと恐ろしい。
「剣術とか修行した方がいいですかね?」
「うーん……今岡君は召喚士としての実力を順調に磨いていった方がいいと思うよ。君は多くの強力な魔法生物と縁があるみたいだし、自分を強化するぐらいならいっそのこと周りを強い仲間で囲んじゃえばいいんだよ」
まぁ……確かにそうかもしれないけど、とんでもなく情けなくないかな。
「召喚士で一般人に毛が生えたレベルの人なんていっぱいいるよ? 勿論、私みたいにある程度は動ける人だっているけど……どっちかと言えば動けない人の方が多数派かな」
「そう、ですか」
それでもちょっと自分を納得させるのに時間がかかりそうだ。単純に、自分が昔から魔術師に憧れていたってのもあるんだろけど、やはり自分で戦うことを捨てきれないでいる。
「前にも言ったけど、自分の可能性を自分から狭める必要なんてないよ?」
「それは、どういう?」
「もし君が本当に自分で動いて戦える人間になりたいって言うなら、それを頑張って目指せばいいし、君が召喚士としてどっしりと構えながら指示を出していたいって言うならそっちを目指せばいいの。とにかく、自分の気持ちが一番!」
指を立てて笑顔でそうやって言う先生の姿は、結構かっこよかった。
「じゃ、頑張ってね」
稲村先生は言いたいことだけ言うと、そのまま校舎の方へと向かって歩いていった。稲村先生が言いたいことはなんとなくわかったが……あそこまで明るく言われるとちょっと困惑しちゃうな。
「いいことを言うな。主様は確かに、自らの可能性を狭めるべきではないと、妾も思うぞ?」
「そうかな」
「うむ……なんなら、妾から力を貰って好き勝手に動けばいい。主様がそうしたいと言うのならば、喜んで妾の力の全てを差し出そう」
「……そこまでしてもらうとこっちが恥ずかしいよ」
「そうか?」
徴収したハナの魔力を返還し、俺はイザベラから魔力を徴収する。
背中に生えた悪魔の翼に目をやりながら、俺は立ちあがってハナと向き合う。
「もうちょっとだけ、俺の意地に付き合ってくれるか?」
「勿論だ。主人の為に力を貸すのが我々の生き甲斐……満足するまで付き合おう」
「ありがたい」
イザベラの力を取り込んで身体能力を大幅に強化した今ならば、ハナに対して有効な反撃ができるかもしれない。実戦経験はなによりも大事だと、こうして実際に戦っていると思う。まずは、ハナにボコボコにされながら身体の使い方を学んでいこう。
空気を切り裂いて突進する俺を前に、ハナが不敵に笑った。
結果として、俺はイザベラの力を借りてもハナに対してまともに攻撃を当てることができなかった。そもそも、ハナを最初に召喚した時にイザベラが翻弄されていたことを思い出すと、イザベラの力だけでは根本的にハナには勝てないようになっているのかもしれない。それでも、俺はイザベラのようにハナに食らいつくこともできずに、結局は地面に転がることになった。
「いい経験になったよ」
それでも、無駄ではなかった。
イザベラの力を借りていたおかげで、手加減してくれていたハナの身体の使い方をしっかりと観察することができた。決してブレないハナの攻撃姿勢とこちらを手玉に取るような身体捌きは是非とも学んでいきたいところだ。
「……思ったのだが、私たちぐらいの力を持った存在とバンバン契約していき、集団を形成していくのが手っ取り早いのでは?」
「いや、だから守られるだけだと何が起こるかわからないだろ?」
「そうではなく……今からでも私とイザベラの力を借りれば、主様は最強の身体能力を手に入れることができるのではないかと」
俺が、イザベラとハナの力を?
2人分の魔力を徴収して身体能力を強化する……それ、俺の身体が破裂したりしないかな?
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