第16話 自分を変える

 国立魔術総合学園は素晴らしい学園であると言われている。国内で最も魔法関係の設備が充実している学校だし、それを除いても普通科で活用できる食堂や図書館なんかの設備だってものすごく充実している。教師の質だってとてもいいし、全寮制で寮の部屋も綺麗で入口はオートロック、学費だって実はそんなに言うほど高い訳でもない。

 国立魔術総合学園は、陰で蟲毒の壺であるとも言われている。中に入れられた生徒たちはお互いを食い合うように競争し、そして最終的に1人の超人が生まれ……モンスターと戦わせられる。俺はこの評価が間違ったものだと思っていない。入学するまで認識していなかったけど、留年しやすかったり退学する人間が多いのは事実なのだ。だから、俺はこの学園が蟲毒の壺であることは否定しない。


「だからってさぁ……学校行事がなんにもないってどうなのよ」

「まぁ……普通科の方は修学旅行とかあるみたいだよ?」

「普通科とか聞いてないから」


 俺には関係ない普通科の連中が修学旅行とかを楽しんでいるのはどうでもいいんだよ。問題は、魔法生物科や魔術師科の生徒に対して学生らしい楽しみを提供する気が一切ないことを気にしているのだ。


「でも、この学園に進学した人間は少なくともそれなりに覚悟してきていると思うわ。貴方みたいに自分にちょっと才能があるからって理由だけで進学する人間なんてそういないわ」

「俺の中学には自分に魔術師の才能があるって言われただけでその気になって受験してたやついたけどな」

「あのねぇ……そういうやつは大体、受験で落とされるのよ」


 桜井さんにはまた呆れられてしまった。初対面の時がもっとも好印象で、それからどんどんと彼女の中で俺の評価が適当な人間になっている気がする……事実だから仕方ないんだけども。


「確かに、俊介みたいな圧倒的な才能が無い限りは、ちょっと才能があるって言われたぐらいで合格できないのがこの学校だからね」

「魔法生物科は50人しかいないのに?」

「いくら人数が少ないからって足切りライン以下を入学させても仕方ないでしょ? 枯れ木も山の賑わいなんて言うけど、結局は留年して退学していくんじゃ意味ないもの」


 それは確かにそうかもしれない。

 そうなると、今の魔法生物科にいる生徒たちは選ばれた人間……少数精鋭ってことだな。


「で、なんでいきなり学校行事とか言い出したの?」

「……ネットで、体育祭って文字を見かけて」

「あぁ……最近は夏ぐらいにやる学校があったりするからね。高校は9月の頭ぐらいにやる所が多いけど」

「それで年間予定表を見たら学校行事ってものが殆ど載ってなくて自分の目を疑った」

「……思ってたけど、貴方って馬鹿よね」


 女子に馬鹿って言われてしまったが……正直、自分でも馬鹿だと思ってしまったので何とも言えない気分だ。


「さ、そろそろ次の授業が始まるからいいかしら?」

「……はい」


 はぁ……学生って辛いな。



「あー、私も同じこと思ったよ?」

「そうなんですか?」


 放課後、俺の召喚魔法について色々と研究したいと言われたので稲村先生の教授室へと赴いて、学校行事がないことを愚痴ったらカリキュラム見てないお前が馬鹿って言われた話をしたら、まさかの同意が得られた。


「うん。私だって元々召喚士になりたくて学校に入った訳じゃなかったから」

「じゃあなんでそんな強い召喚士になってるんですか」

「召喚士になった理由は成り行きかなぁ……才能があったし。私がこの学園に入学したのは家から逃げたかったからだよ」


 そうか……基本的にこの学校は全寮制だから、家から逃げたくてやってくることもあるのか。


「特待生扱いで学費免除だったから親にも迷惑かけてないって押し切って実家から逃げてきたの。今じゃ召喚士としてこうして生きてるけど、当時は家から逃げられるならなんでもよかったんだよ……束縛がキツイ家だったからさ」


 それぞれの家庭の事情ってやつか。でも、そこから世界で有数の召喚士になっているんだからとんでもないことだよな。才能だけでは辿り着けない境地だとつくづく思ってしまう……稲村先生は、自らが生きていくためにきっと必死になって努力したのだろう。いや、この学園に来て死ぬ気持ちで努力していない人間なんて殆どいないのかもしれない。

 今更ながら、自分がどれだけ場違いな存在なのかを認識してしまった。ただ才能があるからってだけで簡単に入学して、やる気も無くただひたすらにだらだらと日々を過ごしている自分と、召喚士を目指して必死に努力を続けている遊作や桜井さんを比べてしまうと惨めな気持ちになってくる。


「……人間が変わるには、自分で考えなきゃダメなの」

「はい?」


 いきなりどうした。


「他人に鋭いことを言われてもね、最終的に自分を変えられるのは自分しかいない……だからどれだけ環境に恵まれた人だって怠け者だったら一生変わらないんだ。けど、逆に言ってしまえば……変わろうと思ったら、人間は誰でも変わることができる」

「それは……そうですか?」

「本当だよ? だから、自分が駄目な人間だなって思うなら、今から変わろうとしなきゃ駄目だよ? 自分のことを見つめることができたら、次は自分を変えなきゃ」


 自分を、変える。

 今の俺は、才能だけの木偶だ。卒業できるように、留年しないように頑張ろうなんて適当なことばかり考えている。才能があるから召喚士になるのもありかな、なんて考えているが……この考えのままで本当に俺はまともに人間になれるだろうか。答えは、否だ。


「なんて、たまには担任の教師っぽいことも言ってみたりして。ま、魔法生物科に入学したからって別に必ずしも召喚士にならなきゃいけない訳じゃないから、そこまで深く考えなくていいと思うよ?」

「どっちですか」

「君がやりたい方でいいの。自分を変えられるのは自分しかいないけど、自分がやりたくないことを無理やりやろうと自分を変えるのは、無理だよ」


 教師というよりも、人生の先輩からの言葉のように聞こえて俺は言葉を詰まらせた。

 そうだなぁ……自分のことをちょっと達観していると勝手に思っていたけど、俺なんてまだまだガキみたいな年齢なんだから、中二病は脱却してまともな人間にならないと駄目か。

 自分を変えられるのは自分だけ、かぁ……ちょっと、心に響いてしまったな。

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