第14話 醜い争い

「ところで……派手な戦いをした後に言うのもなんだけど、あの白騎士は君が召喚した存在なんだから契約しなくていいのかい?」

「……あ、忘れてた」


 いきなり襲い掛かってきたから敵って感覚が強くて、契約する為に呼び出したのを忘れていたよ。

 俺はイザベラと共にクレーターに近寄っていく。中心付近で大の字に倒れている白騎士は、起き上がる気力が無いのか俺が近づいても特に反応することはなく時々ガシャガシャと身体を動かそうとして諦めていた。


「生きてそうだな」

「……中々やるな。しかし、今の私は全く本気ではなかったしそもそもそちらは2人いたのだから私よりも有利があった。そしてこちらはいきなり召喚されて準備もままならない状態であり、魔力の供給源も無かった。お前たちの存在のこともよく知らないのでまともに対策を取ることもできず、しかもこちらは──」

「主様、言い訳が長すぎるのでもう一度ぐらい殴っておいたほうがいいのではないか?」

「そうかもしれない」

「認めた! 認めたからこれ以上殴るな! この純白の鎧がバキバキに破壊されてしまうだろうが!」


 だらだらとクソ長い言い訳を聞かされてイラっとしていたのが伝わったのか、拳を構えて魔力を集中させ始めたイザベラは本気で殴ろうとしていた。しかし、それより先に飛び上がるように起き上がった白騎士は距離を取って剣をその場に置いて兜を取った。

 ふわりと広がる金髪の髪に、俺を見つめてすっと細められた青色の瞳……兜の下から出てきたのはとんでもない美人だった。さっきまでは兜に籠った性別不詳の声だったけど、女だとは思わなかった。俺は結構驚いたのだが、イザベラは特に反応した様子も無く拳を構えているので、もしかしたら気が付いていたのかもしれない。


「お前は確かに私が騎士として仕えるに値する力を示した。だから契約してやる」

「なんで上から目線」

「ふっ……私がそれだけ高貴な存在だからだ。ハナトゥーデ・ダーナ・デトゥダナーテ……妖精の力を持つ高貴なる騎士だ」

「よろしく、ハナ」

「略すのが早い!」


 だって英語でも日本語でもない言葉ってマジで頭に残らないからさ。本名で読んでやりたい気持ちはあるんだけど、流石に長ったらしい名前を召喚の度に叫んでいたらいつか間違えそうだし、その方が失礼かなって。


「くっ……私を屈服した存在がこんな適当な者だとは……殺せっ!」

「女騎士だったら言わなきゃいけないノルマでもあるのか?」

「ない!」


 無いのに言ったのか……この女、さては力があるだけの馬鹿だな?

 溜息を一つ吐いてから、俺はブランクカードを向けてハナとの契約をしっかりと締結する。ブランクカードに魔方陣と共に金髪の白騎士が描かれ……その背中には半透明の妖精の羽根が生えていた。


「やっぱり、俊介の召喚魔法はそうやって屈服させることが契約する条件みたいだね」

「ん……そうみたいだな」


 遊作に言われてもイマイチ、ぴんと来ていなかったのだが……こうしてブランクカードがしっかりと契約した魔法のカードへと変化したらしっかりとハナとの契約が繋がった感覚がする。

 さて……これで俺は新たな契約を結ぶことができた訳だけども、ハナは俺の求める人材だったのだろうか。


「ハナって何ができる?」

「ふん、私の力を疑っているな? 私はなんでもできる最強の存在だからな。そこの女のことなど捨てて私に頼ってもいいぞ?」

「は? 主様、こいつを殺してもいいか?」

「駄目だって」

「いや、今の言い方は妾を軽視しているし、さっきまで主様のことを馬鹿にしていた癖にいきなり忠犬みたいなことを言いだしたのだぞ? 妾の逆鱗をペタペタ触って面白いか?」

「なっ!? 誰が忠犬だ! 私は契約したのだから仕方なくこの男に従ってやると言っているだけで、別にこいつに対して「ちょっといいな」なんて思っていない!」


 やかましい……イザベラが増えたらこうなるのか。


「なんか……言葉が操れるのも考えものなのね。私は普通に言語を使わない契約生物でいいかな」

「うん、僕も」

「ほら! お前らのせいで契約生物全体に迷惑がかかるんだからやめろよな!」


 俺が変人だと思われるのはいいけど、俺と契約してくれるかもしれないまだ名前も知らない奴らが可哀想でしょ!?

 はぁ……しかし、先ほどまでのイザベラとの戦いを見るにハナの戦闘能力は非常に高い。それこそ、俺が魔力でサポートしていたイザベラを途中まで圧倒していたのだから、単純な殴り合いだけで言うなら間違いなくイザベラより上だ。


「よし、じゃあ次は僕がやろうかな」

「私もやるわ。今岡君が強力な契約を結んだなら、こっちも頑張らないと!」

「お、おぉ……でも、授業で直接争うことなんて殆どないからそこまで気張らなくてもいいんじゃない?」

「何言ってるの? 学校で争わなくても、卒業した後に同じ召喚士として切磋琢磨していく仲なんだから、今からでもちゃんと競い合って行かないと!」


 モチベーションがすさまじい。こんな召喚士に対して情熱捧げている人、遊作以外に見たことが無いんだけど……やっぱり才能がある人って行動力からしてまず違うよね。


「俺たちはどう──」

「大体、主人の力を借りて戦うって時点で契約者としての自覚が足りないんじゃないか? 私たちは主人を守る為に戦っているんだろう?」

「はぁ? 主様は妾たちが1人で戦わないようにしてくれているのだ。孤独で戦わせることほどかわいそうなことはない、とな! お前のような野蛮な女には主様のお優しい心はわかるまい」

「野蛮!? 言うに事を欠いて、妖精騎士であるこの私に対して野蛮と言ったのか!? 他人の血を啜る薄汚い魂を持つ怪物の分際で、私のことを野蛮と言ったのか!?」

「薄汚いだとっ!? 妾は誰彼構わず血を吸いに行くような存在ではない! 妾は主様の為だけに戦うと決めているのだからな!」

「吸血鬼が綺麗な女アピールをしたところで説得力の欠片もない!」

「あぁ……めんどくせぇ」


 自分で契約した存在に対してこういうことを言うのはどうかと思うんだけど、流石にこんな醜い争いをしているのを見ると、面倒くさいと言いたくなる。


「主様! こんな女はさっさと契約破棄だ!」

「なっ!? この女の方がいらないよな!?」

「どっちもどっちでしょ」

「そんなぁー!?」

「え、ちょっ!?」


 両腕を掴まれてちょっとイラっとしたのでカードを使って消す。

 召喚魔法によって召喚される生物は別の世界で生きていると言われているけど……カードを使ってあの2人を元の世界に戻してるってことなんだよな。元の世界に戻っても、喧嘩してなきゃいいけどな。

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