第13話 新たな視点
互いに音を置き去りにして近接戦闘を繰り広げるイザベラと白の騎士を前に、俺は何をすることもできない状態だった。あんな戦いに割って入れるような実力は無いし、イザベラ以外にあんな怪物とまともに戦えるような召喚獣だって使役していない。
「ちょ、ちょっと!? どうして召喚したモンスターが襲ってくるのよ!?」
ふむ……桜井さんが血相を変えながらこちらに向かって叫んできた言葉から察するに、こんなことは普通あり得ないらしい。
「……もしかしたら、これが君の操る召喚魔法の利点であり欠点でもあるのかもしれないね」
「それは?」
「君は召喚した魔法生物と契約している訳ではなく、屈服させているってことだよ。稲村先生が君の召喚魔法は召喚した存在との結びつきが特別に強いと言っていたけど、それはただ契約している訳ではなく屈服させているから……召喚した存在の全てを従えているんだ」
「でも、イザベラと帝釈天は別に戦ってないぞ」
屈服させているから結びつきが強くなり、通常よりも遥かに強い契約を結ぶことができたってのは理解できなくもないが、俺はこれまでイザベラや帝釈天のような存在と戦ったことはない。なんなら、他の召喚した生物とだって戦ったことなんてないんだ。
「ここからは推測に過ぎないけど……イザベラと名乗った吸血鬼と君が召喚した帝釈天という龍……この2体は君の存在に惚れこんで出てきたのかもしれない。最初から君に力を貸すつもりの存在なら、屈服なんてさせる意味がないだろう?」
「それ以外の存在は?」
「単純に、君には最初から勝てないと思って反逆しなかったのかもしれない。あの白騎士以外に言葉を喋れるような存在を召喚したことは?」
「ない……と言うか、帝釈天を召喚した時にこんな魔力を込めて召喚するのはもうやめようと思ったんだ」
「なら、僕の仮説が合ってるかもしれない」
う、うーん……そうすると、俺の召喚魔法はかなり面倒なものになるんじゃないのか? 召喚士でありながら自分の力でその存在を屈服させなければ契約することができないなんて、自分の力では戦わない召喚士にとっては致命的な弱点だ。
「君があの吸血鬼と出会ったのは運命なのかもしれないね。最初の彼女を召喚していなければ、きっと君はあの白騎士にみたいな存在にやられていた……彼女とは運命共同体って所だね」
「なんか急にそれっぽいこと言いだしたな」
「うん、ちょっと格好つけてると思う」
「召喚士の先輩としてもう少し格好つけさせて?」
遊作の仮説をじっくりと聞いている間も、白騎士とイザベラは高速戦闘を繰り広げていた。遊作と喋っている最中にも、俺の身体には幾つかの切り傷が生まれている。それはイザベラが斬撃を受けていることを意味しているのだが……俺から彼女にできることは魔力を受け渡すことだけだ。
「ふっ……この程度か。これでは貴様の主とやらも──」
「主様についてお前が言及するな、殺すぞ」
「少しはやる気になったか?」
「最初から殺る気だ」
イザベラの感情が直に伝わってくる。この召喚魔法はやはりかなり深い所で繋がっているのだ……なら、俺が彼女に対してできることがもっとある筈だ。
カードを握りしめながら意識を集中させると……なんとなくぼやっと景色が浮かんでくる。高速で移動しながら目まぐるしく変化する景色……もしかしてこれは、イザベラの視界なのだろうか。
「うわぁっ!?」
イザベラの視界をジャックしている。そのことを意識する前に目の前に白騎士が現れたので、反射的に拳を前に突き出したら……イザベラの身体が勝手に動いて白騎士の頬を捉えていた。
「ぐはっ!?」
「え? な、なに?」
巨大な衝突音と共に地面に叩きつけられた白騎士と、困惑した表情で腕を見つめるイザベラ……そして、俺の視界にはイザベラの右腕が映っていた。
「くっ! いい反応をするようになったじゃないか……ならば本気を──」
「はぁっ!」
そんな長ったらしいセリフを待つつもりはない。イザベラの身体を操って勝手に魔法を発動させ、剣を構えてぶつくさ言っている白騎士を攻撃する。
「おいっ! こういう時は大人しく待っているのがルールだろうが! 貴様、ヒーローが変身中に攻撃されない理由で馬鹿にしてくるタイプの女だろう!」
「いや、妾は今、勝手に身体が動いたのだが……もしかして、主様がやっているのか?」
「ん……おぉ、これ面白いな」
イザベラの身体を勝手に動かして戦うのも面白いが、続けていたらそのうちボコボコにされそうなのでイザベラの身体の主導権はしっかりと返しておく。しかし……イザベラから出ようと思ったら背後からイザベラを追いかけるようにな視点になってしまって……第三者視点から戦闘を見ている感じになっている。
視点を変えて遊んでいたら白騎士の姿が消えた。高速移動によるものだと思うが、イザベラも反応できていないので先ほどより速くなったのだと思う。しかし、目で追えていないが何故か俺は魔力の反応をしっかりと肌で感じ取れていた。
「イザベラ、右だ」
「っ!」
「なっ!? 貴様、何故私の最高速に対応できる!」
「左から回り込んでくるぞ」
「うむ!」
戦闘中に俺の声が聞こえてくる奇怪な現象に疑問符が浮かんでいるだろうに、イザベラはそれを表情に出さず、盲目的に俺の指示に従って動いていた。超高速の動きでイザベラを翻弄しようとしていたようだが、肌感覚で居場所を掴んだ俺の指示でイザベラはしっかりと白騎士に対応している。首を切断しようと迫ってきた刃を踵で蹴り飛ばし、鋭利な爪で鎧に傷をつけていく。
「魔法が来るぞ。上と左と……下から白騎士」
左から飛んできた光の刃がひょいっと避けたイザベラは、上からも迫っていた刃をキャッチすると、下から迫っていた白騎士へと向かって投げつける。咄嗟に剣で弾いた白騎士だったが、無防備になった腹にイザベラの蹴りがめり込んでいた。
「がっ!?」
「捉えたっ!」
すさまじい速度で地面に激突した白騎士は、呻き声を上げながら苦しそうに這いつくばり、得意げな顔をしたイザベラが俺の横に立っていた。
「主様、助かったぞ……やはり妾が惚れた男は違うな?」
「そういうことにしておいてくれ」
自分でも力が把握できていないのだから、あんまり持ち上げられても仕方ないのだが……まぁ、実際に俺の力であるのは事実なので俺も胸を張っておこう。
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