第12話 ステップアップ
自分はまだまだ召喚士として未熟だ。
まず、召喚士という職業についてあまりにも詳しくないこと。これは学校の授業でなんとか補完することができるので自分から必死になって情報を集めに行くよりも正確な情報を手に入れることができるので問題ではないだろう。
次に、召喚できるモンスターに対する知識があまりにも薄いこと。俺が知っていることなんてデカければデカイほど召喚するのが難しい、召喚した存在との力の相関性によってモンスターがやられた時に自分に返ってくる傷が変化すること……これぐらいだ。
「だから、まずはしっかりと知識をつけながら手札を増やすことを目的にしたいと思ってる」
「……手札を増やすか。君がカードで召喚しているからこそ、言い得て妙だね」
「茶化すな」
別に俺はダジャレでそんなことを言っている訳ではない。単純にこれから召喚士として活動していくのならば、まともに扱える手札がイザベラだけってのも問題と思うのだ。イザベラは確かに強いが、決して万能の存在ではないことがわかった。稲村先生のような格上と戦う時に必要なのはイザベラのような機動力ではなく、一発の火力であると俺は分析した。
俺の手札の中でまともに扱えて火力が高いのはイザベラだけ。勿論、稲村先生が化物みたいな強さなのでそれを基準に考えない方がいいのはわかっているんだが、それはそれとして負けたままってのも癪に障るので対策は考えておきたい。
「遊作はキマイラ以外に使えそうな手札は用意してあるのか?」
「残念だけど、僕も召喚士になろうと思って努力を始めたのがここ数年の話だから、全くだね……キマイラみたいな強力な存在と契約できたのは、はっきり言って運がよかったとしか言えない」
「そっか……え、遊作って元々召喚士を目指してたんじゃないのか?」
「僕は元も、魔術師になれって言われていた人間だよ?」
知らないよ。
でも、確かに遊作は戦闘中にも平然と魔法を使用したり、身体能力が滅茶苦茶高かったしているとは思っていたけど……まさか魔術師を目指せるような人間が召喚士になっていたとは。
「桜井さんは?」
「私は……今岡君と同じね。魔術師にはなれないって言われて、ムカついて召喚士を目指していたら、才能があったってだけ」
「だよなぁ」
召喚士を目指そうとする人間なんて殆どがそうだと俺は思っている。ちょっと失礼だけど、そもそも歴史的に見ても召喚士は軽視されている存在なんだし、仕方ないと言えば仕方ないのかなって。
「ちなみに、私の相棒はクリスタルドラゴンよ」
「すごい綺麗そうな名前」
「実際とっても綺麗よ? これだけで召喚士になってよかったって思えるぐらいにはね」
「そうなんだ」
「クリスタルドラゴンか……確かに強力な相棒だね。僕のキマイラが見劣りしてしまうぐらいだよ」
「そんなこと言ったら、人型で言語を操る彼の吸血鬼に比べたら……」
「彼は例外だから」
例外って言われてもあんまり嬉しくないな。
「普通の召喚士は中々契約生物を増やしたりはしないんだけど、俊介みたいに管理するのが簡単になればみんなやりそうだね」
「管理するのが簡単って……カードだからか?」
「そう」
まぁ、そう言われてみればそうなのかな。
手の中にイザベラのカードを出現させてみる。くるくると空中で回転しながら俺の掌の中に納まったそのカードには、ステンドグラスのような絵柄でイザベラが美しく描かれていた。
「とりあえず、夕方までこの屋内運動場を貸し切っている訳だし、みんなで色々と試してみないかい?」
「そうね……戦闘能力の上昇は課題な訳だし」
屋内運動場を貸し切って、3人で喋っていた訳だけど……目的は召喚士としてステップアップすることだ。既に授業が始まって一ヵ月が経過して、クラス内でも少しずつ実力差が表れ始めている。トップ3は俺たちだけど、いつ追いつかれるかもわからないのが召喚士ってものだ……自分だけの契約生物をしっかりと使役できればそれだけで召喚士としての実力が認められる。留年しないためにも、今の内から努力は必要だろう。
「じゃ、俺がやってみるわ。イザベラ」
「ん……主様、また妾が戦うのか? そろそろ疲れてきたのだが」
「お前以外に頼れる奴なんていないから困ってんだよ……いや、そもそも今日は戦闘じゃないし」
「なんだ、それならそうと言ってくれ。そこら辺でサボっておるから」
このアマ……しかし、俺も結構イザベラを使い倒している所があるからあんまり強く言えないのが現実。
「ありったけの魔力を込めて召喚すると碌なことにならないから、それなりの魔力で召喚するぞ」
「わかった……もしかして、ありったけの魔力を込めて召喚した結果があの龍だったりするのかい?」
「まぁ……な」
帝釈天は好奇心だけで召喚して契約してしまった存在だ。今の俺には自爆技としてしか使用できないが……いつかあの偉大なる神ですら従えてみせよう。ま、今はイザベラと違う力を持った強力な存在が先かな。
ブランクカードを生み出し、俺は魔力を慎重に込めていく。
「す、すごい!?」
「これが、俊介の魔力か……やっぱり彼は召喚士としての才能が、突出している」
込められた魔力によって空間が揺れているが、お構いなしに魔力を込めてブランクカードを放り投げる。
「
こんなに気合を入れて召喚魔法を使用するのは実に数ヵ月ぶりだ。
屋内運動場を光で染め上げながら召喚魔法魔法陣が回転しながらどんどんと大きくなっていき……ギュっと小さくなった。
「あれ? なんか、これデジャブな気がするんだけど」
魔法陣が小さくなるということは、召喚される契約生物の大きさがそれに見合ったものということ。あれだけの魔力を注いでそんな小さなものが出現するってのは……通常ならあり得ないはずなんだけど。
爆発音と共に魔力が周囲に飛び散り、白い煙の中から現れたのは……純白の鎧を身に纏った白色の騎士だった。
「……ただの人間が、この私を召喚したのか?」
「えーっと……名前を教えてもらっても?」
「断る。私を召喚した実力は認めるが、私と契約したいのならば……実力で屈服させてみろっ!」
「マジかよっ!?」
召喚でこんなことって起きるのか!?
既に眼前まで迫っている鋭利な武器に反応できるほど俺の身体能力は高くない。まるで世界がゆっくりになっているような極限まで圧縮された感覚の中、走馬灯が流れるよりも先にイザベラがその穂先を掴んでいた。
「なに?」
「妾の大事な主様を傷つけようなどと……後輩にはしっかりと躾が必要か?」
「ほぉ?」
自分で召喚しておきながらなんだけど、怪物みたいな魔力を放出していがみ合う2人に俺は困惑しかできなかった。
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