第11話 風紀委員会
今、俺は風紀委員の委員会室で椅子に座っていた。
目の前には風紀委員の腕章をつけた黒髪の女性。ハーフアップと呼ばれる髪の結び方によってなんとなく可愛い感じの雰囲気を醸しながらも、ちょっと切れ目の冷めた瞳がピリッと俺の行動を縛り付けて来る。
「はぁ……大体の事情はわかった」
「俺は悪くないです」
「喧嘩を売られたからと言って速攻で喧嘩を買って、挑発の言葉をかける奴も悪いに決まっているだろう、馬鹿か?」
「座学はそれなりだと思います」
「やはり馬鹿だな」
まぁ、自分でも割と短気なことは認める。
パツキンヤンキーに絡まれてイラっとしたのもあるんだけど、友達と学生食堂で仲良く食べようって時に絡まれたのが非常にムカついたのだ。普段だったらもう少し我慢しているが……あの時はもう一瞬で沸点を超えてしまったね。
「先ほども言った通り、魔法を使用しての私闘は退学もあり得るほど重い……なんなら普通に犯罪者として捕まるんだぞ? 少年法の範囲内だとは言え、捕まったら一瞬で退学だからな」
「すいません」
誰もが魔法を扱えるからこそ、厳しい罰則が存在している。魔法を使用しての私闘は普通に重罪で、警察に捕まれば懲役10年は言い渡されるだろう……つまり、殺人罪並みに思い刑罰が待っている。もし、魔法を使用して人を殺そうものなら無期懲役か死刑のどちらかしかない……それも、やむを得ない事情が無い限りは基本的に死刑一択なのだから、国もかなり重い罪として認識している。
「反省文なんて書かせたところで意味も無いから書かせたりはしないが、くれぐれも気を付けて学校生活を送ってくれ。勿論、我々の方でも魔術師科の方にクレームはいれておくが……簡単に挑発に乗って喧嘩を始めないように」
「うっす」
「は?」
「はい、わかりました」
怖いよ。
「よろしい。私は魔術師科の2年、風紀委員会の副委員長を務めている
「……親身ですね」
「まぁ、普通の高校とはなにかと勝手が違うからな。基本的に先輩は後輩に対して優しく色々と教えてやるのがここの校風なんだ。さっきの半グレみたいな輩は基本的に進級できなくて退学していくから気にするなら」
「そうですか……え?」
進級できなくて退学?
「知らないのか? この学校、実力主義だから進級できなくて留年する奴は多いぞ」
「知らなかったんですけど」
なにそれ怖い。
「お前みたいな手が出るのも早い奴だって、退学していくな」
「……ちょっと、自分の素行について見直したくなる情報ですね」
「普通の人間が、そうなる前に自分の素行を見直すものだけどな……と言うか、入学する前に貰った資料とかちゃんと読んでないのか? 普通に書いてあるぞ? ホームページにも書いてあったし……卒業する人だってそんなに多くないんだぞ?」
マジかぁ……知らなかった。
俺、ゲームの説明書とか読まないタイプの人間だから、資料とか貰っても基本的に流し見しかないんだよね。入学した時に校則の説明はされたからそっちはある程度は把握してたんだけど、留年と進級のシステムについてしっかりと把握してはなかったんだよね……俺も今から気を付けないと。
「しかし……こうして知り合ったのも何かの縁だ。風紀委員会に入らないか?」
「え、嫌です」
「即答か」
そもそも俺みたいなサボり癖がある不真面目な男が風紀委員会なんてなったら風紀が大変なことになるだろうが。
「俺を誘うメリットないですよね?」
「そうでもない。風紀委員会は基本的に魔術師科の人間しかいなくてな……魔法生物科に所属している生徒が1人でもいてくれたら、と毎年議題に上がるんだが、人数が少ないし基本的に自分を卑下するような生徒が多くていないんだ」
「あー……まぁ、入学して一ヵ月であんな扱いされるようなら、そりゃあ自分を卑下したくもなりますよね」
別に学園は特別な差をつけている訳ではない。実際に魔術師科にしか許可されないような特別な何かがあったりする訳ではないし、教師の質だって稲村先生を見れば特別な差異があるようには感じられない。ただ、厳然たる事実として魔術師科の生徒が他の学科の生徒を見下す傾向がある。
「そうかもしれないな。だからこそ、お前みたいに魔術師科の人間に対しても平然と言葉で喧嘩を売れるような奴が風紀委員会に入って欲しいと思ったんだが」
「いや、ヤンキーが腕っぷし強いから制圧に使えそう、みたいな理屈で俺を風紀委員会に入れて言い訳ないですよ」
「自分のことを不良だと理解しているようでなによりだ。全く……問題を起こすなよ?」
「わかってますって」
俺だってここまで苦労して入学した学園を退学にされるのは嫌なのだ。だから問題を起こすつもりはないが……巻き込まれてしまって結果的に問題を起こすことはあるかもしれないな。
内心でちょっと反省しながら委員会室から出ると、廊下にイケメンと美女が立っていた。
「や」
「遊作……それに桜井さんも」
「ごめんなさい」
出会い頭にいきなり頭を下げられてしまったけど、俺としては桜井さんに謝ってもらうようなことなんてなにも思い浮かばなかったので首を傾げたら、遊作に思い切り笑われてしまった。
「言ったでしょ? 彼はこういう人だよ……気にしてなんか無いよ」
「そう、かも……その、変な人たちに絡まれたのは目立った席を取った私の責任かと思ってたんだけど」
「は? いや、どう考えても絡んでくる方が悪いでしょ。だから桜井さんはそこまで気にしなくていいよ……あと、遊作は笑いすぎだ」
そんなに俺が自分の思った通りに行動していることが面白いか?
「ふぅ……わかった。これから友達としてよろしくね?」
「とも、だち……友達! あぁ! 女子の友達なんて初めてのことだからちょっと感動しちゃったよ!」
「そ、そう? その……思ったより変な人ね」
「変な魔法使うからな」
変な魔法を使う人間は変な人間に決まっている。だから俺が変な人間であることはある意味では正しいことなのだ……勿論、面と向かって変人と言われたら流石にちょっと傷つくが、自覚はあるのであんまり否定はしない。
桜井さんが差し出してくれた手を握り、俺は笑顔を浮かべる。まさかこんな学園に入っていきなり友達が2人もできるなんて思ってもいなかったので、今回の件も俺にとっては良かったことなのかもしれない。それにしても、友達2人がクラスカーストのトップか……友達の友達とは、仲良くなれなさそうだな。
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