第9話 授業は辛い
「
「おぉ……やっぱり遊作はすごいな」
明後日の方向へとスタートダッシュを決めた俺の高校生活は、割と順調に進んでいた。
魔術総合学園の授業は実技が多い。通常の高校生が学ぶような授業は最低限だけにして、他の時間のほぼ全てを魔法実技へと割り振っているのだ。その為、1日の半分は魔法に関する実技と座学をやらされることになるのだが……これが結構辛い。
現在は、クラス内でペアを組んで交互に召喚魔法を発動して様々なモンスターを召喚したりするって授業なのだが……1コマの授業中に何度も召喚を繰り返すので全力疾走を繰り返した後みたいに肩で息をしたり、座り込んで水を飲んでいる生徒が大量に出ている。そんな中でも、数人の才能がある生徒は涼しげな顔で召喚魔法を連続で発動している。俺のペアである遊作もその1人だ。
「すごいって言ってくれるのは純粋に嬉しいけどね……ちょっとずつ精度が落ちてきているから、やっぱり僕もまだまだってことさ」
「そうなのか」
まぁ……確かに授業初めの時に比べると召喚されるモンスターの大きさが小さくなっている気がする。やはり連続召喚は遊作レベルでもキツイらしい。
「よし、じゃあ次は俊介の番だね」
「ん」
俺の番か……そんなこと言われても俺はちょっと困ったことになってるんだよな。
既に30分以上もクラスの全員が召喚魔法を繰り返し使っている訳だけど、俺は特に疲れていないし遊作のように精度も落ちてきていない。なにせ……俺が扱う召喚魔法はそこまで消費が重くないから。
「
小さな妖精が召喚され、俺の周りをグルグルと周回してからすぐにカードの中へと消えていく。これで……この授業だけで20体ぐらいの妖精を召喚しているのだが……カードが嵩張るな。いや、魔力で生成して存在を消したり出したりしているから物理的に嵩張っている訳ではないんだけど、どうしても頭の中で色々と嵩張るというか……とにかく嵩張るのだ。
「何度見ても、君の召喚は早くて正確。やっぱり僕らが使う体系化された召喚魔法とは格が違うね」
「人間が作ったものじゃないなんて言われるようなものだからな……性能はマジですごいと思う」
魔法生物科でこうして授業を受けているからこそ理解できるのだが、俺が使う召喚魔法はやはり異質と言わざるを得ない。
「そうですねぇ……不思議な魔法ですよね」
「……稲村先生、俺たちばかり見ている気がしますが大丈夫ですか?」
「ただ召喚魔法を連続しているだけなので大丈夫です。体調に異変があったら休憩も認めていますし、貴方たち2人ぐらいですよ? 休憩も無しに召喚し続けているのは」
稲村先生に言われて周囲を見渡してみると、殆ど生徒が息を荒げながら座り込んでいたり倒れ込んでいたりしていた。俺と遊作に向けられる視線は割と恐れを含んだもので、俺たちがずっと召喚していることに対してかなり引いているようだ。しかし……そんな中でも息を荒げながら召喚魔法を使用している生徒がいた。
「う……くっ!
空を羽ばたく小鳥を召喚した亜麻色の髪の女子生徒は、召喚が成功したことを確認してから俺たちの方へと視線を向けて笑顔を向けてきた。まるで、まだこちらは行けるぞと俺たちを挑発するような笑顔で……遊作がそれに対して笑みで返しながら召喚魔法を発動しようとしていた。
「
「稲村先生が言うならそうなんでしょうね」
「……今岡くんは私のことをどう思ってるの?」
「化け物」
「ばっ!? 担任の先生に対してなんてこと言うんですか!」
化け物以外に先生を表す言葉を俺は知らないよ。
結局、あれから俺を無視して遊作と桜井良子さんとやらの2人が競い合うように召喚魔法を使用し続け……時間が迫ってきた所で2人とも稲村先生に止められて授業は終わった。
「はぁっ、はぁっ……」
「うぐ」
「死屍累々」
魔力の使いすぎでまともに動けなくなった桜井良子さんと、まだ余裕はあるけど言葉を口から出すことができないぐらいに荒い息を吐いている遊作。そして、普段はもう少し騒がしいはずなのに誰もが疲労困憊で静かになってしまっている教室。俺の呟いた四字熟語に、隣に座っていた女子がギロっと睨んできたので俺は口を閉ざした。
「こんな状態で授業なんてまともに受けられるのかな……居眠りが続出しないといいけどね」
「……無理だと思うよ」
割とサボり癖があることを自覚している僕が授業中に居眠りするのはわかるけど、まさか遊作から居眠りを肯定するような言葉が……肯定はしてないか。とにかく、居眠りするだろうことを止めない言葉が出て来るとは思わなかった。まぁ……それだけハードな授業だったってことだろう。
「はーい、じゃあ次は座学を始めます! 居眠りしたら成績を減点しますから、ちゃんと気合で起きてくださいね」
おぉ……平然と鬼畜みたいなこと言い出したけど、稲村先生ってやっぱり割とヤバい人だよな。なんかおっとりドジっ子みたいな雰囲気を出しておいて、実際は滅茶苦茶強いしかなり厳しい人だ。人は見かけによらないってことなのかな……ちょっと笑えるけど。
生徒たちの答えなど聞かずに遠慮なく授業を始めた先生に、遊作が苦笑いを浮かべていた。まぁ……始まった授業の内容がそれなりに重要そうな魔術の理論や召喚士として生きていくためのポイントとかなので、苦笑いしたくなる気持ちはわかる。しかし……ここまで内容が詰まった授業をしていることを考えると、魔法生物科の2年生以降は割と実習とかで忙しいのかもしれないな。もしくは……モンスターとの実戦があるのか。
「在学中の免許取得の為にはしっかりと座学も勉強しないといけないからね」
「……え? 召喚士の免許取得って座学あんの?」
「運転免許と同じ、普通に筆記テストはあるよ。魔術師もあるし」
そうなんだ……なんか、俺は実技だけで取れるような資格だと思い込んでたんだけど、普通の筆記テストがあるんだったら真面目に勉強しないと駄目だよな……勉強はそこまで得意じゃないんだけども、免許を取る為に必要なんだったら死に物狂いで覚える覚悟はある。
既に教室内で船を漕いでいる生徒が何人か出ている中、俺は稲村先生がホワイトボードに記していく言葉を必死に書き写していた。
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