第6話 入学

 わかったことが幾つかある。

 まず、俺の召喚魔法は契約生物とかなり密接にパスを繋いでいるらしい。召喚魔法について詳しいらしい遊作に見てもらったからかなり信憑性が高い情報だと思う。


「普通の召喚魔法は、あくまでも魔力を受け渡して一時的にこの世界に存在させて使役するんだ。契約は一方的で、僕からキマイラに対して魔力の受け渡しはできても逆はできない」

「でも、俺の召喚魔法はできる」

「あぁ……原因は君と契約生物のパスが深く繋がっているからだ。相互方向に魔力が移動できるパスを繋ぐなんて……普通の召喚魔法には絶対にできない」


 やらないのではなく、できないのが正しいのだとか。


「本来ならばできないそれを可能にしているのが、そのカードなんだろうね」

「……この召喚魔法、イザベラは人間が開発できるようなものじゃないって」

「間違いないだろうね。僕としても人間が作ったとは考え難いと思うほどに……構造が理解できない」


 どうやら、俺が使っている魔法は誰が作ったのかも不明はオーバーテクノロジーらしい。

 そして、召喚魔法についてもう一つわかったことがある。そちらは実際に遊作に見て貰ったから間違いない……と言うか、俺が初めてイザベラの翼をその背中に出現させた時、直感的に使い方を理解したのだ。


「このカードを使えば、俺はイザベラの力だけを召喚することもできる」


 イザベラを召喚することなく、カードに魔力を送り込んで俺は背中に翼を顕現させる。その姿を見て、遊作は1人で頷いていた。


「これはとんでもないことだよ」

「……どんな感じで?」


 実際、俺は翼が生やせるぐらいの認識でしかないんだけども。


「簡単に言うならば……君は一時的に人間を遥かに超えた力を発揮することができる」


 うーん……もっとわからなくなったけど、まぁいいか!



 入寮初日から割とやらかしていた俺と遊作だけど、しっかりと許可を取ってからやっていたことなのでお咎めはなかった。決闘にしてもやりすぎだと少し怒られてしまったが……この学園ではあの規模の戦闘がちょくちょく起こるのか、教師の対応が慣れていた。まぁ……国立魔術総合学園で教師をしている人間なんて、全員が優れた魔術師や召喚士だったりするからかもしれないけど。

 さて……入寮してから少ししたらすぐに入学式があった。学園の理事長からありがたい話があり、学科ごとに分けられた教室へと移動する。


「はーい! 改めて、皆さん入学おめでとうございます! 魔術総合学園にようこそ……魔法生物科は1クラスだけですが、これからクラスメイト46人で仲良くしていきましょう!」

「……すっくな」


 これ、本当に受験で入ってきた人たちの数なの? エスカレーター式に上がってくる義務教育の方が人数多いとか、普通に魔法生物科が解散させられる危機なのでは?

 普通の高校とは違って、大学の講堂みたいな広さをしているから別に46人1クラスでも問題はないのかもしれないけど……それにしたってこの人の少なさは、ちょっと異常だと思う。国立の、それもかなりエリートに分離されるはずの魔術総合学園がこんな状態になっているとは……単純に召喚士の立場が低すぎるの原因なのか。


「えーっと、私はこれからこのクラスの担任として、みんなと一緒に活動していく稲村優香いなむらゆうかと言います!」


 あー……さっきから前でちょこちょこ動きながら挨拶していた栗毛の女性、担任の先生だったのか。俺はてっきり、担任が来るまで時間を稼いでいる新人の副担にとかかと思ったんだけど……どうやら担任の先生らしい。

 身長はかなり低そうで、目算だが150に届くかって感じで、栗毛の長髪がポニーテールとしてまとめられて左右に揺られている。同時に、クラスの男子の半分ぐらいは低身長なのに目立っているその……胸につられているようだ。

 まぁ、同じ男子として思う所がないとは言わないけど……そこまでガン見しているのは流石に気持ち悪いからやめた方がいいと思う。クラスの女子たちも徐々に男子の視線が何処に向かっているのか気が付いて、視線が冷たくなってきてるから。


「じゃあ、自己紹介とか……で、でも46人もいるしなぁ……その、どうしようかなぁ」


 男子たちがスーツに閉じ込められた大きな胸に視線を吸い寄せられている中、俺は稲村先生の腰に見えたバッジを観察していた。


「遊作」

「……一応、ホームルーム中だから話しかけないで欲しいんだけど」

「真面目か。いや、稲村先生の腰にあるあのバッジって」

「ん……うん。あれは君が想像している通りのものだよ」

「マジか」


 割と豪華な装飾が施されている金と黒のバッジだから、そうなんじゃないかと思っていたが……どうやら当たりらしい。


「あれは特別優秀だと国際的に認められた召喚士だけが与えられる、ブラックスター勲章」

「……俺、無知だからわからないんだけど、稲村先生ってかなり有名人か?」

「界隈では有名人かな。世間的にはあまり有名じゃないかもしれないけどね……今の僕じゃ逆立ちしても勝てないような実力者だよ」


 へぇ……そいつは、な。

 教えを乞うならやっぱり強い人がいいと思う。強さを持っている人間以外にも知識を持っている人間なんかもいるだろうけど、あくまでも俺が求めているのはモンスターと戦って給料を得る仕事だ。であるのならば、知識だけの頭でっかちよりも確かな実力を持った人間の方がいい。


「うぅ……先生、ちゃんとできるかなぁ……」

「教師としてはダメダメじゃねぇかな」

「それは同意させてもらうよ」


 しばらく観察していたが、年も若いし事前準備が全然だったのかさっきから全く上手くいっていない。召喚士としての実力は確かなものみたいだけど、どうやら教師としては俺たちと同じ「ひよこ」みたいだな。

 これからどうするんだろうかと思って眺めていたら、急に遊作が立ち上がった。


「先生、まずは落ち着いてください。46人いますが、ほぼ初対面でしょうから……やはり軽い挨拶から始めるべきだと思います」

「あ、そ、そうだよ! ありがとう、吉田くん」

「いえ」


 爽やかイケメンの対応に、周囲から好奇の視線が突き刺さっているのが見えた。

 初日からそんな目立つことをするとは……やはり生粋の陽キャは違うらしい。まぁ、俺も同様にクラスメイトから視線を向けられる人間ではあるんだけどな。なにせ……試験で意味わからない召喚魔法を使って、温情で合格にしてもらったって噂が立ってたからな!

 はぁ……誰だそんな事実に基づいた噂を流したやつは……俺の高校デビューを邪魔しやがって!

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