第3話 契約生物

「は? どうなってんだよ」


 家に帰ってから俺はパソコンでひたすら召喚魔法について探しているのだが……俺が参考にしたブログが全く見つからない。履歴を辿って見ようとしてもいつの間にか履歴からあの個人ブログだけが消えている。もし、ブログが削除されているのならば削除されたURLだって出るはずなのに……何故かそんな痕跡すら存在せずに消えている。でも、確かに俺はこのパソコンで見ていたはずなんだ。

 カードを触媒としてモンスターを召喚、契約する召喚魔法だとそのブログでは紹介されていた。長ったらしい文章だけで作られたサイトだったけど、効果は確かにあったんだ。実際に、俺はブランクカードを生成してモンスターを召喚し、そのカードの中に召喚した生物を保持している。カードケースから取り出すような感覚で、試験の時に召喚した大きいスズメのカードを手の中に呼び出せば、しっかりとスズメの姿が描かれたカードになっている。


「どうなってんだ……おかしいだろ」


 騙された訳ではない。だって実際に俺はその方法でモンスターを召喚して契約することができているのだから、方法自体はおかしなものではないはずなんだ。なのに、何故か召喚士の専門家である国立魔術総合学園の魔法生物科の試験官たちが全く知らないものって扱いになっていた。

 まるで理解ができない……俺は夢かなにかでも見ていたのか?


「……召喚サモン


 スズメとは別のカードを手に出現させ、俺は契約しているモンスターを召喚する。いや、モンスターと区分していいのか俺には判別できないが……とにかく俺の使役する存在を召喚する。

 赤黒い魔力の奔流と共に、ふわりと俺の部屋に現れたのは深紅の瞳を煌かせる美しい女性。地面につくのではないかと思うぐらいの長い銀髪は西日を反射してキラキラと輝き、見ているだけで魅了されそうな肩を惜しげもなく露出し、豊満なバストを揺らしながら瞳と同じ色をしている深紅のドレスを着こなす女性は、俺のことを見つめて口元に笑みを浮かべた。


「妾を部屋に呼び出すなど……このエロガキめ」

「はい、もう帰っていいよ」

「嘘っ! 嘘だから本気にするな!」


 イラっとしたのでカードを掲げて消そうとしたら、必死に縋りつかれてしまった。


「イザベラ、聞きたいことがあって召喚したんだ」

「はいはい、妾は主様ぬしさまの知恵袋ですよ」


 気怠そうに俺のベッドに座り込んだ女性の名前はイザベラ。勿論、ただの綺麗なお姉さんと契約した訳ではなく、彼女はなのだ。


「俺、今日は受験だったんだけど……このカードによる召喚は見たことが無いって言われたんだけど、なにか知らないか?」

「妾も見たことないわ。前から言おうと思っていたのだが……てっきり主様の周囲の人間は皆、使えるのが当たり前だと」

「いや、俺はネットで見つけたのを実践しただけなんだけどさ。そのブログが見つからなくて、もしかして狐につままれたのかと思って」

「主様が狐如きにつままれる訳がなかろう」

「俺に対する謎のすさまじい高評価」


 召喚魔法も未熟な見習い召喚士だぞ?


「ふむ……主様、そのカードを」

「え? おぉ……」


 何も考えずにイザベラにカードを渡そうとしたが、直前にびたっと手が止まった。首を傾げながらイザベラの顔を見ると、ちょっと深刻そうな顔でカードを眺めていた。


「……触れられん」

「え? こっちから近づけたら?」

「痛っ!? 見えない空間に押されているぞ!?」

「ご、ごめん……どういう理屈なんだ?」

「こっちが聞きたいわ。主様はそのカード、破ったりできんのか?」

「できる」


 ぐっと片手で力を込めてみるが、カードゲームのカードよりも脆く作られているような感覚がするので、力を込めればしっかりと破れるだろうって確信がある。


「でも、このカードを失ったら契約が消えるって見てたブログには書いてあった」

「ならば駄目だな。ふーむ……魔法に詳しい妾と言えども、正体ははっきりとせんな。1つだけ言えるとしたら……こんな魔法を生み出せる存在は、まず普通の人間ではないだろう、と言うことだけ」

「そんなにか」


 イザベラは俺なんかより遥かに強い……それこそ、テレビでよくみる魔術師なんかを歯牙にもかけないのではないかと思うぐらいには。そんなイザベラですら正体がわからない魔法なんて、俺がいくら頭を回転させてもわかる訳ないだろう。


「しかし、そんな応用性などという言葉では生温いぐらいに使い道の広い召喚魔法を扱える主様も主様よ。普通の人間ならまず間違いなく魔力が枯渇して最悪死ぬぞ」

「そこまで危険な魔法じゃないと思うけどな」

「いいや、妾の眼は誤魔化せん。主様が異常なだけだ」


 主様って言葉をつければ何を言ってもいいと思ってないか?


「なんにせよ、その魔法を使っている限りは主様がこの世で最強の召喚士であることは間違いない。妾も最強の主の元で戦えること、光栄に思うぞ?」

「なんでちょっと偉そうなんだよ。活動制限つけるぞ」

「なっ!? 横暴! これは契約生物へと虐待であるぞ!」

「知らん」


 ふむ……しかし、イザベラは俺の魔法を召喚魔法として扱っているから、原理が他の魔法と違うだけで召喚魔法であることには間違いないらしい。


「ぬぅ……主様、本当に思春期の男子中学生か? 妾の芸術的であり煽情的でもある完璧な肉体美を見ても、欲情せんとは……もしや勃たないのか?」

「なんで自分で召喚した存在に欲情しなきゃいけねぇんだよ。嫌だよそんな自給自足」

「いや、主様はあくまでも妾を呼び出しただけだからな。別に妾を創造した訳ではないのだぞ? 別個体だから欲情するのが正しいと思うのだが……趣味ではないか? 吸血鬼だからな……いくらでも身体の年齢は変えられるぞ?」


 なんでもありか吸血鬼。


「いや……イザベラに手を出したら変なことになりそうだからやめておくわ」

「その発想が既に思春期の男ではないと言っているのだが……」


 だって、手を出したら一瞬で身体全体の血液を抜かれて殺されるとか、さらっと契約を乗っ取られて好き放題に暴れるとかしそうじゃん。


「それに、明確にこちらが上として契約している相手にそんなことするのはなんか……強姦みたいで嫌だろ!」

「うむ、拗らせているだけか」

「ハウス!」

「妾は犬では──」


 カードをかざしてイザベラの召喚を無効化する。

 全く……イザベラは戦闘面でも知識面でもかなり優秀なんだが、あのちょっとやかましい性格だけはなんとかしてもらいたいところだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る