第2話 いざ、受験
「わかるかい?」
「いえ、全く理解できません」
なんか、魔力測定によって判明した俺の召喚士としての適性は異常を通り越して神懸っているとかなんとか。正直、ただの中学生なので魔力の異常がどうとか言われても特にわからないんだけども、褒められているみたいなので嬉しい……本当によくわかってないけど。
「君はどんな魔法生物と契約しても円滑にコミュニケーションが取れるだろうし、それに……理論的には可能だが現実的には不可能だとされた神との契約だって、もしかしたら……絶対に召喚士になった方がいい!」
「そ、そうですか」
詰め寄られても俺はあんまり乗り気ではない。
いきなり「君にはカバディの才能がある!」とか言われてもよくわからないのと同じで、召喚士としての才能が素晴らしいとか言われても、そもそも召喚士のことを詳しく知らないからどうにも反応し辛いというか。
「必ず成功する! なんなら世界最強にだってなれるよ!」
「君が魔法生物科にきたら絶対にモテるよ!」
「最強、モテる?」
おぉ? それは……人並みに興味がある言葉だ。
不純な動機と言われようとも、俺は男子中学生……最強という二文字には無条件で憧れを抱いてしまい、モテると言われれば鼻の下を伸ばしてそうかな、と気持ちが乗せられてしまうものだ。勿論、目の前の2人が話を盛っていて、実際には平均レベルでしかないと言われるかもしれないけど……それはそれとしてものすごい興味が湧いてきた。少なくとも、既になれないと明言されている魔術師よりはよっぽど、だ。
「受験してみようかな」
「本当!?」
「是非! 受験対策に関する資料も作ってあるんだ! 僕は
「私は今年1年生の
「どうも……今岡俊介です」
興奮気味に自己紹介をしてくれた2人は、色々な資料をまとめたファイルを手渡してくれた。
「……受験対策に関する資料って、オープンスクールで配る物ですかね?」
「うちはとにかく人がいないから仕方ないって割り切ってもらってるよ。それぐらい、魔法生物科は危ういからね……君が来てくれたら世界が一変するぐらいの影響力があるから、将来的には人気の学科になるかもしれないけど!」
「リップサービスにしても過剰だと思いますけど、受け取っておきます」
世界が一変するってまた大袈裟な表現だな、なんて思いながら渡された資料をパラパラっと確認してみると……受験対策の部分に大きな文字で「実技試験あり」と書かれていた。
「あの、この実技試験ってなにするんですか?」
「え? あー……魔法生物科は基本的に召喚士になる為にくる場所だから、試験で魔法生物を召喚する実技があるの。どれだけ弱くてもいいから生物を召喚できれば合格できるはずだから大丈夫! やり方も、基本的な事は全部その資料の中に書いてあるから」
井上先輩がニコニコとした笑顔でそう教えてくれた。
実技か……魔法生物の召喚なんて全くやったことがないのに、受験を乗り切れるのだろうかと少しだけ心配になってしまったが、書いてある通りにやれば誰にでもできるからと言われて俺は取り敢えずで頷いた。
それから、と井上先輩と三浦先生が更に何かを言おうとした所で、学園のチャイムが鳴り響いた。
「あ、もうこんな時間……ごめんね?」
「いえ」
オープンスクールはそこまで長い時間をかけてやっている訳ではない。今のチャイムはオープンスクールの終了が近づいていることを知らせるためのもの……つまり、これ以上、長々とした説明をここで聞くことはできないってことだ。
「まぁ……資料も貰ったので、自分でできる部分は頑張ってみます」
「うん! 後輩として学校に来るの、楽しみにしてるね!」
ぽよんぽよんと、井上先輩が跳ねる度に俺の視線が胸に行く。高校生にしてはデカイのでは……いや、セクハラだからこれ以上のことを考えるのは辞めよう。
オープンスクールからの帰り道、俺は本屋に立ち寄っていた。
「召喚……召喚……」
立ち並ぶ本棚の中から、召喚士について書かれた本がないかを探すのだが……全然見つからない。あるのは魔術師に関するような本ばかりで、召喚士について書かれているような本が見当たらないのは、格差をそのまま反映しているようでちょっと不安になってしまう。
「あった!」
半ば諦めながら本棚を目で追って確認していたら『召喚士の扱う契約魔法の基礎』という本を発見した。タイトルがすごい適当な本だ、なんて思いながらパラパラと捲って中身を確認すると、そこには俺が求めていた情報がしっかりと載っていた。
召喚士の基礎、契約魔法の基本、魔法生物に関する基礎知識、俺にとって足りないようなものが全て書かれている。俺には召喚士としての才能があると井上先輩と三浦先生は言っていた。ならば……俺がこの本を読んで召喚士の基礎を学んでしまえば、ものすごい才能が発揮されるのではないかと期待してしまっている。
覚悟を決め、俺は本をレジへと持っていく。この本で基礎をマスターして……俺は必ず召喚士として、国立魔術総合学園に合格してみせる。
俺は手に持っていた本をベッドに向かって投げつける。
「あー……騙された」
俺には召喚士としての才能があるなんて言葉に踊らされて、とんでもない馬鹿みたいなことをしていたらしい。
オープンスクールで才能があると煽てられ、本屋で買ってきた召喚士の基礎と書かれた本を読みながら色々なことを実践し始めて、既に2週間が経過した。そろそろ夏休みも終わるって時期になって、ようやく俺は自分が騙されていることに気が付いたのだ。
「くそ……こんな無駄なことに時間使うなんて思ってなかったわ」
召喚士の基礎として書かれている様々な魔法を俺は頑張って習得しようとしていた。国立魔術総合学園に受験するような学生は、実際にこの夏休みぐらいの季節から色々な魔法について勉強したりするので、俺だって受験勉強の一環なんだと母親を説得してひたすらに魔法の練習に励んでいたんだが……結果はついてこなかった。
才能があると言われたのに、俺は何時まで経っても魔法生物とやらを召喚することができない。
投げ捨てた本をちらりと確認すると、折り目ができるほど読み込んだ本のページが開いている。魔方陣を魔力で描き、契約するための魔法生物をこの世界に召喚すると書かれているページだ。
「……」
立ち上がり、俺は部屋の中で指先に魔力を集中させて魔方陣を描く。体内の魔力移動に関しては問題なくできているし、本に書かれている通りの簡単な魔方陣を俺はしっかりと床に描けている。
「来いっ! 我が
最後に魔力を掌に込めて魔方陣へと注ぎ込み、魔法生物をこの世に……この世に……召喚できない。
「やってられるかこのクソ教本っ!」
俺はベッドに転がっている本を再び手に取ってゴミ箱へと投げ入れた。
どうやら、俺には召喚士としての才能なんてなかったらしい。純粋な中学生を言葉巧みに操って召喚士向いてるよなんて騙すなんて……マジで他人を信用できなくなるわ。
教本通りにしっかりと魔方陣を描き、しっかりを魔力を込めているのに全く魔法生物が出てこないなんてアホみたいな話だ。この程度なら誰にでもできるって教本にも書いてあるのに、なんで俺はその基礎の部分で終わってるんだよ……意味わかんねぇ。
憂さ晴らしにパソコンの電源を点けて、俺は愚痴を吐き出すように検索欄に『召喚士 召喚 できない』と検索してみる。
「……うるせぇ」
パっと検索して、最初に出てきたのは才能が無いと人を馬鹿にするネット掲示板の連中をまとめたもの。2番目に出てきたのは魔力循環障害などの病気に関する記事。そして……3番目に出てきたのが、殆どの人が使わない召喚方法というタイトルの個人ブログだった。
数秒間そのタイトルを見つめてから……藁にも縋る想いでクリックした。瞬間、文字だけで図の説明も殆どないような面倒くさいサイトが表示される。ひたすらに羅列されている文章を見て少し辟易とし、さっさと戻ろうと思ってブラウザバックしようとして……もし可能ならば歴史に名を残せるかもしれないという文言を見て指が止まった。
「た、試すだけなら……」
所詮、俺は自己を肥大化させて見せたいお年頃なのだ……最強とか、歴史に名が残るとか、そういう特別を求めてしまうのが中学生の思考回路の限界。自分が大人であると思いながら大人に対して反発する子供でしかない俺は、ブログに書かれている通りに、手順を実行し始めていた。
「それでは、今より実技試験を始めます。各自、自分の受験番号で振り分けられた場所に移動して、試験官の言う通りに進めてください」
あれから半年……ついに国立魔術総合学園の受験に俺は来ていた。
運命的な出会いというのは、ああいうことを言うのだろうかと……自分でもちょっとキモイなと思うようなことを想像しながら、俺は振り分けられた受験番号を確認してから指定された運動場へと向かう。
魔術総合学園なんて言われるだけあり、ここには魔法を使用しても問題ないぐらいの広さの運動場が複数存在している。今から、俺たち受験生は指定された通りに魔法生物を召喚して契約するように言われる。強力なモンスターを召喚して使役できればそれだけ高評価だし、雑魚モンスターを召喚した場合は低評価になる。まぁ……さっき受験生同士が喋っている内容が聞こえてきて、定員割れしてるとか言ってたから多分、召喚さえできれば合格なんだろうけど。
「やぁ」
「……ど、どうも」
「一緒の学園に通うかもしれないから仲良くしようね。僕は
「
「今岡君ね、覚えた」
んー……なんだこの爽やかイケメン野郎。
茶髪の時点でチャラチャラしてんなと思ったけど、これはあれだな……モテるタイプのチャラ男だな。チャラっとしてるけど誰にでも優しくて、基本的に分け隔てない感じの陰キャにも好印象を与えるチャラ男だわ。クラスカーストで言うとトップオブトップの立場ね。
俺だって男性の平均身長以上の173あるのに、俺より結構デカイ……数字にすると180ちょいかな?
「いやー、僕は田舎から来てて知り合いとかいなかったんだよね。だから受験番号が前後の人同士、仲良くできたらなって」
「お、おぉ……」
クソ……陽キャオーラに圧倒されてしまう。
「受験番号2065!」
「あ、呼ばれちゃった」
呼び出されたチャラ男はそのまま前に歩いていき、試験官に言われた通りの魔方陣を描いていた。しばらく魔力を込めてから……召喚魔法を発動したチャラ男の目の前には、巨大な鳥が召喚された。
「すっげぇっ!?」
「や、やばいな……」
「うわ……ちょっと自信なくすわ」
確かにすごい。
召喚魔法は基本的に召喚するモンスターの大きさに比例して難易度が上がっていく。人間より遥かにデカイ鳥をこともなく召喚したあのチャラ男は、とんでもない才能を持っているってことだ。試験官の人たちも驚いている様子だったので、多分そんなにいないぐらいの才能なのだろう。
召喚された巨大な猛禽類は、半透明になって空気に消えていった。あのチャラ男……とんでもないことしやがった。なんでわざわざ俺の前ですごいことするんだよ。
「じゅ、受験番号2066!」
「あ、はい」
「今岡俊介君?」
「そうです」
「……よし、じゃあそこの前に立って召喚魔法を」
受験番号を呼ばれたので前に行き、受験票を見せて名前の確認をしてから試験官に促されるままに俺は広場の前に立つ。
「ふぅ……よし!」
この日の為に練習を重ねてきたのだ……ちゃんと成功してくれよ!
俺は手に魔力を集中させてブランクカードを生み出す。
「は?」
背後の試験官がなにか反応したような気もしたが、集中して俺は生み出したブランクカードに魔力を込めて魔方陣を描き、そのカードを前方へと投げ……魔法を発動させる。
「
ブランクカードから魔力を溢れ出し……地面からゆっくりと魔法生物が姿を現す。
鋭い爪、流線形の嘴、さほど大きくない翼……現れたのは、ちょっと大きいスズメだった。
「……はい?」
「え、駄目ですか?」
「いや……え?」
試験官の人たちが集まってきて、召喚されたスズメと俺を視線でいったりきたりしながら眺め……俺の手を見つめる。
「道具の持ち込みは、してないよね?」
「はい……カードは作っただけですから」
すっと手の中に再びカードを生み出すと、すぐに試験官に取られるが……俺以外が触れると簡単に消えるようにできているのでしゅわっと空気に溶けていく。
「えーっと……困ったなぁ。こんな召喚方法は見たことないよ」
「え……えぇっ!?」
普通にネットに転がってたのに!?
「でも、召喚は成功してるから合格でいいよね?」
「うん……ただでさえ定員割れしてるから」
そんな理由で合格でいいのか!?
なんか釈然としないまま、俺は召喚したスズメをカードにして消してから、歩いて試験会場から出て行くと、外でチャラ男が待っていた。
「くく……あはは! 君、すごく面白いね!」
「うるせぇっ!」
ちょっと傷ついてるんだぞ!
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