自分で戦う才能ないって言われたので召喚獣に戦ってもらうことにしました
斎藤 正
第1話 適性検査
人間が『魔法』と呼ばれる謎の超パワーを手に入れたのは、俺が生まれる200年ぐらい前のことだったらしい。
200年以上前の人間がどんな風に生活していたのかなんて詳しく知らないけど、第三次世界大戦の最中に人類の中に突然、超パワーを使える人間が現れたのだとか。その力は最初、超能力って呼ばれてたみたいだけど……数年もすると魔法と名前をつけられることになった。理由は、ファンタジーの作品に出て来るみたいに便利だったかららしい……人間って割と適当だよね。
第三次世界大戦中のことなので、魔法の力を手に入れた人たちは戦場の最前線で凡人を蹴散らした……と言いたいところだが、実際には同時に現れた謎生物の対応で各国はしっちゃかめっちゃか。世界大戦で劣勢だった側が世界の危機じゃねって言い訳をし始めたが、世界中が頷いたのでそのまま終戦した……のが、ピッタリ200年前のことなんだとか。さっきニュースでやってた。
俺は子供の頃から憧れていたものがある。
手から火を出したり、氷を生み出したり、雷をバリバリって放ったりするあの魔法だ。正確に言うのならば、その魔法を使って異形の謎生物『モンスター』と戦う職業である『魔術師』になりたかったのだ。
野球少年がプロ野球選手に憧れるように、子供の頃からゲームが好きだった俺は魔術師という職業に憧れていた。それがこの俺「
「あー……すごい言い難いんだけどね」
「はい」
「君、自分で戦う才能全くないわ!」
「言い難いって言ってから出てくる言葉とは思えないぐらい、全く配慮の無い言葉どうも」
さて、人間に襲い掛かってくる異形の生物であるモンスターが世に蔓延っているのならば、それを駆除する人間が当然いる訳で……その職業として最も人気があるのが、キラキラと輝く魔術師である。
魔術師と言えばモンスター駆除の専門家なんだが、昨今では全く違う扱われ方をする。それがどんな扱いかって言うと……とにかくメディア露出が多いのだ。まるで芸能人のようにテレビ番組に引っ張りだこで、ちょっとSNSで小さなことを呟けば即座に拡散されるような立場……簡単に言えばすさまじい人気を誇るアイドル的な存在と化している。理由は、一般人には扱えないようなとんでもない威力の魔法が使えることによる物珍しさだ。
「多いんだよねぇ、最近……小学生のなりたい職業ランキング堂々の2位でしょ、魔術師」
「1位はなんだよ」
「インフルエンサーだったね」
「世も末だな」
どうなってんだ最近の小学生。てか、今となっては魔術師だってインフルエンサーの中に含まれているようなもんだから、1位と2位が同じ職業みたいになってるじゃねぇか。
「でもねぇ……知ってると思うけど、魔術師になるには適性検査を突破して、その上で魔術師免許を取得しなきゃいけないでしょ? 正直、掲げる無駄な夢だと思うんだけどねぇ」
「適性検査してる人が言うことですかねぇ? そうやって何人の無辜な中学生の夢を破壊してきたんだ」
「今、丁度1人増えたね」
そうだよくそったれ!
俺だって魔術師になりたかったんだよ!
やぶ医者みたいな髭のおっさんが言っていることは現実だ。魔術師になるには厳しい適性検査を突破して、その後に待っている魔術師免許の為の試験も突破しなければならない。国家資格なのだから仕方ないとは言え、弁護士や医師よりも狭き門だと世間的に言われている。なにせ、死ぬ気で勉強すればなんとかなるかもしれない弁護士や医師なんかとは違って、魔法の才能という先天的な体質を要求されるからだ。
「ま、世の中には魔術師以外の職業だって沢山あるから安心しなよ!」
「安心できる要素がなにもない……こんな大人になりたくねぇ」
おっさんが俺の身体に触れて確かめていたのは、俺に魔術師になれるような才能があるかどうかの検査である。国によって義務付けられている中学生の魔術師適性検査を受けていたのだが……この時期に魔術師の才能が無い者はその後の人生で一生魔術師として生きていくことが許されない。中学生の時に、夢へと挑む権利すら奪われてしまうのがこの世の現実なのだ。
とは言え、そのことで国を責めるような人間は殆どいない。なにせ、これは国が国民の安全に配慮しているからこそ起こる事案なのだから。普通の動物と比べても笑えるぐらいの差があるモンスターと対峙して、生き残るためにはそれぐらい厳しい適性検査が必要なのだ。半端な人間を魔術師にしたってモンスターの餌にしかならないから、こうして足切りをしている。
「んー……でもねぇ、君の検査結果はちょっと変なんだよねぇ」
「変ってなんですか。もしかして魔力循環異常とかじゃないですよね?」
「いやいや、魔力はちゃんと流れてるんだけど……普通の人とは流れ方が全然違うって言うか……これ以上を調べたかったら専門の機関に行くしかないね」
「健康被害は?」
「ない!」
「ならいいっす」
魔術師になれない未来が確定したのに、今から身体の検査をしたってしょうがない。健康被害がないのならば、もはや俺の身体の中の魔力なんてあっても無駄な代物でしかないんだから。
「うーん……でも、これは結構すごいことだと思うんだけど、君が興味ないならいいかねぇ」
何時まで言ってんだよ。
俺としてはマジで興味もない話なんだよな。魔術師にもなれないし、身体に異常が起きて命の危険がある訳でもないんだから……今から魔力に関する調査をわざわざ専門の機関まで行って調べる意味がない。
魔術師になりたかった。けど、俺はその未来を既に閉ざされてしまったのだと思うと、肩の力がすーっと抜けていき、虚無感が襲い掛かってくる。
中3の夏前……これからどの高校を受験するのかしっかりと決めて勉強を本格化させていこうって時に、こんなことを言われると俺としてもやはりちょっと……心に来るものがある。
仕方のないことではあるのだ。この世の中には才能を発揮して成功できる人間と、才能も特になくひたすらに平凡や、それ以下の生活を送り続ける人間が存在している……この世界は決して平等ではないのだから、どうしたって不幸になる奴と幸福になる奴が現れるのは仕方がないことなのだと……割り切れればどれだけよかったことやら。
「俺、魔術師の才能があるって言われたぜ!」
「マジかよ! いいなぁー!」
「えー? 中山君が魔術師になれるのー?」
「なんかかっこよく見えて来たかも」
中学生にとって才能が簡単に可視化されてしまう魔術師の才能というのは、とても残酷なほどの格差をクラスに生み出してしまう。
「だから俺、志望校は国立魔術総合学園に決めたぜ!」
「いいなー! 推薦貰えるんでしょ?」
国立魔術総合学園とは、日本が作った才能の塊を一纏めにするために学校。モンスターと戦う魔術師を育てるために国が創設した高校であり、同時に国内で唯一成人前に魔術師の免許を取ることができる場所でもある。当然ながらエリートだけが通う学校……なんだが、実際は普通科もあったりするので入ること自体はそこまで難しい学校でもない。魔術学科に入るには、適性検査を通り抜けて中学校から推薦を貰わないと入れないだけだ。
「じゃあ私も魔法生物科入ろうかなー!」
「魔法生物科、か」
モンスターと戦うのは魔術師だけではない。
魔術師が注目されているだけで、別に魔術師以外にもモンスターと戦う職業は存在していたりする。だがまぁ……貢献度的に考えても魔術師以外の職業なんていてもいなくても変わらないってのは、当たっていたりもする。
先ほど、頭の悪そうな……ノリが軽そうな女子生徒が言っていた『魔法生物科』とは魔法生物を召喚して戦う『召喚士』になるための免許を取得することができる学科だ。因みに……人気が無さ過ぎて高校でしっかりと召喚士の免許取得のためのカリキュラムを組んでくれている学校が、国立魔術総合学園にしか無かったりする。
「やめとけよ、
「そうだよねー! マジで召喚士とかダサいわ!」
自分の力で戦うことができず、魔法生物と契約してそれを従えながら戦う召喚士……率直に言って滅茶苦茶見下されている。絵面が地味ってのも理由の1つとして上げられるけど、それ以上に自らの力で戦わないって部分がかなり馬鹿にされている。
魔法生物に戦わせて自分は安全な所からって聞くと、モンスターと戦う命の危険を減らせて良いことのように感じるんだけども、基本的に契約した魔法生物と召喚士は深く繋がっているので……契約している魔法生物が死ねば召喚士も相応の傷を負うことになるので、命の危険はあんまり変わらなかったりする。
とにかく、ダサくて人気無いしメディア露出もないのが召喚士って存在だ。なりたいと思って国立魔術総合学園の魔法生物科に入学する奴なんて本当に奇特な奴だけのはずだ。しかし……不人気と言えども魔術師と同じような環境で働けるし、なにより国立魔術総合学園に進学できるのは明確なメリットだと言える。少しだけ……調べてみようかな。
夏休みの時期には多くの高校がオープンスクールを実施して、自分たちの高校はこんな場所なんですよ、なんて宣伝している。
ここ数十年、現役の受験生から最も人気を集めているオープンスクールは……勿論国立魔術総合学園である。誰もが一度は魔術師に憧れ、そしてその殆どがふるい落とされてしまった夢の舞台を、直に見てみたいと思う人間は多い。
「魔法生物科でーす……先生、やる意味あります?」
「それ、毎年担当してる生徒言われるけど、やらないと駄目なんだよ……うちは国立だから教育委員会がうるさいんだぞ?」
「生徒にそんなこと言わないでくださいよ」
魔術師科、普通科、魔法補助科、魔法理論学科などに多くの人が集まっている中、人が集まっていない場所を見つけて俺はそこに近寄った。
ブースではやる気無さそうな茶髪ショートカット女子生徒と、くたびれた感じを醸し出している黒髪ちょび髭眼鏡のおっさん教師がだるそうな感じに座っていた。魔法生物科の説明なんかをしている場所だと思うんだが……まるでやる気が感じられない。
女子生徒の方はスマホを片手にかったるそうにしているし、くたびれたおっさん教師の方は猫背のまま看板を片手に持っていた。俺の身長が173はあるのに、おっさんは猫背の状態で俺よりも10センチぐらい背が高そうで羨ましい。
「あの」
「へーい……魔術師科はあっちだぞー」
「いえ、魔法生物科に興味がありまし──」
「マジ!? 大歓迎だよ! ささ、席に座って!」
「え、は、はい」
一瞬で席に座らされた俺を前にして、女子生徒と教師はとても感動したって顔で俺のことを見つめている。今日はオープンスクールなんだからそれなりに人が来ていると思ったんだが……この反応からして、魔法生物科は全く人気が無いらしい。知っていたけど、実際にこうして現実を見せられるとやっぱり入るのやめようかなって気持ちが湧いてきた。
「魔法生物科はいいぞー! 魔術師科よりも実習多いし、人気が無いせいで生徒数が少ないから逆にみんなと仲良くなれる!」
「今の1、2、3年生のクラス数は?」
「……1年が2クラス、2、3年が1クラスです」
「えぇ……」
よく、科そのものを潰されないな。
「と、とにかく! 魔術師科よりも楽しい部分もあるからさ! 是非入ってみてよ!」
女の先輩にこうして迫られて手を握られると悪い気はしないけど、隣の教師がごそごそとなにかを準備しているのが気になって話があんまり入ってこない。
「よし、君の名前と……あと、召喚士に向いているかどうかの適性検査をさせてもらっていいかな?」
「……えっ!? 召喚士にも適性ってあるんですか!?」
「あー……まぁ、あるんだよね、一応は」
知らなかった。召喚士とか今までの人生で興味持ったことが無いから殆ど情報も仕入れていなかったんだけど……まさか召喚士にも適性があるなんて。
終わった、と思いながらも機械を腕につけられながら、俺は差し出された用紙に名前を記入していく。
「適性って言ってもね、魔術師の才能とは違って後天的に鍛えることができるんだ。だから適性があんまりなくても真面目に3年間頑張ればちゃんとした召喚士になれたりするんだよ」
柔和な笑みを浮かべながら懇切丁寧に説明してくれた教師の言葉に、へーっと適当な返事をしておく。
「召喚士にとって最も重要なのは、契約する魔法生物とのコミュニケーションを潤滑に行うことができるかどうかなんだ。当然、契約する魔法生物の中には言語を使えない存在が多いから、自分の考えていることを魔力の波長に乗せて伝えることができるかどうか……召喚士として最も求められる素質はそれなんだよ」
「この機械はその為の?」
「いや、これは君の体内の魔力を詳しく調べて、どんな魔法生物と契約することができるかとか、それ以外にも体内の魔力に関しては大体わかるよ」
「へー」
「普通は専門の機関にしかなかったりするんだけどね」
専門の機関ねぇ……なんかちょっと前にどっかで聞いたような。
「え?」
「どうしたんですか、先生? なにか異常でもあったんですか? その機械高いんですから壊したり……な、なにこれっ!?」
「なんですか、怖いじゃないですかやめてくださいよ」
検査結果が表示されているであろうモニターを確認して、教師と女子生徒が2人して唖然とした表情のままこちらに視線を向けてきた。
「こんな魔力は異常だよ……こんな、召喚士をする為に生まれてきたような人、見たことが無い!」
「絶対に魔法生物科に入りなよ!」
「いや、その前に何が映ってたのかとか、ちゃんと見せてもらっていいですか?」
勝手に納得するな。
次の更新予定
2024年12月1日 00:00 毎日 00:00
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