16:20『倉庫』
――訳ない!
たかが一回天川智明に勝ったからって運気が上がる訳がない!
何なのこれ!
何のつもりなの!
滝のように汗が流れ出る!
暑いとかそういう次元じゃない!
体の半分、干からびてる気がする!
きっとミイラはこんな気持ちなんだ!
ミイラになる過程はこんな気持ちなんだ!
体の水分っていう水分が外に出ていってしまうのをありありと感じる、全毛穴を塞ぎたくなるような気持ちなんだ!
死ぬわ。
絶対に死ぬ。
このままだとあと一時間もすれば、あたしは完全なミイラになる。
一旦廊下に出て涼んだ方がいいと思う。
でも化粧が汗で流れ落ちてるから、廊下で誰かに会うのが嫌だ。
ってか、何でエアコン付いてないの!?
倉庫にこそエアコン付けるべきじゃない!?
この会社、バカなんだ。
絶対絶対バカなんだ。
バカだから倉庫にエアコン付け忘れて、あたしがこんな目に遭ってるんだ。
でもせめて——。
「……扇風機くらい置け……」
ダクダクと流れる汗をタオルで拭って毒づいてみても、この干からびてしまいそうな暑さを
――けど。
誰に会ってもいいやって思ったんだけど。
「あれ? 水戸さん?」
天川智明だけには会いたくなかった……!
倉庫のドアノブに手を伸ばしたのと同時に向こう側から開けられたドア。
そこにいたのは、本当に何で!?って思うくらい、今日に限って何度も何度も会う天川智明。
しかも何でこんな時に!
化粧が流れ落ちちゃってる時に!
汗掻きすぎて全身ベタベタになってる時に!
明らかに汗臭い時に!
「ここで何――って、ああ。重要な仕事?」
クスッて聞こえた気がした。
鼻で笑ったのが聞こえた気がした。
さっきの意地悪を倍返しされたような気持ちになって――。
身長差から見上げた天川智明の顔は、完全に勝ち誇った顔してやがる。
これが重要な仕事なんだ?ってバカにしてる雰囲気を物凄く出してきやがる。
めちゃくちゃ重要な仕事なのに。
在庫の確認は物凄く必要なのに。
あんたが使ってるボールペンもコピー用紙も全部こうして管理してるからあんたたちが使えるんだし!
だからこれはある意味この会社の、最重要な仕事なんだし!
なのに、この会社はバカだから、倉庫にエアコン付け忘れてるし!
「…………」
なんて事を言ってやりたいとは思ったけど、最早そんな体力なかった。
頭からタオルを被って、スッピンの顔を隠すのが精一杯だった。
「……水戸さん?」
さっさと廊下に出ようと思うあたしは、すれ違いざま声を掛けてくる天川智明に対して、「何よ」って言う気力もない。
だから無言のままで振り返って、態度で「何よ」って示したあたしに。
「大丈夫か?」
一歩近寄った天川智明の顔が歪んで見えた。
顔だけじゃない。
世界が歪んだ。
グニャリと歪んだ世界に一気に吐き気が込み上げてくる。
「おい!?」
天川智明のその声が、物凄く遠くからのものに聞こえた。
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