6

小さなスライムの案内で向かった草地には先客がいた。

赤い長髪を後ろで縛っている。背格好はクロードとそう変わらないようだ。


「ん……あぁ、お前らも依頼か?まだ生えてるぜ、ほら」


場所を譲ろうとする少年に慌てて手を振る。

見た目は中性的で愛らしい印象だが、落ち着いた低い声で男性とわかった。

もしかしたら少年ではないかもしれない。


「この辺りにどんな種類が生えてるか見ておきたかったんだ。邪魔してごめんね」


「ふーん?まぁいいや、俺はもう依頼分は集めたし……スライム連れてんのか、テイマー?」


「うん、さっきテイムしてここまで案内してもらったんだ」


冒険者は駆け出しこそ助け合いだと、隣に座らされたので遠慮なく観察させてもらう。

聞けば冒険者登録をしてまだ5日も経っていないという。

シオンも声をかけられたが、付き添いだからと笑って首を振った。


「おっと、悪い。俺はグレンだ。16歳」


「あ、ぼくはクロード。12歳……ごめん、思ったより年上でびっくりしちゃった」


「ハーフリングだからな。成長遅いんだ。クロードはあんま戦えるように見えねぇな……って、人のことは言えねぇか」


「ぼく錬金術師だよ。成果物持ち込まないとギルドに登録できないから、まずは冒険者しかなくて……」


「あー……錬金術師って秘密主義だよな。縁者以外の師弟関係は殆ど組まないとかなんとか」


「グレンも戦闘職って感じじゃないよね。魔法?」


「惜しい、精霊術。あと鍛冶師」


破門されちまったけどな、と悔しそうに笑うグレン。だから宿を取るにも何かしら稼ぐ必要があったのだと言う。

クロードも、技能を授かったら家を出ろと放逐された身だ。

なんとなく似た境遇に、お互い頑張ろうねと拳を合わせた。


「で、破門ってなんで……これ聞いても平気?」


「おう。親方が亡くなって息子が跡継いだんだがな、そしたらドワーフじゃないやつは出ていけってさ。今まで作ったものは正規の値段で買い取ってくれたから、一応当面の金はあるがなぁ……力仕事に向かないやつはいらんって言い分も、理解はできる。仕方ねぇさ」


むぅ、と唇を尖らせれば「なんでお前がそんな顔するんだ」と笑われた。


「お前は、なんで追い出された……聞いていいやつか?」


「ん。ぼくのお母様、貴族のペットだったんだ。父……ってもう呼んじゃいけないんだけど、その人はペットが産んだ子どもには興味なかったんだよね。技能が授かるまで飼ってもらえてよかっ……なんで君が怒るのさ」


話が進む内に眉間に皺を寄せていくグレンに、思わず吹き出してしまう。


「そこまで人間扱いされねぇとかさぁ……お前……」


「ううん、恵まれてると思うよ。お兄様とお姉様は、半分しか血が繋がってないのに味方になってくれて……今もいろいろ面倒見てくれてるし……」


奥方様もクロードの存在を面白くは思っていなかったはずだが、特に辛く当たるということはなかった。奥方様が強く言えば、技能を授かる前に追い出すことだってできたのだから。

そういえば、生前の母が奥方様に苛められたとかそういう様子もなかった。あくまでも夫が飼っているペットという認識だったのだろう。


「それよりグレンは、鍛冶師続けるなら設備が必要だよね?」


「まぁなぁ……幸い工房から破門になっただけで鍛冶ギルドの所属はそのままだし、細工なんかも得意だし、自力で素材集めながら暫くはそっちで稼ぐさ。精霊術のおかげで多少なら付与もできるしな」


「そっか、じゃあ同じだ。ぼくも自力で素材集めて、まずは錬金ギルド登録が目標かな」


すっかり意気投合した2人は、このままパーティを組むことに決めた。

その様子を少し離れて見ていたシオンが、どこかへ手紙を送っていることには気づいていなかった。

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