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昼過ぎの冒険者ギルドは閑散としていた。

午前中は活気がありすぎて新規登録には向かないので、この時間が狙い目なのだという。


「新規登録に来た。よろしく頼む」


相手が恐縮するので丁寧な言葉は使わないように、そうシオンに指示されたとおり受付の男性職員に声をかける。シオンは入口の辺りでこちらを気にしながら立っている。

流石に、登録にまで隣で世話を焼くのは遠慮してもらった。


「ようこそ。登録には最低ひとつの技能提示が必要ですが、戦闘に向いた技能はありますか?」


「いや、ぼく自身は直接戦うには向かない。テイムの技能持ちだ」


「なるほど……従魔契約するまでは戦えるかどうかわかりませんね。依頼達成率が悪いとランクダウンや登録解除の可能性もあることはご承知ください」


目を見て頷けば職員も頷いて返し、カウンターにカードを取り出した。


「このカードに魔力を読み取って、ギルドのデータベースに個人情報を登録します。登録名は本名でなくとも構いませんが、違う名前で再登録することはできません。個人を判別する魔力の波長と、申告された技能。そして達成した依頼と現在のランクがカードに記録されます。カードの記録は随時データベースに更新されるので偽造はできません。登録を進めてよろしいですか?」


「ご丁寧にありがとうございます。……あ、ええと。よ、よろしく頼む……」


慣れない言葉遣いを受けて、職員が微笑ましそうな目を向けてくる。


「ではこちらのカードに触れたまま、登録するお名前と申告する技能をお願いします。申告が済んだら離してください」


名前を偽る理由もなければ、技能を隠す利点もない。ポーション類は自作の品であっても納品依頼に使えると聞いたので、寧ろ開示しておく方がいい気がする。

回復魔法は習得していないうちに申告するものではないだろうから、省略しておく。

言われたとおりにカードに指を当てた。


「名前はクロード。技能はテイムと錬金術だ」


カードから指を離すと、そこにはクロードの名前と技能が刻まれていた。左上に大きく浮かぶ「E」の文字がランクだろう。


「これがクロードさんのライセンスカードです。身分証にもなるので常に携帯していてください。登録直後は一番下のEランクからスタートです。Gランクというランクもありますが、これは懲罰期間中の特殊なランクです。無報酬で能力に合わせた一定の依頼を達成したら解除されて、もとのランクのひとつ下から再スタートとなります。文字が読めるようなら向こうの本棚に資料もありますが、わからないことがあればその都度職員に聞いてください」


指差された本棚を確認して頷く。


「はい。では以上となります。依頼の受付もこちらのカウンターですが、常設依頼であれば達成後の受付で構いません」


礼を述べてその場を離れると、まずは紹介された資料を確認する。シオンはいつの間にか側に控えていた。


懲罰の項目を確認したが、故意に依頼の失敗を繰り返したり魔物を擦り付けて他人に損害を与えたりしなければそうそう懲罰対象にはならなそうだ。


「シオン、少しだけ町の外を見に行ける?この辺りに自生している薬草を確認したい……あと、テイムできる魔物いるかなーって」


「わかりました。念のため装備を整えてからにしましょう。防具はともかく、採集や解体に使うナイフは自分用に揃えておくべきです」


「防具はいらない?」


「今お召しになっている服を越える性能の品は、この辺りでは手に入らないでしょうね……」


「あ、そういう……兄様ってば……」


深く考えてはいけないと言われたので、クロードは何も聞かなかったことにした。

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