焼き芋チケット 双子連れリレー
文化祭は土日に開かれるところが多いようだ。
外部の人間が訪れやすいように配慮しているのだろうが、小学二年生の双子の弟妹の面倒をみなければいけない
「いい? 良い子にしているのよ」
「子供じゃないよ」
確かに同じ年頃の子よりはしっかりしているが目を離すと何をしでかすか分かりやしない。
異父弟妹とはいえ、母親と自分の血を引いているのだからと明音は思った。
そうして子連れ登校する。
家の事情を知っているクラスメイトと担任の
しかしずっと一緒にいるわけにもいかない。明音にもノルマはある。
クラスは昔ながらの子供の遊びという展示とデモをしていたから小さい子も多くいて、双子も楽しんでいたのだが、それも午前中で飽きてしまった。
それで二人を外へ連れ出し、いくつか出し物をみて回ったが、明音がボランティア部の手伝いをする時間帯になってしまった。
誰かに頼もう。
そういうベビーシッターのような人物が簡単に見つかると思っていたのだ。
まあ何にせよなんとかなる、と思うのは性格だ。
明音の目にひとりの男が映った。
こいつなら受けてくれるな。
明音はニターと笑みを浮かべて、後ろからその男の肩を叩いた。
「
「ん、あか、いや、
鮎沢は同じマンションに住む同級生だ。双子が
「ちょっとの間、この子たちの面倒みてくれるかな?」
「ああ、一時間くらいなら」
不思議そうに見る双子に向かって鮎沢は手を振った。
「あ、
「ほんとだ!」
「そうです、
「何でそんな変な格好してるの?」
「怪しい奴だよ」
特におかしな格好はしていない。普通に制服姿だ。
「ここではこの人、こんな
大きな黒ぶち眼鏡に前髪がかかっていて表情が読めない。
陰キャバージョンの鮎沢を双子は見たことがなかった。いやエレベーターなどで会っているはずなのだが気づかないのだろう。鮎沢の擬態だった。
「とにかくよろしくね。これあげるから」
明音は鮎沢に焼き芋チケット十枚綴りを手渡した。
「分かったよ」鮎沢は快く引き受けてくれた。
ただ、双子を連れていると人の目を集める。
「まあ可愛い!」
そういう声を聞いて
模擬店で焼きそばを食べたりして過ごしたらあっという間に一時間が過ぎた。そろそろ軽音同好会に合流しなければならない。
自分が一番
目がつり上がった
「
「「観たいな」」
「じゃあ誰か一緒に観てもらう人を探そう」
当てはないが、少し離れたところに学年一目立つ対象がいた。しかも双子にとっても馴染みだ。
「あそこにいるのはだーれだ?」
「「
「じゃあ駆けっこだ」
双子が駆けていった。
いきなり焼き芋チケット七枚を渡され、
鮎沢はクラスメイトだし、鮎沢の妹
そう思って楽しんでいたら
あちこちで助っ人をしているからとても忙しいのだ。
どこにいても遼はすぐに駆けつける。五分もたたないうちに現れた。
「何かあったのか?」
「莉音玲音と一緒なの、エヘ」
遼はすぐに察して眠そうな目になった。
「「
孤高の美少年にまとわりつく子供はこの世界ではこの双子だけだ。
しばらく四人で歩いた。双子の男女が双子の
「ごめん、遼、あとよろしくね」
ひきつったような顔は見ないでおこう。
天は気まぐれを起こす。
ひとりになりたいと思っていた遼に妹から連絡が入った。わざわざ呼ぶのは何か困ったことがある証だ。
すぐに向かう。
待っていたのはよく知る双子を連れ、苦笑いした妹だった。
はじめは四人で動いたがすぐに妹は用事でいなくなった。焼き芋チケットを四枚手渡して。
今度は子連れになってしまった。
先ほどは訳の分からない
「焼き芋食べる?」
「「さっき食べたよー」」
「そうか」
一旦自クラスに連れていったが、環境問題を考える展示とプレゼンを見たら渋い顔をした。やはり子供にはうけないか。
「大変ね、
いつもなら笑顔で絡んでくる学級委員の
やはり暇人は損をする運命にあるようだと遼は思った。
ふと思いつき、遼は双子をまた外へ連れ出した。あそこならあるいは。
文化祭実行委員会の本部横に生徒会本部もあった。先ほど
迷子ではないがここなら子供の面倒もみてくれるのではないかと淡い期待を抱いた。
そこにいつものように人を寄せ付けない能面の美女を見つけて遼は胸を撫で下ろした。
遼に気づいた彼女は珍しく顔をしかめた。
「訳ありのようね。それもとってもたくさん」
「分かってくれてとても嬉しいよ」
「「あ、いっちゃんだ!!」」双子が目を輝かせた。
「こんにちは」
このサイボーグみたいな生徒会長に対して「いっちゃん」と呼びかけ、しかも微笑みを呼び出す子供はこの二人だけだろう。
滅多にない生徒会長の微笑を目にして、そこにいた生徒会役員共は皆自分の目を疑っているようだった。
遼が事情を話し、東矢が双子に話を聞いた。
「お疲れさま、香月君。私が責任をもって小早川さんに双子を返すわ」
ようやく自由だ。もう一度やり直そう。至福の時を。
何か忘れているなと思っていたら弟妹を連れてきていたんだった。
さてどこかな?
「「お姉ちゃん」」
莉音玲音の声の方を振り向くと双子を連れた
「なんだ、
「長い旅だったようよ」と言って泉月は焼き芋チケットを二枚出した。「これは返しておくわ」
「八個もよく食べられたね」
「「一個ずつだよ」」
「
「
「そうなの?」
双子がうんうん頷いた。
「良かったねえ」明音は莉音玲音の頭を撫でた。
きっと楽しい一日を過ごしたのだろう。
明音はふたりの笑顔に目を細めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます