舞台【モンドウ無用のラブコメ】
俺たちのクラス二年E組は文化祭で舞台劇をすることになった。
仕掛人はもちろんクラスの女子学級委員にして「悪役令嬢」を自認する
俺は彼女のことをアザミ嬢と呼んでいる。
アザミ嬢がシナリオを書き、配役を考え、自らも脇役となってできた舞台劇が「モンドウ無用のラブコメ!」だった。
ハッキリ言って問題作だった。アザミ嬢は現実と虚構をやたらと混淆させたがる。
これを観た観客生徒はいったいどこまでがフィクションでどれがリアルか悩むことになるだろう。
二日間の文化祭で一日一度、計二度の公演がある。一日目にネタバレするわけだから二日目の公演はおまけになってしまうと思いきや、気になった生徒はきっと二度観するに違いない。
生徒会や教職員に反感を買われなければ良いが。
そして文化祭当日。舞台裏にはなぜか
「まあセンセ、よくぞお越し下さりました」アザミ嬢がまさに悪役令嬢ばりに先生を迎える。
「君のシナリオと聞いてぜひ観たいと思ったよ」御子神先生は我が校の演劇部の顧問である。「なあマリウス」
俺――樋笠大地は演劇部の公演でマルセル・パニョルの「マリウス」の主役をすることになっていたから先生は俺をマリウスと呼ぶ。俺の呼び名はその都度変わる(笑)
さて時は来た!
俺たちの出番だ。
主人公は
二人は幼馴染みで、校則に違反してひそかに付き合っている。その二人の関係を怪しむ者たち。果たして二人は追及者の手を振り切って恋愛を成就させることができるのか?というラブコメだ。
実のところ、この二人は確かに幼馴染みらしいが付き合うところまではいっていない。
しかしアザミ嬢はこの二人を恋人同士にしたいようだ。なぜかそのような妄想を抱いてしまった。
そしてその妄想はそのままアザミ嬢の中で真実となり、「私が二人をサポートするからね」と目をキラキラさせることになってしまった。
なお俺は
アザミ嬢は二人を糾弾するものの最後は二人の味方になるというおいしい役だった。
そして悪役はやはり学校の先生たちと生徒会役員共だ。これら有象無象を蹴散らして二人は結ばれるという話だ。
生徒同士の恋愛を禁じるというわが校の校則へのアンチテーゼとなった喜劇なのだ。共感する生徒は多いに違いない。
終わった頃に
アザミ嬢がそこまで狙っているかわからない。いや狙っているな。彼女の頭の中で真実と虚構が入り交じっている。
観た者が揃ってこれが真実だと思わないかとても不安だ。
しかし俺たちのクラスは誰もこのラブコメを舞台化することに異を唱えられなかった。それくらいアザミ嬢は我がクラスにおいて実権を握っていた。悪い人ではないのだけれどね。
舞台は無事進行し、いよいよクライマックスへと至る。
校舎裏で密会していた門藤君と幡野さん。
その現場を生徒会役員共がおさえる。
二人のサポーターになったアザミ嬢が得意の弁舌で役員たちを言いくるめる。
それを見た俺、樋笠が心を射たれ、幡野さんへの思いを断ち切ってアザミ嬢に恋心を抱く。
いや、芝居の話だ。
それにしてもアザミ嬢、おいしすぎない?
それで窮地を乗りきったかというところでラスボス登場。堅物の生徒会長だ。
その瞬間、観客席どころか舞台にいた俺たち二年E組役者まで全員が凍りついた。
そこまでやる?
ライトが当たるそこに
「あなたたち、何をしているのです? この状況を説明できる人はいますか?」
口調やトーンまで
リハーサルの時、伊沢さんはふだんの三つ編み眼鏡女子で
しかし本番の伊沢さんは違った。ストレートの黒髪を背中に流し、目を切れ長にして吊り上げている。当然のことながら眼鏡はしていない。
そこにいるのは
「ぼ、僕たちは信じる道を歩む」
会場がどよめいている。
「あ、あなただって男子と付き合っていたことがあるでしょ!」
てか、それ、ここで言って良いのか?
「そう、そこまでの覚悟があるのなら不問にします」するんかい!ってみんな思っただろうな。
そしてどうにか役者たちは冷静さを取り戻し、ハッピーエンドとなった。
予期はしていたが、アザミ嬢が目立ち、最後は伊沢さんが全部持っていった。
拍手喝采の大歓声。恋愛禁止の校則を見直すきっかけにはなるだろうな。それくらい共感している生徒たちは多かった。
でもやっぱりミスキャストだ。アザミ嬢、策に溺れたな。
伊沢さんを生徒会長にしたのは間違いだった。いくら伊沢さんと泉月が同じ日に生まれた実の姉妹だからって、そのことは公表されてないからみんなびっくりするよ。
そのせいで、主役の
これじゃ本当に「モンドウ無用のラブコメ!」だ。
ん? それを狙ったのか?
まあ良いか。
俺は苦笑いしながら沸いている観客席を見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます