第36話

そんな考えしか浮かばない私は、本当に首をかしげるしかできなくて。


 その様子が、多分とぼけているように感じたのだと思う。朝比奈さんは、盛大に舌打ちをしたかと思うと、私の腕を掴んだまま部屋の中に入り、勢いをつけて私をベッドの上に放り投げた。


 痛みはないけれど、これからされるだろうことに瞬間的に理解してしまった私は恐怖で体が強張る。


 私は、まだ未通だ。誰にもこの体を触らせていない。それなのに、今、朝比奈さんは怒りに任せて、私を多分、抱こうとしている。



「ま、待ってください、朝比奈様! 何か誤解をされています!!」


「誤解? 何が?」


「私は、まだ……っ!!」


「華の話では、君は随分と男とそういうことをしてきたそうだね? ちゃんと避妊していたの?」


「!?」


「その腹に宿すのは、誰でもない。今は僕だけだろう? それなのに、こうも堂々と浮気をされるとはね?」


「違っ、違います! 話を聞いてください!!」


「まだ言い訳を続けるつもり? なら、その口は塞いでしまおうか?」



 そういうや否や、彼はタオルを取り出して私の口に詰め込んでくる。それを吐き出されないようにするためにか、さらに別のタオルで口元を覆われる。


 だめだ。今この状況で、この人に体を許して仕舞えば、私はきっと後悔する。私だけではない。この人だって、もし気づいてしまったら後悔するかもしれないのだ。


 なんとしてもやめさせないといけないのに、声が出せないのはすごく不便で。


 彼は私が抵抗しているにもかかわらず、私の服を次々に脱がせていく。


 だめ、やめて。これ以上は……っ!!



 ――結局、私の願いも、思いも、声も。彼に届く事はなく。私はその日、彼に無理矢理、純潔を奪われたのだった。



**



 痛みに涙を流していたのを覚えている。引き攣るような痛み。けれど、彼は怒りのあまり、私が未通であることに気づかずに、強引にことを進めた。ただただ、自分の欲望を私にぶつけて、私は、それを必死に、わからないまま受け入れることしかできなくて。


 途中、泣いているのが鬱陶しいと言われ、枕を顔に押し付けられる。けれど、それは私にとっても僥倖で。


 私の涙を枕が全て吸い取り、私の悲鳴を枕が全て吸い取って、私にとってとても長い夜は終わりを迎えたのだ。


 欲望を吐き出した彼は、終わったことに多少胸がスッとしたのか、私を放置したまま部屋を出ていく。


 私に向かっての嫌味は忘れない。



「よくもまあ、こんな部屋を望むことができたな」



 と。


 多分、この部屋のインテリアのことを言っていたのだと思うけれど、彼は、この部屋のインテリアを私が望んだと思っているらしい。


 あれほど華と仲良さげにしているにも関わらず、まだ華の趣味がわかっていないのかと半ば呆れながら、私は一晩中泣き続けて腫れてしまった目をどうすれば良いのかわからない。


 ベッドのシーツを見れば、よく見ないとわかりにくいけれど、血がついてしまっている。固まって乾いている部分は確実に血がついているのがよくわかる。


 ……生理といえば、誤魔化せるのだろうかと考えながら、だるい体を持ち上げて、時間を確認する。

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