第35話

愛さんに出迎えられてそのまま家の中に連れて行ってもらい、ご飯をご馳走になる。相変わらず美味しいご飯を食べさせてもらいながら愛さんの話を聞きながら、箸を進めていけば自分が思ってたよりもご飯を食べることができて少し安心する。


 会社では、小さな弁当すらも食べきれなかったため、本気でやばいなと思ってはいたけれど、今これだけ食べられるのならばまだ大丈夫だろうと思う。


 ついでにお風呂にも入っちゃいなさい! と言われてそのまま着替えなどを持たされたまま洗面所に突っ込まれてしまう。申し訳ないと思いつつもありがたくお風呂を借りてゆっくりと湯船につからせてもらう。


 林さんのお宅にきた時にしか、相変わらずお風呂の湯船に浸かることができない私は、多分ここだからこうして甘えているんだろうと自分でも思う。いつもすみませんと謝れば、謝らないでと言われてしまい、それからは少し照れくさいけれどありがとうございましたといえば嬉しそうにどういたしましてと返してくれる2人に、私はようやく、笑みを見せることができたのだった。


 林さんの送りでもう一度マンションまで帰ってきた私は、林さんの親切を断って1人でマンションの家に帰る。鍵を差し込んでそっと開ければ、そこに誰かがいる気配は全くない。


 それにほっとしながら私はそっと玄関を閉めて鍵をかける。一応ロックもしているのは、私自身が一人暮らしをしていた時の癖なのだろう。


 そうしてトコトコと部屋に向かって歩いていく、部屋の扉を開けて中を見た瞬間、とても驚いた。


 部屋のベッドの上には、なぜか朝比奈さんが、座っており、扉の方――つまり私を睨みつけている。


 なんでここに、と声なき声でつぶやきだけを落とせば、朝比奈さんが突然立ち上がり私の前までズンズンと歩いてくる。


 そして、私の腕を思い切り強く握りしめた。


 痛みに顔をしかめてしまう程度には強いその力に、けれど何かをいうこともできなくて、痛みと困惑の混じった表情で朝比奈さんを見上げる。



「僕の妻という自覚は?」


「え……?」


「こんな夜遅い時間まで、あなたは一体何をしていたのかな?」


「……? 私は、林さんのご自宅にお邪魔を……」


「嘘だろう」


「……嘘ではありません。林さんに確認していただければわかります」


「それなら、なぜ君はすでに入浴を済ませている? つい今さっき、帰ってきたばかりだよね?」


「林さんの奥様に、入浴もしていけばいいとご許可をいただいたので、先に済ませて参りました」


「……こんなにもバカにされているのは、きっと生まれて初めてだ」



 この人は、一体何を言っているのだろう。

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