第34話

仕事が終わり、会社から出るときも最近は同じ部署の人が外まで一緒についてきてくれたりする。日常のなんてこともない会話をしながら下まで降りれば車のそばに林さんが立って待っていてくれて、そこまで一緒に付き添ってくれる。私を林さんに引き渡してからじゃあまたね! と言ってみんなは帰っていくのだ。


 今まではこんな事はなかったのだけれど……とこれも不思議に思いながらそれでも今日も私は林さんにお願いしまうと頭を下げてから車に乗り込む。


 一度、息子さんはどうしたのかと聞けば、あれにはあれの仕事があるのでしょう、とにっこりと笑いながら答えられて、それ以上聞くのをやめた。


 まあ、別の仕事をしているのなら良いのかな、と思いつつ、私は林さんのお話に耳を傾けながらマンション前まで送ってもらう。


 今日もありがとうございましたと言って降りる準備をしていたけれど、林さんがなかなか動かなくて、私は首を傾げる。どうしたのかと思って視線を前に向ければ、そこには朝比奈さんと一緒に1人の女の子が立っている。そばには林さんの息子さんもいて、林さんはものすごい視線を前方を睨みつけていた。



「……林さん……?」


「!! ああ、これは失礼いたしました。ここまできて申し訳ありませんが、目的地を変えましょう。我が家へ向かいます」


「え、で、でも……」


「ハニーも、あなたを待っていますよ」


「……わかりました。その……ありがとうございます……」


「いえいえ。では、行きましょうか」



 そう言って、林さんは即座に車を発進させて林さんの自宅に連れていってもらったのだった。


 車の中で、私は考える。あそこまでマンションの前で堂々と華と会っているのなら、私との結婚を早く破棄して、華を迎え入れた方がいいのではないだろうか。周りの目がと言っているわりには、見境ないような気もする。そもそも、私が使わせてもらっている部屋だって、華の趣味に合わせたものなのに、私がまんま使っていては結局華は全ての入れ替えを申し入れるような気もする。


 まあ、朝比奈さんの稼ぎならばそんな事は痛くも痒くもないとは思うけれど、せっかくの家具たちが勿体無いし、かわいそうだと思ってしまうあたり、私は金銭感覚がちゃんと一般的なんだろうなとぼんやりと考えた。


 そんなことを考えている間に、林さんのお宅につき、中から愛さんがぱたぱたと出てきて出迎えてくれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る