第37話

痛み訴えてくる体を自分でさすりながら、ちらとあたりを見れば、一応避妊した痕跡がそこかしこに残っていてちょっと安心する。流石に、避妊されていなかったら産婦人科にいかなければと思っていたため、その心配がなくなったのは精神的にありがたい。


 まだ、いつもよりよほど早い起床時間だけれど、正直、もう我慢できない。お風呂にはいってシャワーをびたい。体を洗いたい。


 ――気持ち悪い。


 ふらふらの体を押して、私はなんとか洗面所に着く。朝比奈さんはすでにシャワーを浴びたあとらしく、お風呂の床は湿っていた。けれどそれならばもうここには来ないだろうと思い、私は遠慮なくお風呂に体を滑り込ませシャワーの栓を思い切りひねる。冷たい水が体にかかり、それでもそんなことを気にすることができないほど、私は多分、混乱していたのだと思う。


 昨夜、朝比奈さんの手がなぞっていった場所が、怖くて怖くて仕方がない。あの感触を早く忘れたくて、私は必死にボディー用スポンジに手を伸ばし、それにこれ以上ないほどにボディーソープを乗せて、力任せに自分の体を洗う。強く擦りすぎて、皮膚から血が滲んでいてもそれを気にする余裕なんてどこにもない。一刻も早く、私は自分の体に刻み込まれた恐怖を拭い去りたくて仕方がないのだ。


 時間が許す限り、私は自分の体を洗い続けていた。



 **



 まず最初に、林さんにひどく心配された。目の腫れが全然引かなかったのが原因だということわわかっているため、なんとかごまかしにもならないことを言って、会社付近まで送ってもらう。本当に大丈夫かと再三聞かれたのに、大丈夫と言葉を返して私はそのまま、会社に出社する。自分の部署につけば、今度はわまりにとても心配されて、仕事がなかなか進まなくなってしまい、困惑してしまう。


 休憩室に押し込まれて、とりあえず目元を冷やした方がいいからと言われ、冷たいタオルで目元を冷やす。


 割と長い時間そうして、ようやく目元の腫れが引いたため、私はそっと休憩室から出て、心配をしてくれた人たちにもう大丈夫だからと言って、席に戻る。


 さあ仕事をしよう、と思ったとき、体が椅子ごと後ろに引っ張られて驚きで小さく悲鳴をあげてしまう。


 周りが驚いたように私の名前を口々に叫んだけれど、それを気にする事はできない。


 私の体を引っ張ったのは、他でもない。昨夜、私を無理やり暴いたその人だったのだから。

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