第24話
結果から言えば、林さんの奥さん――愛さんには、ものすごく心配されていた。林さんと同じように、愚息が、という文句からこれ以上ないほどに怒っておいたからという言葉も加えられながら愛さんは私の体を抱きしめて離さない。ちょっと苦しいぐらいの抱擁に、それでも私は、あんな一方的なメッセージを送ったのにこんなにも心配してくれていたという事実に、涙腺が緩くなる。
じわりとにじみ、流れそうになる涙をなんとか腹にぐっと力を入れ、顔を引き締めることで溢れないようにと注意しながらも、抱きしめてくれているその体に思わず縋り付いてしまっていた。
この暖かさは、本当に、本当に久しぶりの暖かさだと思った。
「……紬のこと、気にしてくれてありがとうございました、林さん」
「いえ。元はと言えば、愚息の浅はかな行動が原因です。どれだけの謝罪を述べても足りない程、紬ちゃんには辛い思いをさせてしまいしまた」
「まあそうですね。紬を傷つけたことは許せません」
「ええ、許さないでください。人を簡単に傷つけられる人間に成り下がってしまうとは……わたくしとしても、お恥ずかしいばかりです」
「……そうですね。ほんと、なんであんな簡単に一方の言葉だけを鵜呑みにして、しかもそれを信じ切ることができるのか、不思議でなりませんね」
私が愛さんにしがみついている時、莉子ちゃんがそんな話を林さんとしているとは思っていなかった。
そんなこんなで、私は林さん夫婦とは和解することができ、出勤と退勤の送り迎えをしてもらっている状況だった。
そしてこれも必然だけれど、わたしは林さんに通院を手伝ってもらっている状況だった。別に骨折とか、入院とか、そんな大袈裟なことではないけれど、もし1人で出かけた時、どこかで偶然に出会ってしまわないかと心配していると言われて仕舞えば、私も下手に断ることは難しい。
スマホはすでに修理から帰ってきて、アドレスにはいつもの三人と、さらには林さん夫婦のものもすでに登録されている。
愛さんはいつでもきてね、と強く言ってくださり、あれからも実は遊びに行かせてもらっていたりもする。
暖かな家庭料理を食べさせてもらったり、お礼に私が手料理を振る舞ったり。そんな何気ないやりとりは、私の心を穏やかにもしてくれるし、良いガス抜きにもなったりしている。体の怪我のことも、すでに2人には話しているため、下手に気を使う必要もないということでたまにお風呂も借りている。
変わらず、私はいまだにあのマンションではシャワーだけの生活を送っていて、それを心配した愛さんがやっぱりお風呂を貸してくれた。
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