第23話

流石にそれはできませんと答えたけど、林さんも今回は引く様子がなく、しばらく押し問答のようになってしまった。けれど、会社へ遅刻する旨の電話を入れたとは言え、これ以上遅くなるわけにはいかず、私は急いでますからと断りを入れてその場を後にしようとしたけれど、送りますと再び言われて仕舞えばそれを無碍にすることもできなくて。


 結局、私は一度信頼を寄せた人を完全に切り離すことができず、林さんに送ってもらうこととなった。流石に会社の前まで送ってもらうのは気が引けたのと、また余計な噂を呼ぶことになるからと思い、林さんにそのことをためらいながらも伝えれば、わかっていますよと、優しく微笑んでくれた。


 車で送ってもらったこともあり、私は遅刻時間をギリギリ回避することができ、出社する。時間ギリギリに出勤した私を見て、一緒に働いている人たちも電話を受けた上司も驚いていたけれど、色々とオブラートに包みながら説明を上司にのみするために少し時間をいただいて別室で説明をする。


 個人的事情をどう言おうかと考えていたけれど、それにはあえて触れずにくれた上司に感謝をしながら「まあ、間に合ってよかったわね」と笑って頭をぽん、と軽く叩き撫でてくれた。


 それからはいつも通りに仕事をして、お昼は莉子ちゃんと食べて。また午後から仕事をして。


 本当にいつも通りの行動をしていたけれど、帰りはやっぱり、林さんが外で待っていて。


 このとき、流石に私を一人にできないといって莉子ちゃんが最速で仕事を終わらせて、私の部署の部屋のすぐ外で待っていたのには正直驚いた。今日は一緒に帰るから! と強い意志で言われて、思わずこくりとうなずいた。


 莉子ちゃんと並んで社外に出て、林さんを見つけたのだ。すでに事情を知っている莉子ちゃんは、林さんを警戒して目に力を入れて睨みを効かせている。そんな莉子ちゃんの行動に、林さんは申し訳なさそうな表情浮かべて、とりあえず、車の影まできてください、と言い私たちを誘導してくれる。


 車の影まできたときに、林さんが今朝と同じように頭を下げて謝罪を繰り返してくれた。


 お昼時間の時、私は莉子ちゃんに事情を軽く説明していたのもあって(細かい事はなにも伝えていなかった)、莉子ちゃんは少し驚いたような表情を隠せずに固まっていた。



「今朝も申しました通り、家内にあっていただけないでしょうか……?」


「……どういうこと?」


「あなた様は、紬ちゃんのご友人ですね。申し遅れました。わたくしは林と申します」


「林……? まさか、あの失礼極まりない世間知らずのバカの……?」


「莉、莉子ちゃん……!」


「いえ、その通りですのでお気になさらず。あの愚息にはもう会わせないように細心の注意を払います。お迎えも、わたくし一人で担います」


「……でも、今朝も言いましたけど、私にはその資格が……」


「連れてって」


「莉子ちゃん!?」


「ここでうじうじと悩んでてもしかたないでしょ。それに、この人は悪い人じゃなさそうだし。家内にあってくれってことは、あの時紬のアドレスに入っていたのはこの2人なんでしょ? あんたは自分の感覚を信じなさい。間違っていないんだから」


「……莉子ちゃん……」


「ありがとうございます。では、莉子様も車に乗っていただけませんか? 流石に、紬ちゃん1人では不安だと思いますので」


「良いですけど……なんで紬の名前? なのに敬語? ちょっと違和感がすごいんですけど……」



 割とどうでも良いツッコミをしながら私たちは林さんの自宅に向かったのだった。

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