6月 続く不運
第21話
ようやく6月に入り、梅雨の季節になってきた。
雨で潤うはずのこの季節に、しかし私はすでに憔悴しきっていた。あれから、頻繁にと言うわけではないけれど、5月にあった時のようなことが起こっている。その度に、私はそれなりに温度の高い飲み物をぶっかけられることになり、最終的には火傷がなかなか引かなくて医者にかかってしまったほどだった。
もちろん、DVを疑われることは必然であったけれど、私はそれでも違うの一点張りを通してなんとか過ごしている。そんなあからさまな嘘の言い訳が通じているのは、幼い頃から私の診察をしてくれているかかりつけの病院だったからこできたことでもある。
何か悩みがあるなら一人で溜め込んではだめだよと、すでにおじいちゃん先生となった先生に優しく諭されて、私はその場で泣きそうになった。
多分、おじいちゃん先生から連絡が入ったのだろう、莉子ちゃんがものすごい勢いで私に問い詰めてきたため、最初のうちはなんとかかわしていたけれど、それも無理になってきて結局は私が折れる形になり、できるだけオブラートに包んで話をすることとなった。
「…………………へぇ? それで?」
「…えっと、莉子ちゃん、そんなにも怒らないで……?」
「紬が怒れないから、怒るの。だから気にしないで」
「莉子ちゃん……」
「まあ、もうあんなクズ男のことはどうでもいいわ。それよりも体の火傷は大丈夫なの?」
「あ、うん……病院に行くの、ちょっと遅かったみたいで少し痕にはなるって言われたけれど、目立つ場所じゃないし、服を脱がない限りは見えない場所だから、大丈夫」
「そう言う問題じゃないけれどもね? ……まあ、おじいちゃん先生の病院に通院しているなら、今はなにも言わないわ。それよりも、睡眠不足もあるんでしょう? 大丈夫?」
「あー……三ヶ月、くらいはたったんだけど、やっぱりあの部屋、私には慣れなくて……」
苦笑いをして、私はそう告白する。結局、何ヶ月たっても慣れないものは慣れないのだと自覚する。多分、ここは私の場所じゃないと言う意識も相まって、眠りが浅くなってしまっているのだと思う、と莉子ちゃんに説明すれば、泣きそうな表情で私を見つめ、そして抱きしめれくれた。
「何度も言うけど、あたしは、なにがあっても紬の味方だから……!」
「……うん、ありがとう。莉子ちゃん」
そう言って、私も莉子ちゃんと同じように背中に手を回して抱きしめ返す。
今のところ、直接暴力を振われることはないため、まだ大丈夫だと思う。体に傷痕が残ってしまうのは、産んでくれたお母さんには本当に申し訳ないけれど、それよりも、私は自分が壊れないようにすることの方が大切だと、まだ思えている。
だからこそ、今のこの現状をまだ耐えてることができているのだ。
「莉子ちゃん、いつも、ありがとう……」
「紬の力になれるのなら、なんでもするわ、なんでも相談して。あたしは、あなたを助けたいの」
「いつも助けられてるよ。本当に。ありがとう」
そう言って、私たちはお互いに仕事に戻った。
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