第20話
朝食を作っているときは、まさに地獄だった。どう動いても、監視するような視線が私を責め立てる。手が震えるのをなんとか抑えながら、できるだけ自然に見えるように料理をして、多くの品数を作っていく。作れるものなんてたかが知れているけれど、それでも、早く、作らなければと思う。
できたものをどんどんと二人の目の前におくときは、恐怖と緊張で、本当にどうにかなりそうだった。
「わぁ! すっごいたくさんあるね! ありがとう、お姉ちゃん!」
「……あなたが、喜んでくれたなら、よかったわ。じゃあ、私は仕事の準備があるから、ゆっくりと食べてね」
そういって、私はできるだけこの場に長く留まらないようにと踵を返す。それなのに。
「ねぇ」
「!?」
呼び止められたその声に、体が跳ねる。これ以上、私を追い詰めないで欲しい。これ以上……私を……っ!!
「僕のコーヒーは?」
「申し訳、ありません……すぐに、ご用意いたします。朝比奈様」
「そう?」
そう言って、私はもう一度キッチンに立ち、コーヒーを入れる。私は飲まないため、きっとここに置いてあるものが彼が買ってきたものなんだろう。そう思って、ドリップしたものを彼の目の前にことりと置いた。
手を伸ばしてそのマグカップを手に取ったと思ったら――。
「お前が入れたものを、僕が本気で飲むと思っていたの? 浅はかで、とても愚かだね?」
そう言いながら、彼は、入れたばかりのコーヒーを、私に目がけて投げかけた。
一瞬、なにをされているのか、理解ができなくて。それでも、じわじわと熱さが体を蝕んでくるのを自覚する。熱い、そう思うのに、その場から動くことができない。
そんな風に呆然としている私をよそに、彼らはすくっと立ち上がり、私が作ったものに手をつけることもせず、話しながら家を出ていく。すでにスーツに着替えていたし、本当は朝食なんて済ませていたのかもしれない。それなのに、わざわざ私に作らせた意味とは、いったいなんだったのだろう。
ああ、そうか。
これも、嫌がらせの一環なのか。
こうやって、私はあの子にどんどんと悪者にされていく。
助けてと叫んだって、誰も助けてくれないことは知っている。けれど。
「……っ」
二人が完全にこの家を出たことを耳で聞きながら、ついには溜まった限界が、涙となって決壊したのだった。
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